増殖
町に戻ると人だかりが見えた。
囲まれているのはパンテオンのメンバーか?
ルーシアを始め、何やら周囲に説明しているようだ。
近付いて行くと中心にいる人物が目に入った。
サブリーダーのハイドさんだ。
しかし、その姿は……
「天使?」
そう、ハイドさんの姿は天使だったのだ。
白い翼と頭上の光輪は見間違いようもない。
なるほど、天使転生に成功したのか。
パンテオンのメンバーは、詳しい説明を求められて囲まれていたようだ。
ちょうどいいから俺も聞いていく事にしよう。
大ボス『フォールン・エンジェル』がらみなのは間違いないだろうけど。
話を聞くと、転生条件は大体予想通りだった。
つまりは「『フォールン・エンジェル』の光属性のみによる討伐」だ。
これを満たすと、与えたダメージが一番多かったプレイヤーが転生可能になるというわけらしい。
では、なぜ攻撃魔法を使わない前衛のハイドさんが条件を満たしたか? という疑問が出た。
答えは単純、ハイドさんを始め主力は全員が光属性の魔剣を持っていたのだ。
この辺は資金力のある大ギルドの強みと言える。
俺が言うなよって感じだが。
しかし、その条件なら結構すぐに3人目、4人目の天使が誕生しそうな気もするな。
そんな事を考えながらその場を後にする。
普段から落ち着いていてシブいハイドさんの、囲まれて困っている顔は結構レアだった。
次は工房か。
さすがに完成はまだだろうな。
「よう、調べ終わったか?」
「おいおい、気が早いぞ。さすがにまだだ」
「聞いてみただけだよ。依頼頼めるか?」
「ん? また何か手に入れたのか」
フルプレート・メイルを取り出して見せてみる。
「エルダー・ドラゴン製だ。こいつをネクロス用に作り直して欲しい」
「腕の数が違い過ぎるぞ」
「そうだな……。これとこれ、ここもいらんな」
ガチャガチャと不要なパーツを外す。
そしてエルダー・ドラゴンの素材も取り出す。
「よし、これで腕パーツを作ってくれ」
「ふむ、大丈夫そうだな。前の注文もあるから少し時間がかかるぞ」
「ああ、じゃあ出来た頃に来るわ」
工房を後にした所で気付く。
『タルタロスの鎖』も見せた方が良いかと。
考えたがマフラーの解析中だし後でいいや、ということにした。
ガチャリ
俺はそろそろゼクのホームエリアに入ることにした。
鍵はすでに渡されていたからな。
空中に現れたドアの先はゼクのギルドのホームエリアだ。
顔見知りに挨拶しながら建物の中を歩く。
NPCも雇っているようで結構すれ違う。
目指すはゼクの作業室だ。
ギィ
「よーす、ゼクいるか?」
扉を開けると、4体のローブを纏った骸骨がこっちを見ていた。
バタン
「????」
無言で扉を閉める。
え? 何? ゼクが増殖した? 分裂?
いや、まて、落ち着け、俺。
ゼクのローブは黒だ。
そして首にネーム入りのメダリオンをぶら下げている。
うん、確かにいたな。
じゃあ、残りの3人は?
青、赤、緑のローブを着ていた。
あいつらは……、ああ、そうか。
ガチャ
「どうしたんすか? フィオさん」
「すまん、取り乱した。そいつらはリッチの後輩か」
「そうっす。今日は先輩として色々助言してたんす」
ふむ、ちょうど良いかもしれないな。
実験に付き合ってもらおうか。
「4人ともちょっと外に出てくれないか?」
「さてゼク。これに死霊術をかけてみてくれ」
「これは牙っすか?」
「ああ、竜の牙だ」
赤リッチが何かに気付いたようだ。
まあ、俺も確信が有るわけじゃあない。
だが、ここのスタッフなら期待は裏切らないと思っている。
「じゃあ、いくっすよ」
ゼクが地面に刺した竜の牙に死霊術を使う。
すると竜の牙が見る見る大きくなり、曲刀シミターと丸いラウンドシールドを持った骸骨になった。
やはりな……。
「こ、こいつは何すか?」
「ファンタジーの定番。『竜牙兵』ってやつだ」
竜牙兵は竜の牙を媒介に生み出される兵士だ。
アンデッドとされる事もあれば、ゴーレムの様な魔法生物として扱われる事もある。
共通するのは高い戦闘力を持つ事。
実際目の前の竜牙兵は、ランク3のアンデッド・ナイトより強そうだ。
俺の説明に3人の後輩リッチもだいぶ興奮している。
さて、取引といこうか。
「実は後14本竜の牙はあるんだ。欲しい奴は……」
「「「「ハイ!」」」」
「えーと、公平に3本ずつ売ってやろうか。ゼクはそいつをやるから2本な」
「了解っす」
調べておいた市場価格より少し安く売ってやる。
ついでにエルダー・ドラゴンが落とすことも教えておいた。
うん、やっぱいいよな竜牙兵。
なんとなくロマンを感じる。
まあ、俺にはネクロスがいる。
早く装備をそろえて活躍してもらおう。
さすがに自分で使役はできませんでした。
これで残るはヴァンパイア転生のみです。




