[3rd night]
純白の、花嫁だった。
美しく気高い天使のよう。
彼女はやはり、私には眩しすぎた。
私が触れてはならないような気がして、けれど触れずにはいられなかった。
「誓いのキスを」と言われて初めて彼女を間近に見た時、その眼が濡れている気がしたのもきっと気のせいではないだろう。
掠めるように奪った唇は甘く、深く入り込まないように自分を抑え込むしか出来ない。
必死に愛想笑いを浮かべながらも、彼女の方は向けない。ひたすらに新婦を慈しむ新郎の役を演じた。
近付いてくるカルスを牽制するように細い腰をぎゅっと引き寄せれば、半ば倒れ込む形になった彼女の自然な甘い香が鼻をくすぐった。
理性は焼き切れる寸前。
だから、これから永く使うだろう夫婦の寝室に入ることに、ひどく怯える自分がいたのは否定出来ない。
彼女を壊してしまわないかと、その懸念が思ってもないことを私に口走らせた。
「私が欲しかったのは貞淑で従順な妻だ。恋人ではない。分かるか?」
意識していたよりも冷たい口調に驚きながら、彼女の反応を見ることが出来ずにウイスキーを一気に呷った。
きっちりと閉じられたガウンから覗く肌が、ひどく白い。
「……分かりません」
そう言った声はやはり怯えていた。
間違えた、と眉を顰めれば、彼女は消え入りそうな声で申し訳ありませんと呟く。
そんなことが言いたい訳じゃない。
「愛はいらない。欲しいのは、跡継ぎを孕む腹と私の血を引く男児だけだ。その目的のためには、奔放な妻はむしろ邪魔だ。……だから、君を買った。階級に関しても結婚の際の投資に関しても、そして結婚前の行いに関しても君は、私に逆らえないと思ったからだ。ここまでは?」
それでも、口を吐いて出るのは、彼女を傷つける言葉ばかり。
傷つけたくないと思う一方で、けれど酔いの回り始めた頭に、ちらちらと彼女とカルスのキスが浮かんだ。
憎まれるならいっそ、もっと傷つけてその心が私でいっぱいになればいい……
私の問い掛けに答えた彼女に、暗に自分はあの時見ていたのだと言えば、彼女は驚いたように眼を見開いた。
自分の顔に、嘲笑が浮かんだのが分かった。
「私に逆らうな。純潔を失った花嫁に莫大な金を注ぎ込めたのは、カルスではなくこの私なんだぞ」
きっともう、理性など焼き切れていた。