[epilogue]
彼女の甘い香が、また私の鼻をくすぐった。
まるで、初めての夜を思わせるように。
* * *
「ずっと自分を、君を愛する婚約者から奪ったヒールだと思ってた。だから昨日も、カルスに請われるまま君を渡した。直後に散々後悔をしたが……
結局カルスに迫られている君を見て我慢出来なかった」
アルフレッドの話をしないのは、最早私の意地だった。
彼が最終的に、私の行き先を決めたと言っても過言ではないのだが。
「ずっと見ていらしたんですか」
幸い逸れた会話に乗るように微笑めば、彼女は少し寂しげに瞳を瞼に隠した。
「君に愛していると言われた時の驚きは言い表せないね。もう絶対に手放せないと思った。
エリゼ、私はもう君にだめになっている」
すると彼女が跳ね起きるように顔をこちらに上げ、みるみるうちに頬を赤く染めた。
そして、多分照れ隠しにだろう「そういえば」と持ち出した話題は、けれど私にとってはあまり触れたくないものだった。
「プラチナ、というのはなんでしょう」
思わず、固まった。
貴族男子の下品な戯れの話を彼女にしたくない一心で口籠ると、彼女は何を思ったかぷっと吹き出した。
――別にいい。別にいいが。
どこか面白くなくて彼女に覆い被さると、驚いた顔をする妻に満足した。
「エリゼ、実はまだ起きるには少し早い時間だ」
「え、えぇ」
「なら時間を有効に使わないか?」
「あの……ウィリアム?」
「存分に愛し合おう」
そうして重ねた唇は甘く、体温は一気に上昇していった。
ようやくすべて私のものになった彼女に、幾つもの私の印をつけていく。
白い肌に浮かぶ紅い華が存在を誇示して、それはとても綺麗な眺めだった。
伝えるように、口付ける。
幾度過っては、伝えられなかった言葉。
「君が誰のことを愛していても、」
――私は君しか愛せない。
fin.