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リバース ワールド オンライン  作者: 白黒招き猫
サイドストーリー  ボーンナイト
186/228

醜い争い

 人の欲とは、かくも醜い物なのか。


「「「「ジャンケン、ポン」」」」


「勝った! 3勝目だ!」


 目の前では肩を並べて戦った仲間同士が1つの成果を奪い合っている。


「待つっす! 5勝勝ち抜けっす」


「そうだ! それが良い!」


「賛成! 異議無し!」


「ぐ……」


「……お前ら、程々にしとけよ」


 呆れる主人の足元に横たわる巨体。

背中に小さな羽の生えた巨人『ネフィリム』である。

これの所有権をリッチ達は争っているのだ。


 深部と言っても、出てくる敵全てが上位巨人というわけではない。

むしろ大量の下位巨人に、指揮官として少数の上位巨人という組み合わせが大半のようだ。

初の獲物にお預けをくらっていたリッチ達は欲望のままに争い合う。


「あ~あ、バカ共が……」


 主人の呟きに目をやるとネフィリムは粒子になって消えていった。

時間切れである。

リッチ達はまだ気付かず、10勝に条件を変更していた。

絶望と共に頭を冷やすべきだろう。


-----------------


 さて、話は少し前に戻る。

面倒なので、撃破済みの中ボス『へカトンケイル』はスルーして先に進む。

見えてきたのは巨大な建造物。

城か神殿か良く判らない遺跡だ。


「高いな……」


「山みたいですね」


「標高何千mって感じだ……」


 流石は巨人サイズというべきなのか、建物のパーツが4~5倍位はある。

長丁場になりそうな予感がビンビンする。


「よし、感心しててもしょうがない。行くか」


「了解っす」


 眼前には巨大な門。

これは石柱を起動させていないと、どうやっても開かない。

轟音と共に門が開き通路が姿を現す。


 階段ではなくスロープのようだ。

確かに巨大な階段など並んでいたら、アクション嫌いのリッチ達の心は折れるだろう。

この辺は運営の優しさと言ったところか。

だが、疑問が。


「あれ? 下りなのか?」


「ふえ?」


「これは意外っすね」


 このバカでかい建物を登っていくのかと思っていたが、スロープは下りであった。

そういえば、上空から見たこの建物は王冠のような形状をしており、中心は空いていた。

建物の中を通って中心に行くのではなく、建物の下を通って中心に行くということか。

特に問題は無いが、ダンジョンの規模が解らない。

最悪、浮遊島の地下が全てダンジョンという事もありうるのだ。


「うわ~、天井高いな」


「この高さだと何階層もあることは無いっすね」


「浮遊島の底が抜けちゃいますもんね」


「横も広い……」


 十分なスペースがあることは有利なのか不利なのか。

狭い場所では回避するスペースが無い代わりに敵も一度に襲ってこれない。

これだけ広ければこちらを包囲することも可能だろう。

ただでさえ後衛に偏ったメンバーだ。

位置取りが重要になるだろう。


 階段を降り切るとそこは広場になっていた。

そしてそこには、まだ気付かれてはいないようだが、複数の巨人が待ち受けていた。

盾持ちのジャイアントが4体、火のギガースが2体、そして初見の巨人が1体。

あれは? アンバランスに小さい鳥の翼があるという事は……。


「おおおおおおおお!」


「出た! ネフィリム!」


「おい……。気づかれたじゃねえか」


「ヒッ!」


「君ら何やってるんすか……」


 わざわざ奇襲のチャンスを潰した赤と青に、主人がドスの利いた声をかける。

緑は騒ぐ前に口をつぐむ。

ゼクも偉そうなことを言っているが、2人が騒がなければ叫んでいたはずだ。

結局こいつらは似た者同士なのだから。


 気を取り直して先頭に立つ主人。

私とリンクスも隣に並び、ハウルは後衛の護衛に残る。

主人がギガースを魔法で攻撃、私とリンクスが盾持ちを足止め。

その後、後衛が一斉攻撃といったところか。


 一方、敵も隊列を組み始める。

ジャイアントが左右、ギガースが中央、ネフィリムは後衛のようだ。

力任せに突っ込んできた外縁部の時とは違う。

ネフィリムが指揮を執っているのだろうか。


「お?」


「これは……」


 さらに敵の陣形は動く。

ジャイアントが左右から主人たちを挟むような位置に動く。

さらにギガースが全身に炎を纏う。

そして


ゴオッ!   スドォン!


「おっと、曲射ってやつか!」


「【エクスプロージョン】? ネフィリムは上位魔法を使えるんすね!」


 ギガースを飛び越える様に弧を描き飛来する火球。

火のギガースは誤爆しても平気なので、容赦無くネフィリムは撃ちまくる。

この速さは無詠唱か。

通常モンスターとしては破格の能力である。


「後衛! ジャイアントに攻撃! 俺とリンクスはギガース。ネクロスはネフィリムだ」


 主人は中級氷魔法をギガースに浴びせ、そこにリンクスの光属性の魔力で輝く爪が襲い掛かる。

私はギガースを無視してネフィリムに突っ込む。

後方で爆裂音。

ジャイアントがリッチ達の魔法で排除されたのだろう。


 魔法を使おうとするネフィリムに魔力矢を撃ち込み妨害する。

距離が縮まり、魔法は使えないと判断したネフィリムが拳を振り上げる。

が、もう遅い。


 振り下ろされた拳をハンマーで迎撃。

ベキリとネフィリムの拳が砕ける。

同時に脳天と心臓に槍と大剣を突き込む。

クリティカルヒットだ。


 ネフィリムのHPは一気にレッドゾーンへ突入。

さらに追撃で槍を深く捻りこみ、大剣を横に薙ぎ、ついでに尻尾で下半身を打ち据える。

ネフィリムのHPは0になり、その巨体は倒れ伏した。


「「「「ウオオオオオ! ネ・フィ・リ・ム~!」」」」


 ジャイアントとギガースを無視して突っ込んでくる(欲望の)亡者が4人。

私の記憶では火のギガースは初遭遇のはずなのだが、眼中に無い様だ。

そして始まる争奪戦。


 その結果は……、まあ、見ての通りである。

主人の声に事態を把握したリッチ達。

彼らは……泣いた。

もちろん涙など流れないが、悲哀に満ちた慟哭を上げている。


 彼らが復帰するまで、主人は真っ白な目でその痴態を見つめていた。

さすがにかける言葉も見つからなかったようだ。

主に呆れで。


------------------


 別にこれが最後の遭遇ではない。

と、言うよりまだ最初の1歩である。

これから飽きるほど出るはず。


 このように主人はバカ共を説得し、何とか再起動させた。

その言葉通り、幾度も巨人部隊の襲撃は起こった。

リッチ達の機嫌は直り、テンションは急上昇である。

未だフォモールとの交戦は無いが、このフロアには出現しないのかもしれない。


「ん?」


「何か光ってますね」


「クリスタル?」


 薄暗い通路の端に、身長ほどもある水晶が浮いていた。

緑色に輝く水晶、明らかに何かありそうだ。


「レアアイテムっすか?」


「いや、拾えないな」


「……あ、動かせる!」


 水晶は固定されているわけではなく

押せば動かせるようだ。

邪魔ではあるが、持って行かなければならないのだろう。


 水晶は緑リッチが運ぶことになった。

戦闘時には邪魔かと思いきや、破壊不能オブジェクトなので無敵の盾として使えたのだ。

ただ、妙な事も起きた。


「あ、あれ?」


「どうしたんすか?」


「いや、水晶が……」


 赤くなっている。

そういえば、さっき火属性魔法が当たったようだが、そのせいだろうか。

あれこれ調べたが特に何も解らない様だ。

しかし、しばらくすると色は消え元に戻った。


 何だったのだろうか?

何かのギミックだろうか?

悩んでも仕方ないと、とりあえずは進むことに。


 しばらく進むと祭壇のような場所にたどり着いた。

8つの台座の中心には魔法陣が。

ただし、機能はしていない様だ。


「まあ、ここだろうな」


「よっと」


「……何も起きないっすね」


 台座に水晶を載せるが何も起きない。

まさか、他に7つ水晶があって全部集めろという事なのだろうか?

しかし、それならもう1つくらいは見つかっているはずである。


 主人も覚えがない様だ。

いくら情報を集めたといっても完璧ではない。

ましてや、ここはまだ未踏破ダンジョン。

情報自体が少ない。


 どうやら自分たちで考えねばならないようだ。

8つの台座、1つの水晶、中央の魔法陣。

ヒントは魔法で水晶の色が変わった事だろうか?


 そこまで捻くれた内容ではないはずなのだが。



まったく懲りないリッチ達。


オンラインゲーマーにありがちな思考なのだろうか。

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