堕天使(ボスの方)と翼
亡者の都は今日もアンデッドで溢れている。
さて、何で俺がこんな所に来たかというとゼク達に付きあったからだ。
頼まれて、ある程度下僕が揃うまでの護衛をしているわけだ。
肝心の骸骨戦隊リッチレンジャー達は、大喜びで竜牙兵を使役している。
新人達も順調に下僕を増やしている。
しかし……。
「ふふふ、従え亡者共よ……」
「我が支配を受け入れるがいい!」
「踊れ、死者達よ」
こいつら3人揃ってゼクの同類だったんだな。
骨のくせに活き活きしていやがる。
メチャメチャ、ハイテンションだ。
「おーい、お前らそろそろ自分だけで大丈夫だろ?」
「あ、そうですね」
「ありがとうございました」
「助かりました」
「『漆黒花』発見っす!」
「ゼク?」
「あ、いや、お疲れ様っす!」
てめえ……、人に護衛させといて自分は採取か?
先輩ならお前も守れよ、全く……。
さて、気を取り直して、せっかくだし大ボスも狩ってきますかね。
寂れた教会。
そこが大ボスの居場所だ。
中に入ると荒れ果ててはいるが、どことなく静謐な雰囲気がする。
俺達悪魔のご主人様がいた教会とは比べ物にならないな。
奥に進むと、壁に傾いた十字架がかかっていた。
その前に金色の光が集まり、黒い翼を持った天使が姿を現した。
大ボス『フォールン・エンジェル』だ。
周囲には子供の天使、いわゆる『キューピッド』が4体。
堕天使ねえ。
第1試合で戦ったイコンは第2試合には出ていなかった。
第2サーバー凋落の原因と言えるプレイヤーらしいからな。
相当恨まれていたんだろう。
話を聞いていると頭は良さそうなのに、根本的な所が欠けているというか、抜けている人物の様な気がする。
それが巡り巡って自分に帰ってきて、損をしている感じだろうか。
情けは人の為ならず、か。
昔の人は上手い事を言ったものだ。
ボスはおそらく天使転生についてのヒントであろう話を、ブツブツしている。
別に光属性で倒す必要性も感じないな。
普通に弱点の闇で行こう。
「コール バイト ハウル プルート」
バイトは意外な事に、巨体だが室内戦が得意だ。
ニョロニョロと実に機敏に動く。
ここでも子供天使の背後を取り、翼に噛みつこうとする。
ボスは両手に光の剣と盾を作り出して応戦してくる。
俺も槍杖と短剣の二刀流で正面から切り結ぶ。
さすがに筋力は向こうが上の様だが、付加した闇属性が攻撃力を同等に引き上げる。
「!」
直感に従いその場から跳ぶ。
直後、そこを光の槍が貫いた。
頭上を見上げると天井付近に無数の光に槍が浮かんでいた。
狭い室内で面の攻撃か。
ならば
「ハウル! 撃ち落とせ!」
オオオオン
即座に放たれる【スター・ダスト】が光の槍を迎撃する。
ボスは翼をはばたかせて羽根を打ち上げる。
これが光の槍の正体か。
持久戦は不利か。
俺が切りかかるとボスも剣と盾で防ぐ。
羽根ははばたいたままだ。
バンバン羽根が打ち上げられる。
数で押し切る気の様だな。
光の槍の方が【スター・ダスト】よりチャージが速い。
このままだと防ぎきれなくなるだろう。
しかし、こいつは気付いていない。
すでに残っているのが自分だけという事に。
ズバッ
プルートの背後からの一閃がボスの翼を根元から断ち切った。
上空の光の槍が消え、ボスも落下する。
子供天使は全てバイトとプルートに倒されたのだ。
翼を失った堕天使はそれでも必死に戦うが、最大の武器を失った以上勝ち目は無い。
俺の攻撃の合間を縫って打ち込まれるプルートの鎌がボスを切り刻む。
プルートの方に気を取られれば俺の攻撃が突きこまれる。
距離を取ればバイトとハウルのブレスが襲いかかる。
勝負はついた様なものだな。
とか思ってたら翼が新しく生えてきた。
いかん、けり付けないと。
「【ミーティアスラスト】!」
ギギギギギィ
パキィ
竜槍杖の連撃についに剣と盾が砕け散る。
慌てて再構成しようとするが、ハウルとバイトのブレスが炸裂する。
「【ダウンダークネス】!」
無防備な所に漆黒の球体が撃ち込まれ、ボスのHPは0になった。
勝負は決した。
ソロドロップは『祝福の翼』というアクセサリだった。
見た目は指輪だな。
効果は……『飛行』スキル追加!
これは、またすごいな。
早速着けてみると、色やデザインを変更できるようだった。
じゃあ、やっぱりコウモリ型の黒い翼が良いか。
消費もMPとスタミナで変更可能なのでスタミナにする。
設定を終え起動すると、背中から少し離れた所に翼が現れた。
よし、飛んでみようか。
「お、おお? と、と……」
むう、意外に難しい。
ルーシアやティーアさんは慣れてるだろうが、俺は初体験だしな。
ベルクに乗って飛ぶのとは、また違う感覚だ。
この分だとハイドさんも苦労してるだろうな。
重力は感じるので水中ともまた違う感覚だ。
場所も忘れて練習していた俺は、その後ボス討伐に来た連中にバッチリ見られてしまった。
案の定大騒ぎになってしまった。
見せろと追いすがる奴らを振り切って逃げた結果、俺の飛行スキルはちょっと成長していた。
囲まれて困ってたハイドさん、今なら気持ちが解るぜ。
よ~く、身に染みました。
悪魔にも翼は必要だ~、ってことで。