最悪の敵
森の奥に進むと『ジャイアントスパイダー』や『ジャイアントワーム』、『腐肉鳥』などの新しい敵が出てきた。
グロ方面に期待を裏切らない森だ。
だが、グロいといえば『グール』だった。
食死鬼の名の通り奴はゾンビを襲って食っていた。
リアルすぎるのも考えものかもしれないな。
そして周りの雰囲気が変わってくる。
糸や繭がそこらじゅうにあるのだ。
すごく嫌な予感がする。
そして木々の途切れた広場に奴はいた。
全身の腐った蛾『ロトンモス』。
このフィールドのボスのようだ。
白状しよう。俺、佐藤宏輝は蛾が大嫌いである。
思わず逃げ出すほどに。
さらに奴は腐っている。
最悪だ……。
すでに奴は鎌状の前足を振り上げて臨戦態勢。
見逃す気はゼロだ。
やるしかない。
キイイィィィ
耳に痛い音と共に、奴の触覚から不可視の何かが撃ち出される。
飛びのいた俺の後ろで転がっていた繭が砕け散る。
おそらく超音波だ。
鎌を振り上げて襲ってくるロトンモス。
槍を使ってさばき、おかえしのファイアーバレットを打ち込む。
やはりアンデッド。
効いている。
余談だがバレット系は無詠唱で撃てるようになった。
詠唱を思考で行う詠唱省略。
発動トリガーも省略する無詠唱。
どちらもトッププレイヤーの証だ。
特に動きながらは思考の並列処理が求められるので難易度が高い。
と、奴は突然距離をとり、激しく羽ばたき始めた。
直後放たれる無数の風刃。
範囲が広い、避けきれない。
「【シールド】!」
無属性の防御魔法を張り、木の陰に逃げ込む。
シールドはあっさり破られたが、なんとか回避に成功した。
様子をみると、抉れた地面が紫色に変色している。
毒か。
さて、どうするか。
自分に攻撃が集中するのがソロのきついところだ。
攻撃が見えていても、範囲や物量に対応しきれなければもらってしまう。
ズズン!
盾にしている木に衝撃。
見ると大きく抉られている。
超音波か。
これじゃあ長くは持たないな。
こういう時は……
「困ったときのアイテムか」
使えそうなアイテムを探し、作戦を立てる。
某ゲームだって罠を駆使してモンスターを狩る。
何か手はあるはず。
ドゴォ!
再び衝撃。
そろそろ持たないか。
「【シールド】」
防御魔法を張り飛び出す。
当然、襲い来る毒風刃。
「ちっ!」
一発かすった。
ダメージは小さいが毒が心配だ。
……大丈夫だったみたいだな。
初被弾だ。
気を取り直して、アイテムボックスから『スライムの体液』をありったけ取り出す。
幹にかけるとジュウジュウと溶けだす。
同時に石を適当な方向に投げて奴の気をそらす。
そして向こうからは見えないだろうが、幹は半分ぐらいまで抉れた。
「よし、後は……」
耳を澄ます。
聞こえる。
超音波のチャージ音が。
そして
ズドォォン!
超音波が幹をえぐり木がぐらりと揺れる。
「【スイング】!」
三角飛びの要領でほかの木を足場に飛び上がり、木の上部を一撃。
木がぐらりと向こうに傾く。
「まだだ! 【スラスト】!」
さらに突きを撃ちこむと木はへし折れ、技後で硬直していたロトンモスを押しつぶした。
「まだ生きてるのかよ……」
さすがボスしぶとい。
しかし、太さ1mはある木をはねのける力はもう無いようだ。
「成仏しろ。【ブレイズ】」
ボン!
ロトンモスは木ごと燃え上がり消滅した。
「もう2度と見たくないな……」
個人的に最悪の敵を打ち倒した俺は死霊の森を制覇した。




