クイズ
トラブルはあったが川を渡り、2つ目の石柱を見つけることができた。
石柱はさらに上流の修繕中の陣にあった。
流れてきた丸太は本当に巨人が切り出した物だったようだ。
他のプレイヤーに破壊されたのか、元々そういう仕様なのかは不明である。
しかし、敵はのん気に土木作業を行っているジャイアントが5体だけ。
主人たちは躊躇せず襲い掛かった。
しばらくお待ちください
そして、一つの戦いが終わった。
それは戦いと呼べるような代物ではなかったのかもしれない。
敗者はその骸まで勝者に貪られた。
……まあ、普通に奇襲して倒し、リッチが下僕にしたというだけの事だが。
ちなみに石柱はやってみたいというのでゼクが回した。
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「お、あった」
「でも、周りに何かありますね」
「ストーンサークルってやつっすね」
「ああ、パワースポットとかで聞いた事が……」
森が途切れて平野となった場所に石柱が立っていた。
周りはぐるりと森なので長居をすると囲まれそうだ。
しかし、石柱は1本ではない。
本命のトーテムポール状の石柱の周りに、いくつも岩が並んでいる。
高さは身長くらいだろうか。
「ん~? なんすか、この穴……」
「何かはめ込むんですかね?」
ゼクと青リッチが中央の石柱を調べると、今まではバラバラの方向を向いていた顔が最初からそろっていた。
代わりに手のひら大の丸い穴が開いている。
周りの岩に目をやると宝玉のような物がはめ込まれている。
これを嵌めるのだろうか?
「ん~、どっかで聞いたような……」
主人が考え込んでいる。
ギミックについての情報は出来るだけ調べてきたが、なかなか思い出せないらしい。
よほどマイナーなのか、あるいは情報が無かったのか。
「これ、外れるんですかね」
カポッ
~♪ ~♪ ~♪
岩を調べていた緑リッチが宝玉を引っ張るとあっさりと外れた。
そして宝玉から音楽が流れだす。
どこか哀愁の漂う曲だ。
私は直接聞いた事は無いが、データベースによると『小さい秋見つけた』という日本の曲らしい。
「音楽? ……そうか!」
「?」
「どうしたんすか?」
どうやら、思い出したようだ。
しかし、主人の表情は明るくない。
面倒な仕掛けなのだろうか?
「まあ、解ったとは思うけど説明するぞ。この宝玉の内アタリは1個だ。それを嵌めれば石柱は起動する」
「どれがアタリなんすか?」
「なんか音楽が鳴りましたけど」
「その音楽を聴いてアタリを見つけろって事らしい」
全員が『え~』という顔をしている。
いや、顔は骨だから雰囲気ではあるが。
まあ、気持ちは解る。
このβテストに参加している連中は基本的に重度のゲーマーだ。
ゲームのOP曲やED曲、BGM以外の音楽に興味があるとは思えない。
主人にしても、せいぜい音楽の授業で聞いた曲やTVなどで流れる曲くらいしか知らないはずだ。
曲がヒントと言われても予備知識がなければ意味など無いのだ。
「僕は音楽なんて言われても……」
「俺も同じく……」
「超有名曲なら……、いや、でも」
「仕入れた情報が確かなら、昔の有名作曲家の洋楽がアタリらしい。ただ、曲名は解らん。知っていたとしても、どの曲がそれなのか解らないと意味ないしな……」
取り敢えずそれっぽい曲を集めることになる。
最近の曲は除外。
洋楽以外も除外。
それでも結構な数になる。
そして
~♪ ~♪
「これって『シルクロードのテーマ』?」
「洋楽じゃないな」
「じゃ、アウトで」
~♪ ~♪
「あ、これ授業で聞いた!」
「ベートーベンの……なんだっけ?」
「え~と、さあ?」
~♪~♪
「これは『モルダウ』? 」
「だったはず?」
「う~ん、川か……」
~♪
「『荒城の月』っすね」
「確実にアウト」
……我々は暇である。
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「で、候補はこれだけか」
「これだけって言うけど12個もあるんすよ」
「曲名が判らないのだらけだし……」
そう、昔の洋楽という条件だけではこれ以上絞れなかったのだ。
こうなると全て試すしかないのだが、失敗のペナルティが予想される。
出来るだけ早くアタリが来るのを祈るしかない。
「じゃあ、これから行くか」
「解らないんだからどれでも同じっすよ」
主人が宝玉を手に取る。
あれは『小フーガト短調』とかいう有名曲だったはず。
カチリ
ジャン! ジャン! ジャーン! ジャン! ジャンジャン! ジャンジャン! ジャンジャンジャン!
「うおっ!?」
「うるさっ!」
「音、デカッ!」
すさまじい大音量で再生される音楽。
これはハズレだろう。
しかし、何という嫌がらせ。
〈グルッ!〉
〈キュ!〉
「敵か? あ、この音楽!」
ハウルとリーフが接敵に気づく。
おそらく、この大音量がモンスターを呼び寄せているのだろう。
そしてこの辺をうろついているモンスターと言えば
「戦闘準備だ! サイクロプスが20体は向かってくるぞ!」
「20体!」
「こんな平地で……」
「全方位からだ! 囲まれるぞ!」
最初の戦闘では敵は15体もいたが楽勝であった。
しかし、それは策を持って同士討ちさせ、さらに背後から奇襲を仕掛けた結果だ。
2戦目に至ってはこちらの方が数で勝っていた。
しかし、今回はこちらが包囲されている上に数もかなり差がある。
敵もばらけているので魔法で一網打尽というわけにもいかないだろう。
とはいえ、危ないかと言えばそうでもない。
「コラァ! 骨共! 何、出し惜しみしてんだ!」
「ヒッ! いや、その……」
「もったいなくて……」
主人の怒号にビビるリッチたち。
しかし、今回は彼らが悪い。
何故ならランク1の雑魚ばかり呼び出しているからだ。
リッチの召喚するアンデッドは質は敵と変わらないが、数をそろえられる点が強みだ。
質の使い魔とは対極だが、どちらが優秀かは状況による。
こういう状況では前衛として、さっきの巨人あたりを召喚すれば良いのだが。
スケルトン ランク1
グール ランク1
ゴースト ランク1
ゾンビ ランク1
主人がブチ切れるのも納得のラインナップである。
ランク2すら出さないとは舐めているのだろうか?
奴らにはドラゴンゾンビや先日主人が提供した竜牙兵もあるはずなのだが。
「うう、容量が一杯なんです……」
「在庫を処分して巨人系を入れたいんです……」
「どうかご慈悲を……」
「君らまだ低レベルの廃棄してなかったんすか……」
どうやら新入り3人は、アンデッドのストック整理をやっていなかったようだ。
数十体もストックできるので忘れがちだが容量には限界がある。
リッチ歴の長いゼクは入れ替えをこまめにしているので、その辺の心配は無い。
彼らとしては『巨人系を1、2体手に入れられればいいかな』くらいの考えだったようだ。
ところが主人と合流し、まさかの大豊作。
もうストックの容量に限界がきているそうだ。
結局ランク1とランク3を半々で呼び出し、ランク1は囮にランク3は前衛に使うことになった。
ストーンサークルを陣に見立て、隙間をアンデッドで埋めてサイクロプスを迎え撃つ。
魔法が来ないだけましと考えよう。
「ああ! 間に合わなかった……」
戦い終わった平野にリッチの慟哭が響く。
と言っても別に味方がやられたわけではない。
サイクロプスの死体が多すぎて、全てアンデッド化する前に何体か消えてしまったのだ。
光の粒子となって消えていくサイクロプス。
「ふう、手間取ったな」
「数が数っすからね……」
「1回でこれって半端な戦力じゃ全滅ですね」
そう、宝玉はまだ11個もあるのだ。
アタリは1個、ハズレは10個。
最大10回この襲撃を凌がなければならない。
「サイクロプスをリサイクルしながら頑張りますか」
「さっさと当てれば済む話ですしね」
確かにサイクロプスを使ってサイクロプスを補充すれば損失は無い。
連中はバカだから真っ向から挑んでくる。
アンデッドを防御に専念させ我々が攻撃すれば被害は小さい。
サイクロプスのストックはむしろ増える一方だろう。
次の宝玉の選別を始める主人たち。
面倒なら別の石柱を探せばいいと思うのだが……。
ここで引いたら負け、という心理なのだろうか?
まあ、時間はかかっても攻略自体は可能なのだ。
問題は無いだろう。
ジャジャジャジャーン! ジャジャジャジャーン!
「またハズレだ!」
「総員戦闘準備!」
「サイクロプス召喚!」
さて、何回くらいで当たるのやら。
森からワラワラと湧いてくるサイクロプス。
どこにこんなに? と、思うが意味のない疑問だろう。
敵なら倒す。
それだけだ。
結果としては6回目のチャレンジでアタリが出た。
その宝玉に記録されていた曲は『巨人』という曲名だったそうだ。
それなりに有名な曲らしいが、メンバーに知っている者はいなかった。
つまりは〈『巨人』という曲の宝玉がアタリ〉という情報を得ていたとしても、候補を絞りこめはしたが当てることはできなかったという事だ。
ともあれ、深部への道は開いた。
リッチ共が涎を垂らす(くどいようだが、あくまで雰囲気である)上位巨人達はすぐそこである。
フォモールにネフィリム。
主人も話に聞いただけで見たことは無い。
さて、どんな敵なのだろうか。
テレビのクイズ番組。
イントロクイズとか見ると「よく解るなぁ」と感心してしまいます。