不可視の襲撃
ひときわ高い岩の上から、フィオは第4サーバーのプレイヤー達を見下ろしていた。
見た感じ、強さは第1サーバーとほぼ同格だろう。
上位鉱石の装備をしている者は7割ほど。
ワイバーン素材も多い。
つまりはやろうと思えばやれる。
しかし、彼らの向かう方向は第3サーバーの仲間が向かった方向だ。
どうせなら挟撃した方が安全だし早いだろう。
両サーバーが接触したら、セオリー通りに後衛を、正々堂々後ろから襲撃してやるか。
いや、その前に少し数を減らすかな……。
フィオ自身は気にしていなかったが、シミラを使い魔にしてから隠密行動が増えていた。
暗殺者紛いの奇襲でモンスターを倒すことも多かった。
その結果、彼自身の隠蔽スキルも急速に成長していたのだ。
シミラの幻術に比べればまだ甘いが、十分に一流と言える能力になっていた。
そして暗殺者は動きだした。
一方の第3サーバーは戦闘準備を完了させ、動きだそうとしていた。
探知用の使い魔を放って偵察すると、相手チームもこちらに向かっている事が解った。
向こうが気付いているかは不明だが、どの道もう少しで接触する。
気になるのは聖魔の動向だが、考えても仕方ないというのが結論だった。
ろくでもない事をやっている気もするが、どうせ被害にあうのは敵チームだ。
第4サーバーも当然偵察は行っていた。
そして前方に第3サーバーのチームがいる事を確認した。
だが、おかしな事があった。
「まだ戻らないのか?」
「ああ、2人な」
「どうする?」
相談するのはリーダー格の3人の男性プレイヤー。
リッチのデッドとムジン、ヴァンパイアのシアンだ。
自分達の進行方向から見て後ろに向かった偵察要員が2人戻らない。
50人の内の2人は大きい。
迷う様な場所でもない。
ということは、考えられるのは……
「……やられたか?」
「多分な。ついでに言えば、何時までも待ってるわけにはいかないぜ。第3は向こうから近付いてきてるみたいだぞ」
「ああ、少しでも有利な場所に移動するべきだ」
「そうだな……。よし、移動しよう」
「警戒は怠るなよ」
そして第4サーバーのチームは移動を開始した。
その最後尾を歩く殿はドラゴノイドの槍使いだった。
後衛の護衛を任された彼はかなりの実力者だった。
その耳に、ジャリ、と音が聞こえた。
立ち止まり振り向く。
戻らなかったメンバーか? それとも敵か?
しかし、何も見当たらない。
武器を構え警戒を強めるが、やはり何も見えない。
周囲は岩場だが、隠れられるほど大きい岩は無い。
空を見上げても何もいない。
気のせいだったか? いや、しかし……。
気が付くと仲間と距離が開いてしまったので、疑問を捨てて追い付くべく足を速める。
しかし、突然カクンと足から力が抜けた。
そして、なすすべもなく倒れてしまった。
体が動かない。
麻痺した彼には解らないことだが、彼の肌の露出した部分3カ所に切り傷がついていた。
僅かに動く目を向けると、そこには黒いコートのプレイヤーがいた。
その手には禍々しい短剣が握られていた。
そして、そのプレイヤーはポツリとつぶやく。
「麻痺か。運が無かったな」
それからしばらくして、第3サーバーと第4サーバーが接触した。
しかし、その時第4サーバーチームの人数は40人になっていた。
それは第3サーバー側からもはっきり解った。
ちなみに、2人のリッチが偵察に出したアンデッドは全滅していた。
行方不明者捜索に出た従魔も。
「おい、あれ……」
「ああ、やりやがったな」
足りない人数、恐怖と動揺に染まった顔。
あれを見れば察しはつく。
どんな形でかは解らないが、襲撃を受けたのだ。
彼に。
とはいえ、手加減する必要は無い。
これで勝ったチームが対抗戦第2回戦優勝だ。
陣形を整える両チーム。
その片方の背後では、魔導兵器と溶岩の巨獣が幻術に包まれて出番を待っていた。
フィオ、暗殺者モード。
第4のプレイヤーも馬鹿じゃないんで、行方不明者の捜索や偵察は従魔やアンデッドにやってもらいました。
しかし、結果は全滅。合掌。