試合前日の風景
順調に? 準備を進める第3サーバー。
では他のサーバーはどうだろうか。
結論から言えば資材の調達に苦労していた。
プレイヤーの平均能力の高さは、資材調達能力の高さでもある。
第3サーバーでは普通に流通している素材が、他のサーバーでは高級品だったりするのだ。
例えばエルダー・ドラゴンの素材は、その性能の高さと弱点の無い汎用性から人気がある。
しかし、他のサーバーでは数回しか討伐されていないので極めてレアな素材となっている。
この辺りは、真っ先に第3エリアに進出したアドバンテージと言えるだろう。
進行度の貯金が最後まで影響した形だ。
技術力の差も大きい。
第1サーバー
第1サーバーでは、上位鉱石は予備の武器防具に優先的に回された。
防壁は中級鉱石で補強している。
防壁の周りには木材を立てて作った簡易防壁や陣地が敷かれている。
これは、戦国マニアのプレイヤーの案で作られたものだった。
いざとなったら、火を放って自爆できるようにしてある。
しばらくの間、炎の防壁になるというわけだ。
魔剣クラスの武器は、あまり作れるプレイヤーがいないのが現状だった。
職人の数もあまり多くなく500人がせいぜいだ。
彼らは戦闘時にはボウガンを使用する作戦になっている。
木製の発石車や衝車も用意してある。
バリスタも考案されたが、上級鉱石はこちらに回せるほど余裕が無く、中級鉱石では強度が足りない。
結果小型のボウガンを用意する事になったのだ。
しかし、多数の矢を連射できる『連弩』などを用意したので防衛戦力に不足は無い。
攻めに関しては防壁を乗り越える為のはしご車『雲てい車』や、城壁の上にプレイヤーを送り込むための『高櫓車』を用意した。
基本は木製だが、金属コーティングしてあるので火には強い。
油で燃やされるという心配は無いだろう。
第2サーバー
拠点の雰囲気はあまり良くなかった。
水と油が一緒にいるのだから、当然と言えば当然だ。
妥協案として1000人の元犯罪プレイヤーが攻撃、残りの4000人の一般プレイヤーが防衛を行うという形で戦う事になっている。
数少ない上級素材をめぐってトラブルも起きている。
結局は自分の物は自分で、という形に落ち着いたわけだ。
そういった事情もあり、食糧や予備の装備は質より量と言った感じだ。
防壁は中級素材で補強しているが、ボウガンなどは用意していない。
というより、資材調達が難航してそれ以上の事をやる余裕が無いのだ。
時間、人手、資材全てが不足していた。
サーバー内の結束の緩さが全ての原因だろう。
他のサーバーに比べて、自分のことだけを考えているプレイヤーが多いのだ。
中には、共用の資材をちょろまかそうとする者まで現れる始末だ。
全員がそんなプレイヤーではないが、続発するトラブルに良識あるプレイヤーは頭を抱えていた。
第4サーバー
第4サーバーは防御中心の戦略を立てていた。
メンバーも砦の内部から敵を迎撃する事を考慮して、魔法職が多い。
そして、装備よりも拠点の強化に力を注ぐ事にしていた。
防壁を上位鉱石で補強し、拠点の周囲には中級鉱石製の新防壁を立てた。
さらに、その周囲に木材と石材の簡易防壁を用意した。
堀も深く掘り、水を溜めた。
さらにプレイヤーが隠れられる塹壕も用意した。
防壁にはバリスタを設置し、発石車なども用意した。
これを成し得たのは職人プレイヤーの力だった。
拠点作成を重視した第4サーバーは、職人を1500人も参加させていた。
そして、戦闘時には防衛兵器を使用してもらう予定であった。
資材も順調に集まっていた。
唯一問題があるとすれば、拠点に力を注いだため予備の装備の質が低い事だろう。
それでも中級鉱石製なので、修理の間の繋ぎにはなるはずだが。
そして第3サーバー
ズドオオオオオオオ!!!
凄まじい轟音と共に大地が抉れた。
とんでもない威力と射程だ。
やりすぎだろ、さすがに……。
今、拠点では砦の頂上に設置された大砲の試射が行われていた。
材質は複合魔法合金。
風のオーブで中級鉱石の砲弾を発射する仕様だが、砲身には大量の雷の強化宝石が取り付けられている。
「隊長。主砲発射実験成功です」
「うむ。諸君らの努力の賜物だ」
このイカレた大砲の開発者たちが小芝居を演じている。
作った本人達も原理は良く解らないそうだが、レールガンだかコイルガンに近いらしい。
雷属性の付加が砲弾を加速させているのだとか
後で聞いたのだが、強度が足りないと暴発する恐れがあったらしい。
そんな危険物を、なぜ実用化しようとするのか?
奴らは答えた。
良い笑顔で。
「大砲は男のロマンだ」
ああ、そういう奴らだったな。
久々に聞いたよ、そのセリフ。
スタッフルーム
スタッフ達はフィオとテュポーンの戦いの記録を見ていた。
フィオが疑った通りちょっとした細工がされていたのだ。
「あらら、やっぱりやられちゃった」
「最後は惜しかったのにね」
「良いんですか? 勝手にセカンドヴァージョンのAI起動させて」
「前回の戦闘データを入れた位だから平気だよ」
「でも、あのグリフォン良い反応だったわ」
「やっぱり、1から学習させるより彼らをベースにした方が……」
「大ボスAIは優秀になるんじゃないかな?」
「ま、その辺はおいおいだね」
「じゃ、私らもログインして試合を楽しもうか」
「いいなあ、私もそっちがよかった」
大分差がありますね。
進行速度がもろに影響しています。