かつての骸骨
第2エリアは第1エリアに比べ難易度が格段に高い。
第1エリアは練習ステージであり、第2エリアからが本番であるからだ。
よほどの手練れでなければ1人での行動には限界がある。
まあ、主人なら大丈夫だろうが、念のため常に我々が同行している。
そもそもリーフがいる時点で正確には1人ではない。
何が言いたいのかと言うと、第2エリアではギルドが次々と結成されていったのだ。
もちろん、全てのギルドが順調にいく訳ではない。
トップギルドと呼ばれる4つのギルドは、統率力のあるリーダーと有能な補佐が存在した。
しかし、それはむしろ珍しい方である。
初めのうちは上手くいっても、人数が増えてくると上手く纏まらなくなるのはよくある事だ。
この第2エリアで急増したギルドも、合併と分裂を繰り返していくことになる。
最初は単純に人数の多いギルドや、個人が強いギルドが『強いギルド』であった。
しかし、しばらくすると所謂『上位』のギルドは入れ替わっていくことになった。
開示された情報を元にプレイすれば、ある程度までは楽に進める。
しかし、最前線に立ち自分達で道を切り開かなくてはならなくなった時、そのギルドの明暗が分かれた。
例えば後に衰退する事になるとある上位ギルド。
彼らは最前線に立ったとたんに上手くいかなくなった。
原因としては今まで楽をし過ぎていたことが考えられる。
自分達で調査するという意識が育たなかった彼らは無謀な行動が目立った。
初見の大ボスに正面からの力押しで挑み、あっさり敗れ去った。
失敗を繰り返すうちにギルドの資産がどんどん減っていった。
上手く行かない事に苛立った彼らは素行が悪くなり、他のプレイヤーとの折り合いも悪くなった。
そしてイベントで醜態をさらし、ついには分裂そして消滅してしまったのだ。
これは極端な例だが似たような事は頻繁に起きていたらしい。
器でない者がトップに立った組織の末路と言えるだろう。
挫折して犯罪プレイに走るプレイヤーが現れたのもこの頃だった。
安全圏の第1エリアで自分より弱いプレイヤーを襲うゲス共である。
主人と共に散々狩ったというのに、また増えるとはいい度胸であった。
尤も彼らの末路も悲惨である。
後日、主人だけでなく有力なギルドが合同で討伐隊を編成したのだ。
実力的には大したことのない彼らは根こそぎ討伐されてしまう。
その後更生したか棄権したかは私の知るところではない。
新たに台頭していくことになるギルドは、連携や協力することに優れた纏まりのあるギルドが多かった。
そもそも、個人で勝てないからギルドを組んだのに、集まっただけで行動がバラバラでは意味が無い。
モンスターに劣る連携では押し負けてしまうのだ。
当初の広いフィールドでは人数に任せて突撃という手もあったが、ダンジョン内ではそれもできない。
集団戦闘の訓練が行われるようになるのも当然だった。
ギルドが増えると、それぞれのギルドの方針にも違いがある事が解ってきた。
素材を採取して職人に卸すギルド、可愛い従魔を育てることに命をかけるギルド、道徳も倫理も二の次という危険なギルド、様々だ。
そんな中、VRゲームに不慣れなプレイヤーを教導するというギルドが現れた。
そのギルドの名は『クレイドル』。
揺り籠の名の通り初心者達の教官を買って出る有志達の立ち上げたギルドだ。
クレイドル自体は中規模のギルドだった。
しかし、彼らの世話になったプレイヤー達は相当数に上り、影響力という点ではトップギルドに匹敵するほどだった。
そして彼らは時折クエストを発注していた。
その内容は、個人として名の知れた実力者に教官をやってもらうというものだ。
当然、主人も幾度となく名指しされ教官をやる事になる。
そんなある日、魔法の教官としてのクエストを受けた主人はある人物に出会う。
彼もまた教官として呼ばれた人物だった。
第2エリアでは珍しい上位種族のハイ・ヒューマン。
戦闘スタイルはピュアメイジ。
そして特徴的な喋り方。
彼の名はゼク。
リッチになる事に執念を燃やす漢であった。
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「【ファイアバレット】!」
ヒョイ
「【アイスバレット】!」
パン
初撃の炎弾を回避し、隙をついた氷弾を盾で防ぐ。
目の前には5人の初心者たち。
私は魔法攻撃のターゲット役を務めているところだった。
魔法攻撃の本領は中級からである。
初級の攻撃は直線的で弾道が読みやすい。
普通の遠距離武器、矢や投剣と大差がない。
むしろ重要なのは防御魔法の方だ。
『シールド』も『マジックシールド』も初級魔法だ。
しかし、これを無詠唱でとっさに展開できなければすぐに足手まといになるだろう。
クレイドルでもそちらを重点的に教え込んでいる。
今、目の前にいる者達は、まず魔法を使った戦闘に慣れる為の訓練中。
つまり初心者中の初心者なのだ。
デュエルシステムはこういう時に便利である。
「ほらほら、眼を瞑っちゃダメっすよ!」
「え? うわ!」
「ウソ! 曲がった!」
隣ではゼクがマジックシールドの訓練を行っている。
防御側の初心者が眼を瞑ってしまった瞬間、ダークバレットが曲がり横から襲いかかった。
シールド系は盾のように展開されるため、しっかり弾道を見極めないと意味が無いのだ。
さて、先程の話と矛盾するようだが、熟練者にとっては初級魔法も強力な武器となる。
初級魔法は単純だが、個人である程度のカスタマイズが可能なのだ。
主人の場合、ライフル弾のように回転させることで弾速と貫通力をあげている。
ゼクの場合、発射した後ある程度コントロールできるようだ。
『ティルナノグ』のティーアは自動ホーミング機能を持たせているらしい。
これらは便利だが通常の詠唱では使用できず、イメージによる発動、つまり無詠唱をマスターする必要があるのだ。
つまりゼクは非常に優秀なプレイヤーと言う事になる。
「そらそら、迷っている暇は無いぞ」
「火? いや、土で……うわ!」
「きゃ! 速い!」
主人が担当している訓練は属性に対する対応だ。
例えば今主人が使ったのは水属性だ。
この場合、反属性の火をマジックシールドとして使うと効果が高い。
あるいは土属性の魔法で防壁を作ると質量で勝る分有効だ。
こういった属性に対する対応は経験がものを言う。
主人はランダムにバレットを撃ち込み、彼らに経験を積ませている。
考えるより早く最も有効な対応ができるようになれば一人前だろう。
ちなみに常人離れした知覚力を持つ主人にとっては、後出しじゃんけんの様なものである。
難しいと感じた事は無いそうだ。
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「いやー、羨ましいっす。僕はリッチになりたかったんすよ。ランダム選んで、でも結果はハイ・ヒューマンっす。皆羨ましがるけどリッチじゃなけりゃハズレなんすよ。それがなんで解ってもらえな……」
「……」
依頼が終わってゼクと話している主人。
とは言っても喋っているのはゼクだけだ。
主人は自分の種族を明かしていないが、勘の良い者は薄々気付いているようだ。
ゼクも主人の種族が悪魔である事に気付き、認めたところこの有様である。
「リッチ、不死者の王。人間を超えた魔道の探究者、良いっすねえ……」
恍惚としている。
確かにこれもVRゲームの楽しみ方の一つではあるのだが……。
私に対してまで憧れるような目を向けるのは正直勘弁してほしい。
主人もドン引きである。
彼はリッチっぽいからという理由で闇属性ばかり鍛えているそうだ。
凄まじいこだわりであるが、闇魔法なら主人と同等か上なのだから馬鹿に出来ない。
悪魔の闇属性への適性はほぼ最高である。
一方ハイ・ヒューマンの適性は標準よりやや上と言ったところだろう。
もはや執念である。
だが、その執念は実を結ぶ。
彼は全サーバーで最初のリッチ転生を成し遂げるのだ。
何度も何度も可能性でしかない条件に挑み、失敗した。
しかし、彼は折れることなく挑み続けた。
自分のこだわりを貫き続ける彼は、紛れもないトッププレイヤーであった。
人間だったころのゼク登場。
骨はネクロスだけじゃない!