隠れ里
使い魔が参戦しただけで戦闘はすさまじく楽になった。
沼のサハギンは、俺とネクロスに挟まれて水中に逃げることもできず倒された。
森の蛾は飛び回るフェイに気を取られ俺の魔法にやられ放題だった。
範囲の広い毒風刃も的の小さいフェイには当たらず、まぐれで当たりそうになっても【エアシールド】にそらされた。
今の俺は、自身の知覚速度や反応速度にアバターの能力が追い付いていない。
しかし、使い魔達は違う。自身の能力を限界まで引き出している。
頭の悪い蛾は、ダメージソースの俺より目障りなフェイを狙う。
俺から【ブレイズ】をくらいこっちを向いても、フェイが【エアーバレット】を1発撃ち込むだけでそっちを向くのだ。
1戦目が嘘のような楽勝だった。
数の力は偉大なり。
そしてプレイヤー以外は数に入らないらしく、単独撃破報酬も出た。
同じものだったが。
大嫌いな蛾と嫌々戦ったが、隠し通路などは無かった。
沼にも無かった。
「やっぱ、南か」
町に戻って遠出の準備をした。
「うーん、やっぱり見える範囲じゃ何も無い」
念のためバイトを呼び出して南へ歩きだす。
敵はいないし地平線まで草原だ。
しかし、だいぶ歩き町が小さくなったあたりで妙な違和感を覚えた。
何か薄い膜を通り抜けた様な感じだ。
「は?」
地平線だった草原の向こうに大きな町が見える。
後ろを向くと地平線までの草原。
「これは……」
引き返し膜のような何かを通ると、また小さく黒の隠れ里が見えた。
「結界ってやつか?」
向こうの大きな町、おそらく始まりの町と黒の隠れ里は距離にすればそれほど離れていない。
だが他のプレイヤーは来ないし、情報交換サイトにも載っていない。
本来なら、たどり着くためには何かの条件があるのだろう。
「ほんとに隠れ里だったんだな……」
もしかすると、あの町にこそ『悪魔』になるための手がかりがあるのかもしれない。
元から悪魔の俺には関係ないが。
「とにかく、ようやく始まりの町に行けそうだ」
結界を通り抜け、遠くに見える大きな町に向かって草原を歩きだした。
「弱いな」
初めてみる敵『ゴブリン』、『ワイルドドック』、『ワイルドボア』などなど。
ほとんどがただの動物だ。
バイトの1咬みで倒れるくらい弱い。
フィールド名も『始まりの草原』だし。
完全な練習用フィールドだ。
ちらほらと他のプレイヤーも見た。
馬車を引いて走る鳥、あれが『ランドエミュー』か。
兎ばかり狙うプレイヤーはテイム狙いか、欲しい素材があるのか。
近づくだけでとにかく賑わっている。
1万のプレイヤーの大半がホームにしているのだから当然か。
やがて見えてくる門。
バイトはもどす。
念のためだ。
そして、ようやく俺は正規のスタートポイントに立った。
……ところで視界に浮いたタイマーが点滅していることに気付いた。
強制ログアウトまで1時間を切ったのだ。
他のプレイヤーたちもゾロゾロ戻ってくる。
「ここまでだな」
俺も宿屋へ行きログアウトすることにした。
体感時間で16日は結構長かったな。