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アベンジャーデッドボール  作者: 天神千尋
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仕事に文句はあれども、転職はめんどくさい

なんだ?このもみあげにバナナをぶら下げたマウンテンゴリラは?

第一印象はそんな感じだった。


最近の女性にはどうやら水商売に従事した方を模した格好が流行っているようで、頭頂部はドリル…ではなく見事に巻きグソ…ではなくなんていうんでしょ?蛇がとぐろをまいたような形で天へと伸び、両のもみあげには縦巻きロール。見た目がもう少し人間に近ければほめ言葉をひねり出すこともできるのであるが、どうやら目前の女性が有する3%のDNAは猿寄りに働いているようだ。

「ちょっとなによ!視姦?視姦?初めて会うのに最悪ぅ。そんなに見とれていないでこっちきなさいよ!」

「頼む!しゃべるなバリで売ってるお面」と口から出てきそうなのを必死に堪えて、目礼して応接セットのソファーに腰かける。とまぁなぜ故に動物の飼育員・・・ではなく、突然社長を名乗るこの恐怖ゴリラ人間と相対しているかと言うと、話は前日にさかのぼる。


あっ失念しておりました。自己紹介をします。物部剛これが私の名前である。いわゆる三流大学を出て、大した目的もなく入れる企業にとりあえず入社したサラリーマンである。見た目の特徴と言えば二十代だというのに、日々敗退を余儀なくされている額くらいなものである。今日も出社前の儀式である、パワーゲイザー(額に育毛剤を大量に噴射する)の冷気で眠気が吹き飛ばされると、くたびれた背広に袖を通して会社へと向かうのであった。大事なことなので、もう一回言っておくが二十代である。


ちなみに務めている会社はといえば、いわゆる出会い系サイトでのし上がってきたベンチャー企業で、出会い系サイトで稼いだ金を原資に様々な業種の会社を買収して大きくなった会社である。飲食業から果ては球団経営まで何でもありの会社だ。上場企業の仲間入りは果たしたが、少々強引なところがあり世間的にはあまりいい顔をされないのが実情である。グーグル先生で調べたところ、あだ名が江戸時代のお奉行様みたいな社長が数十年前にも似たような事をして実刑を食らったたらしい。歴史は良くも悪くも繰り返す。時代が経過して効率化を叫んだところで出る杭は打たれるという日本的感覚は変わらないようだ。いつか、この会社つぶれっちまえ!私が転職する気が起きた後になッ!


そんな会社で私のポストはエンドユーザー対策部、いわゆる謝罪部署である。礼儀を知らない新入社員が対応ミスをして電話相手がぶん殴るだ殺すだ叫びだしたところで、たいして給料の変わらない上司、つまり私の出番である。

今日も今日とて湯気が立つほどあっつあつの苦情電話に対して、見えるはずもないのにぺこぺこと米つきバッタのように頭を下げる業務それが私の仕事である・・・はずなんだけど。


その日は出社すると、朝一で部長に呼び止められる

「物部君・・・あのちょっと後で」

でたっ「ちょっと後で」せっかくパワーゲイザーで冷えた額にうっすらと冷や汗が滲む。わかりましたと返事をして、アルバイトをナンパする事しか頭にない新入社員に仕事を任せて部長と連れだって会議室に向かう。


「いやぁ今日は蒸すね」

「ですねぇ」


部長はこちらを全く見ずにボールペンを分解しながら軽い調子で切り出した。まったくもって嫌な予感しかしない。


「でさ、うちの会社の会長いるじゃない?あの狸がさ突然引退するって言い出したんだよ。」

はぁと気のない返事をしていると、手元のボールペンはすっかり分解され、中に入っていたバネを弄びながら上目づかいでこちらに探るような視線を投げてくる。


「うちって何故か赤字球団抱えてるじゃない?あれを相続するのが会長の孫娘なんだわ」


昔はどうだったかわからないが、今や野球と言えばアル中のおっさんがワンカップや紙パックの鬼殺しを片手に、もう片方には予想紙、耳には赤鉛筆という公営賭博場である。球団オーナーになるような企業は半分やくざみたいな企業ばかりだった。


「というわけで、君異動ね。明日から球団広報ね。」


ちょっと待てぇ!!まず聞きたい。どういうわけだ!せめてあらすじでもいいから言ってくれ。という心の声が聞こえたのか用件は終わったと足早に席を立つ部長。再び組み立てられ胸元におさまったボールペンを見つめながら途方に暮れているとぽんと肩を叩いて会議室を颯爽と出て行ってしまった。


自分の部署に戻ると、用意周到に荷物が段ボールにまとめられて、かつて私が座っていた席にはアルバイトをナンパする事に精を出す新入社員がおさまっていた。どうやらお目当ての娘の席が近づいたのでテンションが上がっているようだ。ちんこもげてしまえ!!


引き継ぎ資料は前担当者があらかた揃えていたので、目下炎上継続中の案件について注意点をざっと口頭で伝えるとその日は会社を後にした。布団の中で「転職かぁめんどくさいなぁ、まぁでも一ヶ月くらい様子でもみるかっ!」と後ろ向きだか前向きだかわからない決断をするとあっという間に眠りにおちた。


そして現在に至る。


そして目の前には鼻から煙草の煙をボハーーーと出すマウンテンゴリラがいる。


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