[6th night]
すべてを自分のものにした。けれどそれでも、不安は消えない。
抱き締めた細い身体は頼りなく、疲れたように眠るその寝顔はあどけなかった。
少女と言うには色があり、女と言うにはまだ幼い。
怯えを感じずにはいられない。
爆弾のように抱えたこの愛情を、どうやってぶつけるべきかも分からない。
口を開けば、カルスに向いている彼女の心を非難するように、責めてしまう。
欲しいだけだ。欲しかっただけだ。
彼女をひとつずつえるたびに膨れ上がる欲望を止める方法も分からず、こうなるはずではなかったとただ自分を責めて終わる。
向けられた小さな背中に拒絶されているようで、せめて素肌を触れ合わせている時だけもと、深く抱き寄せて眼を閉じた。
そして次に目を開いたのは、彼女の微かな身動ぎを感じた時だった。
「起きたのか」
腕から逃れようとしたのではないかと怖じて、出した声は低く、冷淡にかすれていた。
彼女が俯いた反動で、柔らかな髪が胸や顎をくすぐる。
「おはようございます」
昨日幾度となく啼いたからか、出しにくそうに小さな声で囁かれた言葉に、欲望よりも不安が膨らんだ。
「…身体は?」
思わず訊ねれば、分からないというように聞き返された。
その意味を分からないことにまた、一抹の喜びを覚える自分はどこかおかしいのだろうか。
重ねて問えば、彼女は言いにくそうに言葉を発した。
「…少し………」
「はっきり言え」
「………少し、怠いです」
――やはり無理をさせ過ぎたか。
抑えの利かなかった昨夜の自分を思い出して深い溜息を吐くと、彼女は何を勘違いしたのか「申し訳ありません」と小さく呟いた。
間違えたことに思わずまた、溜息が洩れる。
「しばらく休んでいるといい。ランチの時間には起こす」
「いえ、でも…」
――何も気にしなくていいんだ。
その言葉が紡げない。
「私は従順な妻が欲しいと言わなかったか?」
「はい…」
「私は出る。あとは侍女に言い付ければいい」
「はい」
「寝ていろ。健康体でなくては孕むものも孕めん」
寂しげにシーツを見下ろす姿を見て、またその身体を貪ってしまいそうになる自分を抑えて、ガウンを羽織って私室へ下がった。
「また眉間に皺をおつくりになって」
待ち構えていたラフェルノが、呆れたような声を出すのにつられ、更に皺を刻んだ。
「幸せなら幸せと素直に態度に出せばいいものを。せっかく迎えられた可愛い花嫁様に逃げられても知りませんぞ」
「逃げられても捕まえる」
「それほどの愛情をお持ちですのに。それをきちんとした形で示すのが、本当は夫の役目ですからな」
「言われなくても……」
「分かっておいでではないですね。現に奥様は泣いてらっしゃいます」
確かに、先ほどからドア越しに聞こえるのは、押し殺した泣き声だった。
「あれは……カルスを恋しがっているんだろう」
「旦那様………」
そして何を悟ったのかは分からないが、結局彼はそれ以上何も言わなかった。
愛していると、その一言を口に出して拒絶されるのが、怖いだけだとは言えなかった。