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リバース ワールド オンライン  作者: 白黒招き猫
サイドストーリー  ボーンナイト
174/228

独白

 ある時、私は主人に尋ねた。

『自分には意思が、魂が在るのだろうか?』と。

主人は突然の問いに驚いていたが、少し考えると問い返した。

『お前は意思や魂というモノが何だと思っている?』と。


 私は答えられなかった。

そんな私に主人は言った。

『自分は宗教家ではないので魂については答えようがない。だが、意思とは極論すれば情報だと思っている』と。

主人曰く『理系的な考え』と言う物らしいが、私には難しい考え方だった。

とはいえ、電脳世界の住人である以上ある程度の理解はできるだけのデータは持っていた。


 さらに主人はこう続けた。

『お前たちの思考や感情はコンピュータの電気信号によって発生している。だが、俺達の思考や感情も神経細胞の電気信号と化学物質の伝達によって発生している。そこに大きな差はあるのか?』と。

ついでに言えば、この世界における主人たちの意思は肉体の物を電気的にコピーした物。

よってこの世界において主人達が意思を持っているのなら、自分達にも意思が在るという事だということか。

もちろん、この世界に生きる生物全てが意思を持っているわけではない。

モンスターなどはプログラム通りに動く者が大半だし、NPCも一部は同様だ。

その境界線となるのが『情報』の量なのだという。


 町でプレイヤーのサポートをしなければいけないNPCは、それだけ複雑で大量の情報を持っている。

逆に生まれては死んでいくモンスターは、単純で最低限の情報しか持っていない。

そして、ボスモンスターが高い知能を持つのは予め大量の情報を持っているから。

では、普通のモンスターが意思を持つことはできないのか? 答えは否。

NPCが経験を積んでより人間らしくなるように、モンスターも経験を積み情報量を増やせば意思を持てるのだ。

そう、ユニークモンスターと呼ばれる者達の事だ。


 知らないプレイヤーも多いが、モンスターはプレイヤーだけを襲うわけではない。

異種族、時には同族同士で戦い、勝者は経験を積みスキルとSTが強化される。

主人は『蠱毒の壺みたいだな』と言っていたか。

そして、それだけではない。

プレイヤー同様モンスターも、あらゆる行動が経験値となり日々成長しているのだ。

ただし、それは微々たる物であり、大半のモンスターは目に見える変化が現れる前に倒される。

プレイヤーに人気が無い場所ではいくらか高確率だが、ユニークに到達できるモンスターは極僅かなのだ。


 そういった意味では私は珍しいケースだったのだろう。

主人が私を倒したのはゲーム開始から間も無くの事だ。

その時点で私に明確な意志と言えるモノは無かった。

だが、主人に従い始めてすぐに、自分を自分と認識できるようになったのだ。

主人曰く、私の強さは他の有象無象より頭一つ抜きん出ていたという。

つまり、私はユニーク化する寸前だったのだ。


 さらに主人は話を続けた。

現代では生物と無生物の境界が曖昧になっているのだという。

先程コンピュータのAIと人間の意思の原理はほとんど同じという話があった。

実はそのコンピュータと人間の脳の違いも曖昧なのだという。

なぜなら現代のコンピュータの大半は有機機械のバイオコンピュータであり、従来の無機コンピュータは時代遅れとなっているのだ。


 従来の無機コンピュータは0と1の2進法で演算を行っている。

しかし、バイオコンピュータは生物の遺伝子を構成する4種類の塩基、アデニンチミングアニンシトシンによる4進法で演算を行うのだ。

私には2が4になった程度にしか感じないが、その演算速度と柔軟性の差は圧倒的らしい。

家庭用のサイズで、かつてのスーパーコンピュータ以上なのだという。

実感は湧かないが、おそらく凄い事なのだろう。


 そしてこの世界『リバース・ワールド・オンライン』は、家屋ほどもある巨大なバイオコンピューターであるサーバーが作り出した世界だ。

最終的には4つのサーバーを連結させる予定らしいが、現状でも世界最高峰。

そのサーバーが生み出したAIが人間に劣るのか?

主人的には勝るとは言わないが、劣っているとは思えないそうだ。


 さて、長くなったが主人の答えは聞けた。

魂については『定義があやふやなので不明』、意思については『自分は在ると思っている』というものだった。

これは主人のスタンスの現れであるとも言えるだろう。

主人にとって我々は機械でも人形でもなく『意思を持つ個』なのだ。


 プレイヤーたちを見る限り、こういった考えが主流なのだろう。

だが、主人は特にその傾向が強いように思える。

本来『使い魔ファミリアー』とは壁や囮として使い、強力な個体に次々と乗り換えていくものらしい。

だが、主人は使い魔をパーティメンバーのように扱い、古参の個体をレベルアップさせて使い続けている。

頻繁に話しかけ、コミュニケーションを取ってくる。

我々への感情移入が強いのだ。


 実際のところ主人の方針は『当たり』のやり方だ。

頻繁に入れ替えるという事は、AIが学習したデータがその度にリセットされるという事だ。

逆に序盤からデータを蓄積し続けた我々は、戦闘に関しては並のプレイヤーをはるかに上回る。

そして、NPCにも設定されている隠し要素『好感度』。


 これが高いキャラは相手のために、本来持つ以上の能力を発揮する。

モンスターの場合は、進化の際も強力な種族になりやすい。

もちろん我々の主人に対する好感度はMAXだ。

主人のためなら喜んで死兵となって戦うだろう。


 理由として思い当たるのは主人の特異性だ。

主人は電脳世界への適性が極めて高い。

現実世界では肉体的なリミッターが存在するが、電脳世界ではそれが無い。

ST的なリミッターは存在するが、知覚速度が常人の2倍もあるのならどうとでもなる。

原理は主人自身もよく解らないらしいが、仮説は聞いているという。


 本来は脳の1の能力をコンピュータが1で再現する。

しかし、主人の脳はコンピュータの演算を借りずに1の能力を再現しているらしい。

そこにコンピュータの補助が加わると1+1=2となり結果2倍となる。

この仮説も検証中なので、どこまで信じていいのかは解らないそうだ。


 ただ、この特異性は主人に災いももたらした。

詳しくは知らないが、この『電脳知覚加速』を不正と考えた者達がいたらしいのだ。

我々電脳世界の住人には不正かどうかなどすぐに解る。

主人を構成するデータに異常は無い。

つまり、知覚加速は純粋に主人自身の能力なのだ。


 だが、プレイヤーにはそれが解らないのだろう。

そして、自分に理解できぬ強者をチートと呼ぶ。

それは一種の思考停止だと私は思う。

不幸な事に、当時幼く精神的に未熟だった主人は彼らの思考停止の網と毒に侵された。

それは恩師に出会うまで主人を蝕み続けたという。


 恩師により『自分』というものを知った主人はようやく立ち直ったという。

それでも当初は他のプレイヤーとのかかわりを避けていた。

今は改善されてきたとはいえ基本的にはソロである。

主人にとってはプレイヤーよりも我々の方が信頼できるという事なのだろう。


 さて、長くなったが正直まだまだ足りない。

最後の決戦を前にして気が早いのだが、主人と出会ってからの出来事が次々と思い浮かぶのだ。

これは人間で言う走馬灯なのだろうか?

この戦いが終われば、この世界は一度消え去り生まれ変わる。


 その時、私達はどうなるのだろう?

記憶と意思を持ったまま復活するのだろうか?

だが、そうなったとしても再び主人に出会えなければ意味は無い。

ただのユニークモンスターとして狩られ、白紙に戻るだけだろう。

ならば最初から記憶も意思も失い、白紙となって生まれ直す方が良いのだろうか?

答えは出ない。


 私の名はネクロス。

暗き森で彷徨う一体のスケルトンだった者。

思い浮かぶのは主人との出会い。

そして共に戦った日々。


 それでは私の目から見た悪魔の冒険談、ご静聴いただこう。

その始まりは死者の彷徨う深き森。


久々の更新です。


活動報告参照。

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