[18th night]
「お久し振りでございます、ローデンバーク公爵」
シャンデリアに照らされた金髪が、いつにないほど恭しく、さらりと前へ傾いだ。
私は逃さぬようにと、彼女の腰に絡めた腕に更に力を込め、カルスへの牽制の微笑みを浮かべた。
引き攣るほどの、愛想笑いを。
「お招きありがとう、カルス子爵。妻もデオナール邸が懐かしいようだ」
妻という言葉を強調して。
所詮お前との想い出は過去の話なのだと言い聞かせる。
表情を窺うように彼女の顔を覗き見たタイミングは、奇しくもカルスと同じだった。
「公爵夫人も、ご機嫌麗しゅうございます。
ご夫婦揃っての初めての夜会と言うことで、デオナール家一同、そのような場に選んでいただいたことを光栄に思っております」
いけしゃあしゃあと。
お前が訪れざるを得なくしたくせに。
視線を彼女から外すことなく発せられた言葉に拳を握り締めれば、彼女はそれを知ってか知らずか、暗い表情で視線を落とした。
追い打ちをかけるように、カルスの言葉は続いた。
「お美しくなられましたね、公爵夫人。幼い時から知っているので、尚更です」
暗に私を抑える。
――彼女のすべてを知っているのはお前だけではないと?
――彼女を美しくしたのはお前の功績ではないと?
そんなことはとうに分かっている。
彼女がカルスを見つめる、その視線を見たくはなかった。
そこに決定的な何かが存在してしまうのを、私は何よりもその時の中で恐れていた。
だからか。
彼女が私のイヴニング・コートの袖をそっと握り締めた時、甘やかな期待が胸を占めるのを抑えることなど出来なかった。
そして、最終的な決定打を打ったのはカルス・デオナールだった。
「ところでローデンバーク公爵。夫人を少しお借りしてもよろしいでしょうか」
ただ私は囚われるのを恐れるかのように、請われるまま頷いた。