[1st night]
計画は、完璧だった。
元々、傾きかけた家を建て直すためにロベルカ卿がより条件の良い婚約者を探しているのは、社交界では周知の事実だった。かといって、他家の財政状況を立て直せるほどの資産を持つ貴族も限られてくる。そして持参金のない花嫁の付加価値は爵位しかないため、候補は伯爵位以下の貴族。
そこまで条件が限られれば、名乗り出ることの出来る者も少ない。
私は一種の賭けに出た。
彼女さえ手に入るなら、付加価値などいらないと。
ローデンバーク公爵家は王族の後ろ盾もあり、資金も潤沢。彼女を守るための何もかもはすべて備わっていた。
ロベルカ卿には恐縮する理由こそあれ、垂涎ものの縁談である。
しかし水面下で準備を進める中、偶然行ったクラブで、ある男がとんでもないことを言い出した。
婚約者の純潔を奪った、と。
カルス・デオナールは、まるで敵軍の将を打ち取ったかのような愉悦を浮かべながら、琥珀色に染まったグラスを傾けた。
――ロベルカ伯爵の思い通りにはさせない、プラチナを娶るのは自分だ。
――バカな女だ、俺に縛られるとも知らないで。
独身の貴族達の間で代々行われる遊びに、その年のデビュタントをランク別に色で表すという悪趣味なものがあったが、確かに彼女は10年に一度出るか出ないかというプラチナランクだった。
プラチナの妻が、すなわち、男社会でのステータスシンボル。
きっとカルスさえいなければ、彼女への求婚者は後を絶たなかったに違いない。
そしてカルスは、騎士団にいた頃からすでに、それを自分の功として触れ回っていた。
思えばその頃から、こいつの事は嫌いだった。
その場でカルスを殴り飛ばさなかった、自分の理性に感服するしかなかった。
そしてそんなお前の意地は覆してやると、私はすぐに行動を起こした。
彼女が揃えなければならない程度の嫁入り道具や、ドレスの仕立ての手配。
つまらない横槍が入らぬうちにすべてが済むようにと、結婚を申し込んだのはすべての準備が整ってからだった。
だからだろうか。婚約披露の場で見た光景は、安心しきっていた私を叩き落すのには十分だった。
少女との情熱的な恋人同士の交わりは、未だ私のものにはなっていない。
暗闇の中の、恋人同士のキスを見つめる私に、気付く者は誰もいなかった。