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優しい心霊写真の話

作者: ぬ~

一枚の写真を。男は見ていた。

それは一枚の心霊写真。

それでも男は、その写真を笑顔で見ていた。



神社を取り壊す事になったのは、ある意味仕方が無いことなのかもしれなかった。

来訪者は略無く、一年の間に二桁に行かない事はざらにあることだった。

周りの住人からも、神社の存在意義を問われ続けていた。

しかし、その神社は先祖代々が守り続けてきたもの。

潰す事だけはやめて欲しい、と、神主は抵抗し続けた。

それは神社のためだけではなく、神社の敷地内にある、六本の桜の木を守るためでもあった。

この桜の木は、神主の四代前の先祖が植えたもので、それからというもの、その神社を継ぐ者がずっと見守ってきていたものだった。

神社を潰す、という事は、その桜の木も切り倒さなければならない、という事だった。

神主は食い下がった。

毎年、桜の季節だけは、あの桜を見ようと周りの住民が来るのだ。

――――お願いですから、ここを潰さないでください

神主はそう訴え続けた。

周りの住民への協力も少なからず受けながらの抵抗だった。


しかし、結果は無残なものだった。


神社は取り壊し、桜の木は全て伐採。

神社の敷地は半分を残して隣のマンションの駐輪場となる事に決まった。

神主は絶望したが、地域の人達の為になるのなら、と、涙を呑んで頷いた。

まずは桜の木が伐採される事になった。

本当の話、神主はこの桜の木が切られる事の方が、神社を潰される事よりも嫌だった。

小さい頃から、祖父が、父が、自分が、そして本来これからもこの先子孫が見守っていくはずであった桜の木。

小さい頃から父とこの木で遊んだ記憶が、心の奥から次々と蘇って来る。

だから、と、神主は最後の頼みを言った。

伐採の時は、自分を 立ち合わせて欲しい。と。

勿論、その程度の事は容易く許可が出た。


そして当日。

木を切るチェーンソーの音に耳を塞ぎたくなる衝動に駆られながら、それに耐えて神主は見守り続けた。

桜の最後を、ずっと見守った。

そして心の中で、

謝り続けた。

ずっと。

すまない。すまない。と、何度も、何度も。

守ってやれなくて、すまない。と。

涙を拭うこともせず、ずっと木が切られるのを見ていた。

嗚咽を隠すことも無く、心の中ですまない。すまない。

一本一本、過去の記憶が消されていった。

そして、全ての木が切り倒され、神主は地面に膝をついた。

大きな声で泣く彼の横を、切り倒された桜の木が運ばれていった。


神社が壊される日が来た。

この日も、神主は立ち会った。神主が神主としての最後の仕事となった。

しかし工事に入る前に、神主はやはりお願いをした。

――――最後に一枚、写真を撮らせてください

と。

勿論、これも許可された。

そして神主は、自ら神社の写真を撮った。

作業員に撮ってやる、といわれたが、それを拒んで自分で撮った。

今の自分に、この神社と一緒に写る権利はない。と。

そうして写真を撮った後、神社は壊された。ほんの十分程度のことだった。


男は写真の現像をし、自分の家で見る事にした。

神社の写真。自分が守れなかった、神社の写真。

これを死ぬまでずっと持ち続けよう。

死ぬまで、神社を守れなかった自分を責めながら。

そう考えながら、男は写真を見た。

そこには、いつもの神社が写っていた。

青々と茂った桜の木を左右に写し、中心に神社が撮れている。

我ながら、いい写真だ。

そう考え、男はふと、ある事に気がついた。


何故、切った筈の桜の木が写っているのか?


そうだ。

あの時、確かに桜の木は切られた後だった。それは間違いない。

しかし、手元にある写真には、確かに桜の木が写っている。

ソレを見て、男は涙を流した。

桜の木が、言っている気がしたからだ。

いいよ。と。

今まで、ありがとう。と。

木だって生きている。

だから最後に、男に感謝の気持ちを伝えたくて、写真に写ったのかもしれない。

これは、木の心霊写真なのだ。

それでも、暖かい。

優しい、心霊写真。


今でも男は、その写真を持ち続けている。

暖かい心霊写真を、これからも、ずっと。

昔何かの雑誌で見た『あるはずの無い木が写った写真』を思い出して、こんなストーリーがあったら面白いかな、とか考えながら書きました。

木でも生きてるんだ。と書きながら再認識しました。ので、ジャンルは文学、という事で。

楽しんで頂ければ、そして“木”について考えて頂ければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 短編でしたが、とてもよいストーリーが凝縮されていて素敵でした。他にもたくさん作品を書かれておられるので、ゆっくりではありますが読ませていただきます☆ これからもがんばってください♪
[一言] ストーリー的にはすごく良かったです★心霊写真でも、怖くないやつがあるんですね(笑)温かい気持ちになれました★誤字が、少しあった気がしました★これからも頑張って下さい。
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