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[prologue]
「綺麗な瞳をしていらっしゃるんですね」
そう言って微笑んだのは、まだ少しあどけなさを残す、美しい少女。
他の男の腕の中にいた、その少女に、けれど私は眼を奪われた。
昔から、この瞳が嫌いだった。どこか冷たい印象を与える薄い紫色を細めるたびに、親しい友人達は「お前は眼だけで人を刺せる」と揶揄した。社交の場で擦り寄ってくる女達も、ベッドの上で妖艶な笑みを浮かべては鋭利だと囁いた。
騎士団にいた頃はその殺伐とした空気にはよく馴染んだが、それでも誰かを睨みつけるたびに、眼で冗談めかせないことにひどく辟易した。
だからだろうか。
淡く甘い月色の、その瞳に焦がれた。
ふわりと揺れる、栗色の柔らかそうな髪に触れたいと願った。
邪気のない柔らかな笑みを自分のものにしたかった。
彼女のその笑みの中に在る、圧倒的な想いさえ踏み躙っても自分は後悔しないだろう。
手に入るのなら、憎まれても構わないと。
カルス・デオナールから奪うことだけを考えて。
それだけでは自分が満足出来ないということも、心のどこかでは当然のように理解はしていたけれど。