プロローグ
第2の世界への招待状。
それが俺の手の中にあった。
俺、佐藤宏輝は現在大学3年生。
影山教授の研究室、通称「ゲー脳研」に所属している。
正式には「電子的仮想現実が脳に与える影響」の研究室なのだが、電子的仮想現実=VRMMOというのが世の中の認識なので、この様な通称で呼ばれているわけだ。
そんなある日、俺を呼び出した教授は唐突に書類を渡して言ったのだ。
「佐藤君には新しいVRMMORPGのβテストに参加してもらいたいんだ」
影山教授は変人である。研究室の先輩も変人が多い。
しかし、彼らは天才でもあった。
脳生理学と電子工学の両方に精通していなければ研究にならないのだから。
そして俺は彼らの実験の被験者役だった。
俺がモルモットをやっているのは決して嫌々ではないし、理由があった。
昔から「ゲームをしすぎると馬鹿になる」「ゲームばかりする子は凶暴になる」など、嘘とも真とも知れない意見はあった。
技術革新によりVR技術が一般的になると、当然ゲームにもその技術は導入された。
そうなると今までよりも真剣に「ゲーム脳」の事を考える必要があるのではないかという意見が多くなったのだ。
そして影山教授はその道の第一人者だった。
彼はある仮説を立てた。
それは「人間には適応能力というものがある。ならば、いつか電脳空間に適応した新種の天才が生まれるのではないか」というものだ。
彼はその電脳の天才児を「サイバー・ジーニアス」と名付けた。
そして俺は、おそらく国内では唯一のサイバー・ジーニアスなのだ。
俺が生まれた時はすでにVRゲームは存在し、俺自身も友人や妹とプレイしていた。
しかし、いつのころからかゲームが簡単すぎて周りとの差が気になり始めた。
ゲームでは現実での身体能力など関係ない。
だが、基本的に思考力の面で大人は子供より優れていてゲームでは強い。
そんな中、俺はやるゲームの全てで廃人ゲーマー達すら圧倒したのだ。
特にプレイヤーの腕がダイレクトに影響するゲームでその傾向が強かった。
ヒーローに憧れがちな子供のころは、友人や仲間を引っ張りプレイするのは楽しかった。
しかし、向けられる視線は良いものだけではない。
自分が子供に負けることが気に入らない者たちが、チートだのと中傷するようになったのだ。
運営に実際に抗議する者まで現れ、俺は情熱を失っていった。
そして、不思議に思ったのだ。
どうして電脳空間では自分は強いのかと。
そんな時、影山教授と出会った。
俺は異常にVRゲームに強いとしてゲーム会社に知られており、研究の内容上そちら方面とのコネの多い教授はそこから俺の存在を知ったのだ。
教授は俺に自分の仮説を説明し、俺はそのサイバー・ジーニアスかもしれないと言って自分の研究室に誘ってきたのだ。
高校卒業後の進路を考えるころだった俺は教授の誘いに乗った。
そして教授の実験に協力して今に至るというわけだ。
当時は教授がここまでの変人とは思わなかったが。
「これって最近話題になってるやつですよね。教授も一枚噛んでたんですか?」
俺の問いに教授はうなずいた。
この「リバース・ワールド・オンライン」は「もう一つの現実」をスローガンに、いくつものゲーム会社が協力して開発している話題作だ。
今までのゲームと一線を画すると言われ、βテストの応募はとんでもない倍率になっているとか。
国内4か所にサーバーを設け、1か所につき1万、合計4万人でテストが行われるらしい。
「彼らには主に資金面でお世話になってるからね。こちらも虎の子を出さないとってことになったんだよ。よろしくね」
身も蓋もないセリフだな。
モルモットに拒否権は無いらしい。
まあ、いいけどね……。




