竜巻の巨人
浮遊島には俺を含めて50人の精鋭が集まっていた。
目的は大ボス『テュポーン』の討伐だ。
この浮遊島の主にして古竜に匹敵する大巨人。
幾つものパーティが何度も挑んだが、いまだに討伐されていない。
そして今回、浮遊島の攻略に情熱を燃やす連中(確か真っ先に突っ込んで死にかけ、真っ先にテュポーンに挑んで殺されかけた連中だ)がレイドメンバーを募集したのだ。
メンバーは全員上級者、これで駄目ならしばらく攻略は控えるそうだ。
テュポーンは俺も一回見た事があるが、ほとんど怪獣みたいな大きさだった。
アイスマンモスが家ならテュポーンはビルだ。
蛇の下半身は列車みたいなもので、薙ぎ払いに当たれば最早事故だ。
両腕に生えている100本の蛇は、全方位レーザーのようにブレスを撒き散らす。
誰かを守りかばう余裕は無い。
故に集まった者たちは、自分の身は自分で守れる万能型のプレイヤーが大半だった。
地上では尻尾に一気に薙ぎ払われるので、飛行系従魔を連れている者が大半だ。
ペガサス、グリフォン、ヒッポグリフ、珍しいところでは巨鳥ルフやマンティコアなどもいる。
「さーて、決戦だな」
「腕が鳴るぜ」
「じゃあ、行くか」
浮遊島の中心部には神殿の様なものがある。
もちろんサイズはケタ違いで、とんでもない広さだ。
ネフィリムやフォモールなどの上位巨人を蹴散らしボスのいる祭壇にたどり着く。
テュポーンは巨人の王であり守護神なのだ。
〈オオオオオン〉
ゴォ!
唸り声と共に暴風が吹きつける。
テュポーンがその巨体を起こし、こちらを睨みつけてきた。
俺もベルク、プルート、カリスを呼び出す。
「よし、攻撃開始!」
一斉にレイドパーティが空に舞い上がる。
俺もベルクに乗って飛翔する。
まずは奴の武器である両腕の蛇をなんとかしないと。
〈グオアアア!〉
カリスは宿敵が相手だからだろう、何時になく好戦的だ。
次々と虹色の光弾が生み出されボスに撃ち込まれる。
的がでかいから狙わなくても当たるな。
腕の蛇は1本1本が電柱のような太さだ。
長さは長い物だと20mはある。
射程長いな、しかもブレス吐くし。
ブォン! ズゴァ!
「うおっと!」
ボスが腕を振るうと竜巻が発生した。
距離があるから、と安心していたプレイヤー数人が呑み込まれてしまった。
接近している俺にとっては腕自体の方が脅威だが。
さすがにベルクは経験豊富だ。
蛇の射程ギリギリを飛んでくれる。
俺は届かず、伸びきった蛇を切り落とすことに専念できる。
周りのプレイヤーも堅実に戦っている。
一撃目で懲りたのか、遠距離プレイヤーも動きまわって的を絞らせない。
カリスは風属性にチェンジして、竜巻やブレスを防ぐ盾としても活躍している。
プルートは鎌を振るって蛇を切り落としている。
そのペースは周囲のプレイヤー以上だ。
もう蛇も残りわずかだ。
このまま行けば勝てそうだが、そう甘い相手ではない。
邪竜と同じく、ここからなのだ。
〈ウオオオオオ!〉
突如、咆哮をあげるテュポーン。
すると奴の体が風の鎧に包まれた。
まるで奴自身が竜巻に変わった様な光景だ。
そう、今までの挑戦者たちは、この状態になったテュポーンを攻めきれなかったのだ。
近距離、遠距離関係無く、攻撃をそらす風の鎧。
唯一の穴は真上だが、ボスもそれを承知しているので危険すぎるのだ。
風の鎧は、内側に入った者にとっては風の檻なのだから。
俺の出番というわけだな。
「よし、やってみるわ」
「了解」
「全員攻撃準備!」
そして俺とベルクはボスの足元に向かって突撃する。
ベルクも嵐を纏い、強風を相殺する。
一気に距離を詰め、風の鎧に接触するところまで近づく。
「行くぞ! 『ロンギヌス』起動!」
竜槍杖がオーロラに包まれ、全てを切り裂く神槍が風の鎧を貫いた。
そのままベルクは急上昇、上へ上へと風の鎧を切り裂いていく。
切り裂かれた風の鎧は消滅し、唖然とするボスに攻撃が開始される。
ミッション成功だ。
ロンギヌスはまだ起動中。
ついでに食らわせてやる。
「【グングニル】!」
オーロラを纏った神槍は、流星のようにボスの頭部に突き刺さり、そのまま足元まで貫通した。
よろめくボスにさらに追撃が加えられる。
さしものテュポーンも遂に力尽き、爆散した。
一気に上がる大歓声。
第3エリア最強と思われるボスが討伐された瞬間だった。
生き残ったメンバーは47人。
あの竜巻を食らった3人はやられてしまったようだ。
まあ、減りはするが素材はもらえるし我慢してもらおう。
「出た、レアドロップ!」
「『竜巻のエンブレム』?」
「風耐性が凄いぜ!」
初回ドロップは属性軽減アクセサリだった。
一気に50人分か、気前いいな。
それだけテュポーンが強敵ってことだが。
ロンギヌス無しの力押しで勝てるか、といわれると正直判らないもんな。
何にせよこれで残るボスはファイヤー・ドレイクのみか。
こいつもレイドの募集があったんだっけ。
成功したんだろうか?
負けたのなら、ふふふ、俺の出番ですな。
強敵を倒してちょっとハイになってる主人公でした。