浮遊島探索
たまにはこっちも更新しないと忘れちゃいますね。
RWOには多くの強敵がボスとして立ち塞がった。
中でもトップクラスの強敵と言えば、やはり『テュポーン』だろう。
山の様な巨体に数々の特殊能力。
初見では主人も撤退を選択したほどだ。
2回目は情報を集めてレイドで挑み討伐に成功した。
3回目はβテストも終わりに近づき成長しきったST、さらに数々の高性能装備に身を包むことでギリギリで単独撃破に成功した。
それでも我々使い魔にかなりの被害が出たのだから恐れ入る。
まあ、つい先日の事なのだが。
残念ながら相性から私自身は、その戦いに参加できなかった。
巨大で広範囲攻撃が得意な相手は、近接特化の私は苦手としているのだ。
しかし、遺跡の森とでも言うべき浮遊島の探索は鮮明に記憶に残っている。
それでは語ろう。
これは主人が中ボス『へカトンケイル』を倒し、初めて浮遊島の深部へと向かった時の話だ。
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その日、主人は浮遊大陸の前半の森の中を歩いていた。
私とハウル、そしてリンクスがその後に続く。
朽ちた石造りの建物、遺跡が散在しかつての栄華の名残を感じさせてくれる。
遺跡はどれも巨大な物だ。
当然だろう、人間ではなく巨人族の遺跡なのだから。
そして、それらが主人の目的でもある。
中ボスの百腕巨人『へカトンケイル』は討伐済み。
しかし、それだけでは浮遊島の奥には進めないのだ。
浮遊島の深部は古代の神殿跡地であり、参拝者以外は侵入できないのだとか。
要するに、外周部にある遺跡でお参りしてから来いという事らしい。
門番たる『へカトンケイル』までは一直線だが、奥に進むためには結局広い森を探索する必要があるのだ。
ただし、参拝は一度済ませておけば以降はフリーパスで奥に進める。
何時ぞやの人気の無いダンジョンとは違う。
いや、それも昔の話である。
リッチ転生の方法が判明するや、あそこは行列ができるダンジョンになってしまった。
元々深部のピラミッドには宝が多く、上層部の不人気に対し下層部はそれなりに人気があったのだが。
そしてリッチと言えば
「ふわ~、のどかっすねぇ」
「骸骨が欠伸するなよ……」
今回は主人の知人であるゼクと後輩3人が同行している。
私を含めて骸骨5人という異様な集団だ。
後輩3人の名前は覚えていないので便宜上、赤リッチ、青リッチ、緑リッチと呼ぶことにしよう。
「何で敵が出ないんすかね?」
「ふふふ、我を恐れたか……」
「我が下僕に変えてくれる……」
「ネフィリム! ネフィリム!」
騒々しい連中である。
それと外周部にネフィリムは出ないと聞いている。
主人も溜め息混じりである。
ハイテンションな骸骨、中々お目にかかれない光景だ。
「はいはい、静かに。巨人達は雑魚と違ってそれなりに頭が良い。動きにくい場所で襲ってくるのはお馬鹿なサイクロプスくらいだよ」
「確かに連中が暴れるには木が邪魔っすね」
「そういえばバリケードとか作るって聞いたことありますね」
「先輩は簡易砦で苦労したとか話してましたっけ」
「サイクロプスはバカなんですね」
周囲を見渡し納得する4人。
それなりの情報も仕入れているようだ。
それとモンスターの情報だが
サイクロプス 一つ目の巨人 デカくてパワーはあるが知能は低い
タイタン 大地の巨人 HPが多く再生能力を持つ
ギガース 属性持ち巨人 各属性を身に纏っている
ジャイアント 一般的な巨人 特殊能力は持たないが頭が良く、多彩な武器を装備
これらが外周部の巨人モンスターである。
ギガースとタイタンは物理に強いが魔法に弱い。
そして深部に現れる上位種は
ネフィリム 堕天使とも言われる 動きが素早く多彩な魔法を操る
フォモール 山羊頭の巨人 魔眼や呪いなど特殊能力を持つ
となっており、相当に手ごわいそうだ。
竜の谷のベビードラゴンよりは劣るそうだが、数と出現頻度が段違いらしい。
そしてリッチたちの最大の目的は、この上位巨人のアンデッド支配化なのだ。
もちろん下位の巨人も欲しいがどうせなら上位も、ということらしい。
しかし、彼らはまだ参拝を済ませていなかった。
そこに主人が現れた、というのが経緯である。
主人としても別に断る理由はなかった。
「やっぱり巨人と竜は揃えたいよな」
「ドラゴンゾンビとボーンドラゴン……。くぅ、悩む!」
「迷ったら両方だよ。僕もフォモールとネフィリムで悩んだ。そしたら天啓が下りてきたんだ。両方をとれ、と」
絶好調でぶっ飛ばす赤青緑。
さすがに黒は済まなそうにしている。
「そうっすね。ここでフィオさんに会えたのは天の導きっす」
ワケがなかった。
やはり同類である。
〈グルルルル……〉
〈キュイ!〉
「む? おい、静かにしろ……」
ハウルとリーフが何かに感づいたようだ。
木の陰から先を覗き見る主人。
私やリッチ達も目を凝らしてみる。
「あれは、バリケード?」
「さすが巨人。砦並みの高さですね……」
巨人の身長は低くても3m、高ければ5mはある。
そんな連中のバリケードだ。
こちらにとっては見上げるような高さである。
「大半はジャイアントっすね。あの白いのと紫のは……」
「氷と雷のギガースだろうな。さすがに森の中で火属性はいないか」
「じゃあ、あの手が地面に付くほど長いのがタイタンですね」
森の木々が不自然に途切れた場所に、かなりの規模の防壁が作られている。
そこには10体ほどの巨人が。
巨人達にしてみれば大した規模ではないのかもしれないが。
使われている木の太さも相当なものだ。
「さて、どうするかな」
「正面突破か側面襲撃っすね」
「正面に1票」
「側面に1票」
「正面」
「そこで迂回って案が出ないのかよ……」
無駄に好戦的なリッチ4人。
全員後衛職なのに良い度胸である。
とはいえ、迂回した後に背後から襲われる危険性もある。
ここはやはり突破がベターであろう。
「せっかく魔法使いが5人もいるんすから、最上級魔法でドカンといくのはどうっすか?」
「お前ら得意属性は?」
「闇っす」
「闇です」
「同じく」
「闇……」
「あのな……」
闇の最上級魔法【ダウン・ダークネス】は防御無視の高威力だが単体用である。
5人でドカンとやっても5つ穴が開くだけだ。
主人が全属性、青が氷属性を使えるようだが正面突破はやめた方がいいだろう。
さて、どうするべきか。
そんな時
「ん? 新手か?」
「どれどれ。へえ、あれはサイクロプスっすね」
「ホントに森の中うろついてるんですね」
こちらから見て右側から現れたのは5体のサイクロプスだった。
急いで隠蔽の魔法が使用され全員の姿を隠す。
鋭いモンスターなら気づくだろうが、サイクロプスはどう見ても利口には見えない。
口から涎を垂らし、〈ウンバー!〉などと吠えている。
「……なあ、あいつら利用できないかな?」
「サイクロプスをっすか?」
「ああ。隠れたまま石でもぶつければ、バリケードに突っ込んでいくんじゃね?」
「まさか、そこまで……」
「いや、でも……」
半信半疑だったが主人たちは試してみることにした。
ダメ元で奴らの馬鹿さに賭けてみたのだ。
我々は隠れたままサイクロプスと反対側に回る。
そしてステルス状態のリンクスがバリケードの傍から石を投げた。
ヒューン ゴスッ! 痛い
〈ウガ!?〉 バリケード発見
〈……〉 考え中
〈〈〈〈〈ウガアアアアア!〉〉〉〉〉
想像以上に単純であった。
激高した五体のサイクロプスはバリケードに襲い掛かった。
バリケードの巨人たちも突然の襲撃に驚きながら応戦する。
そして反対側がガラ空きになる。
「よし、登ろう」
「そーっと、そーっと」
破ってもよかったのだが、上を取った方が狙いやすい。
バリケードの上に全員でよじ登る。
そして
「よし、攻撃開始!」
「「「【ダウン・ダークネス】」」」
「【サンダー・エレクトロン】」
「【フリージング・ハザード】」
5人のトップクラスのプレイヤーによる波状攻撃。
私もクロスボウで牽制し、ハウルも属性ブレスをギガースに打ち込む。
挟み撃ちを受ける形になった巨人達は混乱の内に全滅し、サイクロプスも距離を詰める前に力尽きた。
完勝である。
「僕はタイタンが欲しいです」
「じゃあ、ギガースはジャンケンっすね」
「ギガースは2体、負けは一人か……」
「負けられん。勝負……」
巨人たちの死体をハゲワシの様に取り合う4人のリッチ。
確かに巨人の素材やドロップは魔法使い向けではない。
そして、これこそが彼らの目的である。
しかし、この光景。
何というか、欲望丸出しの醜い姿である。
「お前ら早くしろよー」
呆れながら様子を見る主。
その隣には巨大な石製のトーテムポールのような建造物があった。
そう、目的の遺跡の一つである。
巨人達はこれを守っていたのだ。
今回の探索は屋外ダンジョン。
同行者はリッチレンジャーの4人です。
骨比率多。