作戦会議と脱線
無敵の敵を防ぎながらの戦闘。
数に劣る状況での乱戦。
相当の苦戦になると予想された。
しかし、これは……。
「これって……」
「少し効いてる?」
先程とは違いダメージが通っている。
本来の4分の1にも満たないが、効くのと効かないのとでは大違いだ。
全員が標的を像から巨人に変更する。
4分の1しか効かないのなら、4倍のダメージを与えれば倒せる。
1体の巨人を全員で狙い、確実に仕留めていく。
1体、また1体と巨人は数を減らしていく。
程なく巨人は全滅し、残った像は無抵抗なのであっさり破壊された。
「妙な感覚が消えたな」
「やっぱり、この像が原因だったんですね」
さて、問題はなぜ先程は敵に攻撃が通じなかったのかだ。
像の間近でも攻撃は効いた。
像から離れるほど効果が強いという線も無いだろう。
この手の仕掛けは中心が最も強いか範囲内均一が基本だ。
主人たちもマップを見ながら、あれこれ相談している。
また敵が無敵で撤退などという事になれば、時間ばかりがかかってしまう。
目星だけでもつけておきたいところだ。
「この丸い部屋に像があるとすると……、ここが現在地点で……」
「ここがスタート地点の扉で……」
「ここは無敵の敵が出た所だな」
この様子を見ると確かにマップは必需品だ。
もし、あそこでマップに気付かず、あるいは無視していたとすれば……。
訳も分からずダンジョン内をさまよい、その内加護を受けた巨人にやられるだろう。
あの全滅したパーティもそうだったのだろうか。
「あ、これって……」
「何か解ったんすか?」
「ここが、無敵ポイント。で、こことここに……」
「成程。重複か」
どうやら有力な仮説が出たようだ。
最初に無敵モンスターと接触した地点は、3つの像とほぼ等距離だったそうだ。
つまり、あの地点は敵にかかる加護が3倍になっていたのではないか? ということだ。
像1つの影響はダメージ4分の1=25%である。
ならば2つで約6%、3つなら約1.5%となる。
いや、まったくダメージがなかったことを考えると、3つ以上はダメージ0になるのだろう。
もっとも、2つの6%でも十分脅威だ。
今回もパーティの攻撃力が高かったから敵を倒せたのだ。
それほど我々は1パーティとしては過剰なほどの火力を備えている。
補助も回復もリーフ任せで全員がアタッカーなのだから、ある意味当然だろうが。
しかし、リーフは目立たないようで実に有能な従魔である。
ちなみにリッチ4人も従魔は持っている。
しかし、彼らの従魔は戦闘向きではないので連れてきていない。
大規模なギルドの属している者には、従魔の役割分担というものがあるそうだ。
その一つが生産系従魔である。
例えばゼク。
彼の従魔は『黒鋼鬼蜘蛛』というランク4の巨大なクモ型モンスターである。
戦力としてもかなりの物らしいのだが、デカくてキモいのでパーティとして連れて歩くと不評なのだ。
しかし、そいつの吐き出す黒い糸は、まるでカーボンファイバーのような強靭さを誇る。
防具の素材として極めて優秀なのだが、一つ大きな欠点がある。
それは黒鋼鬼蜘蛛が敵モンスターとして出現しないという事だ。
雑魚モンスターはランク3が上限なので、ランク4以上はプレイヤーの従魔である。
しかし、その進化の法則は詳しく判っていない。
STや戦闘スタイルによると言われているが、ランダムとも言われているくらいだ。
第3サーバー全体を見ても黒鋼鬼蜘蛛は10体も存在しないという。
そういうわけで、ゼクの従魔であるヤツデ君(足が8本だからか?)は生産者としては大人気なのだ。
職人プレイヤーから買い注文が殺到し、昼夜問わず糸を搾取されているのだとか。
餌として鉱石が必要だが、糸の代金は遥かに大きなリターンとなる。
案外、ゼク本人より忙しいのかもしれない。
他の3人も同様だ。
緑リッチは希少な種を生み出す植物モンスター。
歩くサヤエンドウのような姿の『ピュア・ビーンズ』。
その巨大な豆は最高級食材の一つである。
赤リッチは高品質の羊毛が生える羊型モンスター。
金色の羊毛が美しい『ゴールデン・シープ』。
こいつは足も速いので騎獣としても使えるそうだ。
青リッチは上級ポーションの素材となる蜜を集める蜂型モンスター。
素材採取にも長ける大ミツバチ『ノーブル・ハニー・ビー』。
皆、ギルドホームで素材を提供しているそうだ。
「結局ゴールはどこなんすかね?」
「重複ポイントが正解ルートだとすると……」
「ただ重複するだけなら何ルートもありますよ……」
従魔は一人1体。
よって、どのような役割を与えるかは重要だ。
そして生産系従魔の需要は高い。
理由としては、まず先に述べたようにランク4以上のモンスターは従魔だけだから。
我々使い魔や召喚獣もランク4以上にはなれるが、アイテムを生み出すことはできないのだ。
そもそも、召喚獣の成長は極めて遅い。
成長しないリッチのアンデッド下僕よりマシな程度だ。
もう1つは安定性。
敵からのドロップは出るかどうかはランダムで、さらに質にもばらつきがある。
しかし、従魔は常に一定ペースで素材を生産する。
少なくともボウズという事は無い。
そして従魔が成長してSTが上がり、コンディションが良好だと品質が良くなるのだ。
大量生産品ならともかく、トップクラスのプレイヤーによるオーダーメイドでは素材の品質の差は大きい。
例えばゼクのヤツデ君。
彼の甲殻は黒光りし、目は爛々と赤く輝き、全身の剛毛は針金の様にピンと立っている。
女性プレイヤーから蛇蝎のごとく嫌われる要因だが、これは彼のコンディションが良好である証なのだ。
ゼクは実は彼の健康には大分気を使っているのである。
趣味の錬金に使う素材の代金の内、半分以上をヤツデ君が稼いでいるというのは大きいようだ。
蜘蛛のヒモとは情けない……。
さて、ここで気になるのが我らが同胞リーフである。
獣系の彼は当然毛皮に包まれている。
では、その体毛は素材にならないのだろうか?
そう考える者も多いのではないだろうか。
結論から言うとならない。
彼の毛は抜けないのだ。
カーバンクルの語源は宝石のガーネットとされている。
彼が幻獣であり宝石の精霊であることが理由なのだろう。
しかし、それを知らぬ者にとってはどうだろうか?
リーフの翠玉のようなエメラルドグリーンの体毛を求める者は実に多い。
ケモナー、モフリストなどと呼ばれる者達は変態の域に到達している。
彼らはストーカーの様にリーフを追いまわした。
抱き付き、撫で回し、御神体(体の一部)を得ようとした。
プレイヤーに対するハラスメントペナルティは存在するが、従魔に対しては存在しない。
結果、別に傷付けられた訳ではないのでリーフは泣き寝入りすることになるのだ。
主人はどう見ているか知らないが、私にはリーフの女性不信は結構重症に思える。
以前は暇になると自由に散歩していたのだが、襲撃以降単独行動は決してとらない。
主人のローブに隠れていても追加で隠蔽能力を行使している。
半端ではない警戒心である。
「もう、それでいいんじゃないすか」
「そうだな。シンプルが一番だ」
「そうそう」
「同感です」
どうやら方針が決まったようだ。
どうするつもりなのだろう。
「じゃ、フロアの像を全部ぶっ壊してからゴールを探すという方針で」
「異議なし」
「異議無しっす」
力押しの突破に決定したようだ。
だが、理に適っているとも言える。
危険を排除して安全を確保、探索の基本である。
焦って像を放置したまま、闇雲に探索した方がよほど危険だ。
「じゃあ、近い所から順に潰していこう」
「えーと、まずは西ですね」
「行きましょう」
あれこれ脱線してしまったが、探索再開である。
後日知ることになるのだが、このフロアの像を破壊するごとに大ボスを弱体化させることができるのだ。
偶然とはいえ主人たちは最適解を選んでいたという事になる。
リッチ達の従魔事情の紹介です。
時としてNPCは邪魔になることもありますよね。
獲物を横取りしたり。