水計
フィオが第4サーバーの拠点を偵察していた時、ついに第3サーバー部隊は防壁に接近していた。
ヴァルカンの撃ち上げた火山弾が降り注ぎ、防衛兵器が壊れ始めたのだ。
防壁の上のプレイヤーもだいぶ減った。
一度ヴァルカンの熱線に薙ぎ払われたので警戒しているのだ。
結果、防衛部隊の攻撃は密度が薄くなった。
相変わらずギアが迎撃しているが、攻撃自体が緩くなっている。
ドゴオォォ!
ヴァルカンのタックルが防壁を揺るがす。
凄まじいパワーと重量が、メテオライトをボロボロに抉っていく。
守備部隊も止めようとするが、戦車を正面から止められるはずもない。
バリスタやボウガンも、溶岩の鎧によって矢が体に刺さる前に焼け落ちてしまう。
さらには攻撃魔法を火山弾で相殺してしまうのだから手が出せない。
状況は一方的で、このまま防壁を破られてしまう可能性もあった。
第4サーバー守備部隊の指揮官はリッチのムジンだった。
前回の戦闘の後、彼らは1つの結論に達していた。
すなわち、使い魔には正面から挑んではいけないということだ。
馬鹿正直に戦っては被害の大きさが見当もつかない。
使い魔の情報を研究し、1体1体に合わせた対策を練る。
力で及ばない分、大掛かりで綿密な罠を仕掛ける。
自分たちでは動かず相手を罠に誘い込む。
それが彼らの作戦だった。
加えて第2サーバーからの情報だ。
炉の暴走によって拠点の一部を吹っ飛ばされたという話。
あれはやられた第2サーバーはたまったものではないだろうが、自分達にとっては朗報だった。
すなわち、大掛かりな罠を使えば使い魔も倒せるという事実だ。
目の前の2体の使い魔。
ギアは防御、ヴァルカンは攻撃に専念している。
どちらも直接戦った因縁の相手だ。
その行動は、モンスターとは思えないほどの知性を感じる。
しかし、拠点に対する侵攻戦や、数百人、数千人単位の戦闘の経験は無いはずだ。
ならば罠にかける事もできるはず。
ズズン
凄まじい衝撃に防壁が振動する。
だが、すでに相手は罠の中だ。
もう少しで……。
ビキビキ
ブシュウゥゥゥ!
大きく広がった防壁の亀裂。
しかし、そこから大量の水が噴き出したのは第3サーバー部隊にとって予想外だった。
それを合図にしたように、ガコンと防壁のあちこちが開き水が噴き出してくる。
あっという間に足場は湿地のようになってしまった。
「うわ、歩きにくい」
「アメンボの指輪は忘れてきちゃったよ」
しかし、このトラップのターゲットはプレイヤーでは無かった。
そう、標的はヴァルカンだった。
焼け石に水とは言うが、海に沈められた焼け石はどうなるか?
如何に圧倒的な熱量と言えど無限ではないのだ。
ジュウゥゥゥ
ヴァルカンの全身から蒸気が上がり、輝きが失われていく。
溶岩の鎧は重く固まり、防御力も低下していく。
普通ならばここは撤退するべきだろう。
ヴァルカンの冷静な思考もそう判断した。
グルゥゥゥゥ
しかし、自覚は無いがフィオは負けん気が強い方だ。
つまりヴァルカンも負けず嫌いだった。
普段ならフィオが止めるだろう。
しかし、彼は今別行動中だ。
ゴガアアアア!!
咆哮を上げたヴァルカンが防壁に突っ込む。
彼は自身の命より敵の殲滅を選んだ。
攻勢に出た防衛部隊の攻撃が当たるが気にもしない。
自分自身も駒として、冷静に相手を殲滅する手段を考える。
出した答えは
ズドオオオオオン!
ヴァルカンの巨体が亀裂から防壁内部に侵入した。
そして、探し出したのは巨大な貯水槽。
自分にとって毒にも等しい水に、なぜ突っ込むのか?
第4サーバーのプレイヤーも思考が追い付かない。
ヴァルカンは溶岩の鎧をパージして、自身の熱量を最大まで高める。
火の玉と化した巨体は貯水槽に向けて突撃していく。
その体が貯水槽の外壁をぶち破った瞬間、防壁は守備隊ごと吹っ飛んだ。
第3サーバーの攻撃部隊も、その光景を呆然と見ていた。
自分達が攻めていた部分の防壁は崩れ去っている。
ヴァルカンの仕業ではあるのだろうが、何が起きたのか思考が追い付かない。
そこへ、ちょうどフィオが戻ってきた。
「間に合わなかったか……。しかし、どうしたんだ? これ」
「ああ、実は……」
状況の説明を受けるフィオ。
まあ、彼らも混乱しているようだが。
「そりゃ、水蒸気爆発だな」
「ああ、そうか。普通は逆だけど」
溶岩に水魔法をブチ込んで爆発させる戦法は、火山ではよく使用される。
ヴァルカンは自身の熱量で同じ事をしたのだ。
無茶をする。
「ヴァルカンはどうなったんです?」
「脱落したよ。痛いなあ」
防壁と守備隊600人ほどを吹っ飛ばせたわけだが。
うーん、こっちはシミラとヴァルカンを失ったんだよな。
使いようによっては非常に役に立つだけに、今回はこっちが損か?
まあ、人員の被害は小さいけど。
第4サーバー守備隊の生き残りは撤退して行った。
ちなみにムジンは貯水槽の操作をしていたので、爆発にモロに巻き込まれて脱落していた。
使い魔の脱落はカウントダウン。
何の? アレの。
でも、第4サーバーも頑張ります。
影が薄いなんて言わせない。