vs第1サーバー
だらりと武器を下げたまま、フィオは第1サーバーの前衛に近付く。
向こうではもう決着はついているだろう。
後衛だけでネクロスとシザーを相手にできるわけがない。
「舐めんじゃねえぞ!」
「うおおおお!」
約半数、11人が突っ込んでくる。
混乱もあるのだろうが、連携も何もないお粗末な突撃だ。
ほぼ全員がワイバーンの素材の防具をつけている。
確かに『竜の谷』の浅いところでも出現し、性能も良いワイバーンの素材は早急に防具の質を上げるにはもってこいだろう。
しかし、それだけで統一してしまうと弱点も同じになってしまう。
ワイバーンの属性は火と風、弱点は逆の水と土。
俺は竜槍杖の水と土を同時に起動した。
「【バイブルフラッド】」
ドパアァ
莫大な水が放出される。
火属性などに比べると地味な印象のある水属性だが、その真価はノックバックだ。
先頭の数人はまともに食らい、後続とぶつかって団子状態になった。
「【ミーティアスラスト】」
動きの止まった集団に、最上級槍術技を叩き込む。
通常の倍、5m程の距離まで届き、扇状に広がる流星の様な連続突き。
6人のHPが一気に0になった。
ワイバーン装備の弱点を2つも付加しているのでダメージがでかい。
無事だった残りの5人が技後の硬直を狙ってくる。
この辺はサーバー内のトップ50人なだけの事はある。
だが、遅いな。
俺は2人を纏めて貫ける位置で【ガイアランス】を2発、無詠唱で放った。
ドス ザク
「あ?」
「がふっ!?」
串刺しにされた4人の動きが止まる。
最後の1人が切りかかって来た時は、もう硬直は解けている。
振り下ろされた剣をかわし、首にサマエルを突きたて、ついでに石突きで殴り飛ばした。
吹っ飛んだそいつは麻痺を受けた様で動かない。
周りには縫い止められた4人が。
ちょうどいい。
「【ガイアインパクト】」
ドドドドドドン
隕石の様な土属性最上級魔法を受けて5人のHPは0になった。
ふむ、少しMPを使い過ぎたかな?
自動回復するとはいえペース配分は大事だ。
俺は残りの12人に向き直った。
知った顔もいる。
「さあ、お次は誰かな?」
タクはヒデと目配せして前に進み出た。
まったく、知ってはいたが実際に目にするとシャレにならない。
11人のトッププレイヤーを瞬殺するとは……。
前回は見せなかった本当の戦闘スタイル。
近接と魔法のコンビネーション攻撃は思いのほか厄介だ。
なにしろ隙が無い。
技の隙を魔法で埋め、魔法の追撃に技を振るう。
防御も魔法で崩され、あまりに正確な攻撃に回避もしきれない。
「ったく、どうしろってんだよ……」
「降参する?」
「ふざけんな。だれが降参するか」
「そうだ。結構楽しみにしてたんだぞ」
「ほほう、んじゃ勝負と行くか」
タクの大斧とヒデの大剣が同時に振り下ろされる。
どちらもマサが作った上位鉱石の武器だ。
なんと大斧は槍に、大剣は短剣で受け止められた。
筋力ではハイ・オーガノイドが、体力ではドラゴノイドが種族的には勝っているはずなのに。
ギギィン
2人は同時に弾かれた。
しかも着地する寸前に無詠唱での魔法が襲いかかる。
だが、その隙に
「もらったよ! 兄貴、覚悟!」
リエが切りかかっていた。
体勢は崩れ、魔法は使用直後。
これ以上のチャンスは無いだろう。
「【バスタースラッシュ】!」
ギイン
しかし、その渾身の一撃はシールドによって阻まれた。
シールドは貫かれたが、その隙に短剣が刃を食い止める。
「な、何で……」
「熱くなると周りが見えなくなるな。悪い癖だぞリエ」
フィオの肩が揺らぎ、緑色の幻獣が現れた。
「しまっ、カーバンクル!」
キュウ!
「キャッ!?」
リーフのレイ・ブレスを顔面に食らったリエが吹っ飛ぶ。
「隙あり。【グングニル】」
「あぐ!?」
リエのHPが0になる。
さて、次は……。
「痛~、何だよ今の」
「どうやって投げたんだ?」
ヒデとタクの両足には、ダマスカス製のスローイングナイフが刺さっていた。
これと魔法のダメージでリエをフォローできなかったのだ。
ちなみにナイフは2人を弾いた時に投げた物だ。
その方法は
「今のは【暗剣】ってスキルだよ。【暗器】と【投擲】の複合スキルだ。一々ナイフを出さなくても腕や足を振るとナイフを飛ばせるんだよ」
レイラさんの【暗器】を見て自分も使いたくなった。
そして練習したら【暗剣】が出たのだ。
投擲自体は相当高レベルだし。
「んじゃ、悪いが退場してくれ」
「あーあ、おぼえてろよー」
「次は泣かしてやる」
「ハイハイ、じゃあな【バーンアウト】」
友人2人のHPは0になり退場した。
「さて、次はあなたですか? レイラさん」
「うーん、前回は手加減されてたんだね」
「まあ、そうですね。でもあなたは強かったですよ。多分皆さんも」
「あら、ありがとう。でも他のみんなも、もう過去形なの?」
「ええ、皆さんには俺の相棒達を紹介します」
突然、谷を分断していた岩が消えた。
その向こうからやってきたのは2体の怪物。
「骸骨はネクロス。カマキリはシザーです。さあ、丁重にもてなして差し上げろ」
9人のプレイヤーを聖魔と使い魔が挟撃した。
そして始まったのは蹂躙。
〈第1サーバーの全滅を確認しました〉
〈第1サーバーは脱落です〉
友人と妹、ちょっとあっけなかったですかね。
でも、総合能力からすればこんな感じでした。