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リバース ワールド オンライン  作者: 白黒招き猫
サイドストーリー  ボーンナイト
189/228

巨神

 厄介な加護に満ちたフロアも、カラクリさえ解れば攻略は難しくなかった。

像を全て破壊し、本来の力を発揮できるようになった我々は転移陣を発見した。

さて、次はどんな仕掛けが待っていることやら。


「おお~、長い橋……」


「それよりアレが気になるんすけど」


 たどり着いたのは長い橋だった。

ただし、長さに対して幅はそれ程でもない。

非常にバランスが悪いように見える。


 アーチ状の天井と壁には無数のオブジェが設置されていた。

口を開いた蛇。

いかにも何か吐き出しますよ、という雰囲気である。


「おいおい、下も負けず劣らずだぞ」


「下? 穴じゃないんですか?」


「そういえばボコボコ音がしますね」


「湯気も出ているっすね」


 溶岩でも湧いているのだろうか?

橋の下をのぞき込んでみると、無色の液体が泡立っていた。

まさか普通のお湯という事は無いだろう。


「なんか薬品みたいな臭いがしますね……」


「下の液体の臭いだろうな。何かのダメージトラップだろうけど、見たことないタイプだな……」


「これ落としてみます」


ポイッ    ヒュー    ジュッ!


 放り込まれた肉は溶けて消えてしまった。

少なくともお湯ではない。


「これは酸の海ってやつだな」


「腐海にもあったやつですね……」


「こんなに強力だったかな? なんか沸騰してるし」


「何で橋が溶けないんだろ?」


「それ、禁句」


 取り敢えずこの橋のコンセプトは見えた。

周囲の蛇の像から何かが打ち出され、食らうと酸の海に落とされるのだろう。

橋の支柱には梯子が付いている。

落ちたらこれで登れという事か。


 実のところ、上級プレイヤーにとってはモンスターよりトラップの方が痛い。

トラップは最大HPに対する%でダメージが決まる。

よってモンスターの攻撃は防御力で減らせても、トラップのダメージは基本的に減らせないのだ。


 対トラップ用のスキルも存在するが、そうなるとトラップの一撃の軽さがネックとなる。

わざわざスキルを鍛えて軽減する必要があるのか? という心理が働くのだ。

実際、致命傷を負うようなトラップは極僅かである。

その極一部であるギロチンやガス室にも、必ず停止させる装置がある。


 毒や麻痺のトラップも耐性を高める装備があれば問題にならない。

序盤は厄介だが中盤を過ぎるほどに罠の脅威は減っていく。

そうなると大半のトラップは漢解除が基本なのだ。


「ま、行くしかないな」


「そうっすね」


 落ちなければ問題ないだろう。

そう判断し、足早に突破を図る。


ボッ! ボッ! ボッ! ボッ! ボッ!


「うおっと!」


「来た来た!」


 壁一面の像から火球が放たれる。

橋に着弾した火球は破裂し、強烈なノックバック効果を発生させる。

問題なのは、その数だ。

雨の様に全方位から降り注いでくる。


「わたたた!」


「あ、やばっ!」


 爆風に押された赤と緑が酸の海に落下する。

ダメージは……1秒間に5%といったところか。

ダメージ床としては高威力だ。


 慌てて梯子を上ってくる2人。

橋の下方には火球はいかないようだ。

それにしてもずいぶん慌てている。

ダメージはすぐに回復したようなのだが……。


「酷い! 酷すぎる!」


「ローブが! 一張羅のローブが!」


「「溶けた!」」


「ナニ?」


「ナンデスト?」


 さすがに主人たちの声が引きつる。

酸の海は装備の耐久度を激しく劣化させるようだ。

2人のローブはかなりの高級品で高品質である。

当然、耐久度も高く設定されているはずなのだ。

しかし、今ローブには破損のエフェクトが出ており、耐久度は50%を切っているという事になる。

たった1度の落下でここまで壊れるとは……。


「くそ! 走るぞ!」


「了解っす!」


「急げ~!」


「やってられるか!」


 慌てて走り出すメンバー。

私も他人ごとではない。

この装備はプレイヤーの物と同じで、耐久値が設定されている。

つまり耐久値が0になれば壊れる。

色々あって金欠の主人にとって修理費はダメージが大きいだろう。

それは避けねば。


「あ!」


「ぐぬ!」


「ここで来たか……」


 必死に走る視線の先。

そこには空中に浮かぶ無数の影が。

翼を持つ巨人ネフィリムである。


 普通ならそれほど脅威ではないだろう。

しかし、ここはあまりに不利だ。

何度も落とされ装備が破壊されれば、いずれ負けるだろう


「無視だ無視!」


「ラジャっす」


「了解です!」


 上位の巨人はそれなりに下僕にしたからだろう。

リッチ達もネフィリムとの交戦は避けて駆け抜ける。

ネフィリム達は決して近寄らず、魔法による遠距離攻撃に徹している。


 だが、おかげで走り抜けるのは逆に楽だ。

武器も防具も無いので、被害の小さいハウルとリンクスが殿となって牽制する。

長い橋をようやく渡りきり、一息ついた時誰かが漏らした。


「……何これ? マラソン?」


「「「……」」」


-----------------


「この先がボスか……」


「長い道のりだったっす」


「登録はしたから、次からはショートカットできますね」


 ようやく到達した最深部。

と、言っても実は入口との直線距離はそれ程でもなかったりするのだが。

少し前の転移陣で中間セーブできたので、もうあの長い遺跡を通る必要はない。

そして、ここで引き返してもいいのだが……。


「どうする? 行くか?」


「うーん、テュポーンってまだ見た人少ないんですよね」


「情報も少ないしなぁ」


「いずれ戦うなら一当てしてもいいっすよね」


「賛成です」


 満場一致か。

やはり好戦的である。

主人が巨大な門を押し開け、ボスのフィールドに踏み込んでいく。

そして見たものは


「は?」


「え?」


「何これ? 怪獣?」


「っていうか、ビル?」


「冗談でしょ?」


 現れたのは見上げる様な巨体の怪物。

途中で見た石像を巨大化したような半人半蛇の巨人であった。

……さすがにまずい。

こいつは私と相性が最悪である。


 巨大モンスターの弱点は頭部、もしくは足である。

しかし、テュポーンの足は蛇であり、狙うべき関節が存在しない。

頭部は見上げるほどの高さにありとても届かない。

さて、どうするか


ゴオッ!


「え!?」 


「避け、いや、防御だ!」


「あ?」


 突然、真横から巨大な壁が迫ってきていた。

主人とゼクはシールドを張って備える。

しかし、リッチ3人は反応が遅れた。


 とっさに私は飛び出す。

盾を構え、武器を交差しリッチ達と壁の間に立ち塞がる。

次の瞬間、すさまじい衝撃と共に視界が回転する。

地面に叩き付けられた私の視界は、次の瞬間暗転した。





 テュポーンの尾による薙ぎ払い。

それが私を倒した攻撃であった。

幸いリッチ3人は、私のガードと自前のシールドによる2重防御で即死を免れたそうだ。

彼らは即撤退し、主人とゼクは情報収集のために抗戦を続けた。


 私の代わりにベルクを召喚した主人は空中から、ゼク、ハウル、リンクスは地上から攻撃を加えた。

しかし、決定打を打てない持久戦になり、遂にゼクも撤退。

主人も1人で粘ったが、HPが減少したテュポーンは風の鎧を纏い主人を圧倒した。

ロンギヌスで風の鎧を斬ることはできたらしいが、そこまでであった。


 結果的には敗北であったが、それなりに情報を集めることはできたので、収穫ありと言えた。

まずテュポーンに挑むには防御よりも回避に重点を置く必要がある。

あの巨体から繰り出される攻撃はどれも必殺、私ですら即死であった。

防げないのだから、かわすしかない。


 次にまともなダメージを与えるには飛行能力が必須という事だ。

腰から下の蛇の下半身は異常に固く、ダメージがまともに通らない。

従魔なり妖精系の種族のスキルなりで飛行し、上半身を狙うことが必須なのだ。


 主人たちの持ち帰った情報は即座に広がり、後のテュポーン討伐の基礎となった。

その過程でリッチ達が情報で儲けたり、主人が料金代わりにケイルやガノンに情報を吐かされたりしたのだが、それは余談である。


 しかし、いくら大ボスとはいえ私が即死とは……。

正直言って予想外であった。

私は強者である。

それは驕りではなく、客観的な事実である。

しかし、単体で言えば上には上がいるという事を思い出す出来事であった。



200話目です。


長々と続いたものですね。


テュポーンはテクニック系のネクロスにとって非常に相性が悪いのです。


スライムにハンマー、ゴーレムにレイピアみたいなものですね。

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