星の輝き
第2サーバーの拠点跡地は徹底的に破壊したかったが、第4サーバーが動き出したという情報が飛び込んだ。
急いで全軍で拠点に戻って話を聞いてみる。
すると破壊された南側の防壁を修復してしまったというのだ。
この短時間でどうやって?
そもそも資材が足りないはずだ。
詳しく聞くと、防壁の形を変えたそうだ。
今までは拠点を中心に正方形の形で防壁があった。
しかし、残った3方向の防壁を移動させ、正三角形に組み直したらしい。
拠点との距離は縮まったが、拠点の防衛兵器の援護も期待できるので防衛力は上かもしれない。
面倒な事をしてくれる。
先に叩いた方がよかったかもしれない。
もう一度防壁を破る必要が出てしまった。
そういうわけで、再度出撃となった。
ただし俺はお留守番。
今度はレイさんやティーアさんが出撃する。
ベルク達も結構ダメージを受けていたので、ハウル、バイト、プルートを出撃させることにした。
使い魔の自然回復って結構遅いんだよな。
俺も装備のメンテナンスをしてもらおう。
装備を預けて、なんとなく工房を見て回る。
忙しそうだな。
メンテに防衛とやってるんだから当然か。
と、作業台の上に山積みの強化宝石が。
あれだけ魔剣があるんだし、そりゃかなりの数になるよな。
……そういや、ロンギヌスのクールタイムは宝石のクールタイムなんだよな。
強化宝石のエネルギーを10分で使いきる荒技だからな。
ってことは、宝石取り換えれば連続使用可能か?
後で聞いてみよう。
一方、第4サーバーの三角防壁では激しい戦いが行われていた。
第1サーバーの援軍はまだ着いていないため、戦況は第3サーバーよりだ。
とはいえ第3サーバーも、これまでの戦闘でモンスターを大量に失っている。
プレイヤーの脱落者もかなり出始めていた。
矢が飛び交い、発石が応酬される戦場。
ハウルは敵のゴーレムを踏み台にして飛び上がり、防壁内部に侵入していた。
現れるプレイヤーはなぎ倒し、奥へと進んでいく。
多数のプレイヤーのにおいを感じ取ったハウルはそちらに向かう。
たどり着いたのはかなりの大部屋。
待機場所か何かだろうか。
ハウルが部屋の中心に向かうと、突然壁から無数の槍が飛び出した。
ヒラリ、ヒラリとかわしていくハウルだが、そこで敵の狙いに気付いた。
槍は長く部屋を横断している。
それが何十本も組み合わさり、檻となっているのだ。
これは罠だ。
自分の最大の武器である機動力をそぐための罠。
うかつだった。
すると壁の一部が開き、プレイヤーがなだれ込んできた。
隠し部屋に隠れていたのか。
完全にひっかけられたな……。
プレイヤー達のリーダーはヴァンパイアのシアンだった。
彼の眷属の3人も一緒だ。
檻になっている槍はアダマンタイト製。
如何に使い魔とはいえ、スピード系のハウルに破るのは難しい。
「よしかかったぞ。攻撃開始!」
合図と共に魔法が全方位から放たれる。
さすがのハウルも、動きが制限された状態で全方位からの攻撃を回避し斬る事は不可能だった。
徐々にダメージが蓄積していく。
最も厄介なのはヴァンパイアのスキル『闇の炎』だ。
一発でも食らうとHPを減らし続ける。
それが4人分。
ハウルもやられっぱなしではない。
ブレスを放つが集団で厚いシールドを張られてしまう。
ならば貫通力の強いスター・ダストなら……。
「来るぞ!」
「開け」
ガコン
天井が開き太陽の光が差し込む。
するとスター・ダストの輝きが弱くなった。
弱った光はシールドを貫けない。
実はスター・ダストは星の光を表す闇属性の技だ。
威力、貫通力、弾速、誘導性、弾数、全てに優れるが、太陽の光の下では威力が落ちるのだ。
第4サーバーのデッドは、ハウルに襲われた時その事に気付いたのだ。
日蔭と日向では威力が違っていた事に。
その事実は研究されていた。
その経験が、今ハウルを追い詰めていた。
ハウルは苛立つ。
自分の不甲斐なさに。
そして思いつく、星の光を束ねる事を。
周囲に何重にもスター・ダストを発生させ、それを身に纏う。
ハウルの黒い体毛が銀の輝きに包まれる。
流星を纏い、銀の彗星と化したハウルは檻に向かって突撃した。
「何だと!?」
ハウルがアダマンタイトの檻を破って飛び出した。
シアンも驚愕に目を見開く。
自由になったハウルは、手当たり次第にプレイヤーを引き裂いていく。
攻撃を受けるほどに、攻撃を仕掛けるほどに銀の輝きは弱くなっていく。
追いつめているのは確かだ。
闇の炎の効果も続いている。
ならば根競べだ。
数分後、ハウルは光の粒子になって消え去った。
しかし、シアン達の被害も大きかった。
眷属は2人がやられ、このトラップ部屋も再利用は不能だろう。
罠に嵌め、弱点を突き、後は狩るだけの獲物だったはず。
それなのに、この被害はなんだ?
最初は狭く感じた部屋が広く感じる。
トラップが破壊され、部隊の半数近くがやられたせいだ。
「他の場所は大丈夫かな……」
使い魔を研究し、いくつもの罠を用意した。
しかし、シアンの心は不安でいっぱいだった。
予定通りに、上手くは行かないのでは、と。
罠に嵌められ、弱点を研究され……。
それでもタダではやられません。




