対抗戦初戦 決着
イコンはどうにか治療を終えていた。
早く隠れないと。
もはや戦意は失せていた。
だが、ふと気付くと炎が鎮火していた。
わざわざ、歩いて近づいてくる人影。
「やあ、どうも」
悪魔が親しげに挨拶した。
冷静を装いマジックオーブを用意する。
中には上級攻撃魔法が込められている。
高価なアイテムだが護身用に用意しておいたのだ。
悪魔は油断しているのか、何をするでもなく突っ立っている。
舐めやがって、思い知れ!
「【エアロブラスト】!」
魔法と同時にオーブも使う。
2つの魔法を同時に放つイコンの奥の手だ。
オーブからファイアブラストが解放される。
悪魔は反応もできず、暴風と火炎に呑み込まれた。
確かにそう見えた。
しかし、そこには誰もいない。
魔法が当たる直前、揺らぐように消えたのだ。
「な!? どこに……」
混乱した瞬間、違和感が。
ふと見ると、自分の右腕が切り落とされていた。
後ろを向くと黒衣の死神が鎌を振り下ろすところだった。
両腕を切り落とされ、地面にへたり込んだイコン。
死神の後ろには悪魔が立っていた。
何時の間に? さっきのは一体?
悪魔が語り出す。
「さっきのはシミラの幻術さ。魔力探知でもないと見破れないよ」
あれが幻だと?
そういえば、集めた情報にそんな能力を持つ使い魔がいた様な……。
「しかし、面白い手を使うね。上位魔法の並列使用か」
考え込むような態度の悪魔。
そして次の瞬間、雷光と爆炎がイコンを吹き飛ばした。
「こんな感じか。結構面倒だな」
何が起きたのかイコンは理解していた。
しかし納得はできなかった。
悪魔は上級魔法2つを同時に使用したのだ。
オーブを使わず自前で。
そんなことが可能なのか?
「プルート。止めを刺せ」
イコンの思考は死神の鎌の一閃で途絶えた。
その体は光に包まれ消え去った。
第3サーバー、フィオにより第2サーバー、イコンが倒されました。
「残るは私だけか……」
レイラを傷の治療を終え、サブ武器の弓を取り出して装備した。
まさか耐性を無効化されるとは思っていなかったので、毒消しは持ってきていなかった。
回復薬で猛毒が切れるまで耐えたのだが、もう残りは僅かになってしまった。
まあ戦いながら使う余裕は無いだろうし、次は向こうも逃がす気は無いだろうけど。
「待っててもあぶり出されるだけね」
ならば小細工は無用。
ルンの背に乗って飛び上がる。
すると
「フィナーレ開催ですね」
ルンの3倍はある、空色のグリフォンに乗った悪魔が待ち構えていた。
槍を持ちグリフォンに乗る悪魔。
弓を持ちヒッポグリフに乗るヴァンパイア。
それは空を舞台にした、騎士の一騎打ちにも見えた。
観客の盛り上がりも最高潮だった。
レイラが矢を放ち、フィオがナイフを投じる。
どちらも従魔に指示など出していない。
従魔は自分の判断で動いているのだ。
フィオはやはり魔法を使わない。
それを侮りと見るか、同じ土俵で戦うという正々堂々の精神と見るかはそれぞれだろう。
戦況は徐々にフィオが有利になっていく。
ベルクとルンでは地力が違いすぎるのだ。
ルンは決して弱くない。
能力も知能もトップクラスの従魔だ。
しかし、終始圧倒されている。
上を取るのは常にベルク。
風刃はより収束された風錐に打ち砕かれる。
時に派手な攻撃をフェイントにして本命を打ち込む。
少しずつ詰将棋の様に退路を塞いでいく。
そしてベルクの口から雷のブレスが放たれた。
回避は不能。
ルンが風の障壁を張り、レイラもシールドを張る。
しかしブレスは防御を突き破る。
パキィ
プロテクトオーブが砕けた。
しのぐ事は出来たが、これで後は無い。
レイラは切り札を取りだした。
それは1本しか作れなかったオリハルコンの矢。
しかも宝石を組み込んで光属性を付加してある。
「さあ、来なさい!」
視線の先ではベルクが全身に嵐を纏い突進してきていた。
止めを刺すつもりだろう。
だが、渾身の攻撃はしのげれば隙を付ける。
すさまじい速さで飛来するベルク。
「今!」
直撃する寸前、ルンが馬の下半身でレイラを蹴り上げた。
レイラは上に、ルンは反動で下に、ベルクはその間を通り抜けた。
衝撃にルンは落下し、レイラもかなりのダメージを受けた。
しかし、突進を回避されたベルクは背を見せている。
「食らいなさい! 【ピアーシングショット】!」
ライフル弾の様に貫通力と速度を増した矢が放たれた。
連発はできないが防御を貫通する大技だ。
光に包まれた矢が悪魔に迫る。
だが、レイラの目が驚愕で見開かれる。
悪魔の肩が揺らぐと、そこに緑色の小動物が現れたのだ。
その額の紅玉が輝くと、必殺の矢の軌道が変わった。
シールドなど簡単に突き破るはずの矢が、あっさり逸れて行く。
訳のわからない事態にレイラの思考が停止する。
気が付いたとき、すでに悪魔は槍を振りかぶっていた。
そして槍が炎に包まれる。
「【グングニル】!」
空中のレイラに回避は不可能だった。
巨大化した槍はあっさりシールドを突き破り、レイラを貫通した。
レイラのHPが0になり、体が光に包まれて消えた。
勝負は決した。
対抗戦優勝者は第3サーバーのフィオ選手です
第3サーバーで歓声が爆発した。
しかし他の3サーバーでは驚愕の沈黙の方が多かった。
差がある事は知っていた。
しかし、まさかこれ程とは。
話には聞いていた。
だが、あれほどの化け物だとは。
相変わらず犯罪プレイヤーには容赦無いフィオでした。