[11th night]
月色の瞳が淡く光った。
引き寄せられるような錯覚を覚え、手を伸ばそうとした刹那。
彼女の白い腕が、縋るようにこちらへ伸びた。
* * *
右手を伸ばした彼女が呆然とこちらを見ているのにはっとして、思わず問い掛けていた。
「どうした?」
彼女はまだ、夢見心地のように。
「いえ、ただ……」
「ただ?」
「ただ、綺麗なアメジストだと……」
「アメジスト?」
「瞳が……」
思い出したのは他でもなく、彼女と最初に言葉を交わした時のことだった。
「綺麗な瞳だ」と、そう言った無邪気な彼女の残像を手繰り寄せ、沈黙に溶けるように彼女に近付いた。
「見たいと、思うか?」
そっと問うた私に、彼女は驚いたように頭を上げ、首を傾げた。
もう一度、問う。
「もっと間近で見たいと、思うか?」
自分でも分かるほど、その声は欲望に満ちていた。
抱きたいと。
彼女にただ自分を刻みつけたいと。
そんな邪な想いを悟るはずもなく、彼女はぼんやりとしたまま首を縦に振った。
「……でも」
けれど口付けを落とそうとした私を止めたのも彼女だった。
「でも……なんだ?」
「わたしの顔は見られたくない、です」
「なぜ?」
「きっとひどい顔……」
――彼女はやはり、自分を分かっていないのか。
その言葉を否定をすれば、今度は何度も首を横に振ってしまう。
「違うの……違うんです」
「何が、違う?」
「泣き腫らした眼なんて……見られたくない」
甘えるような言葉。
幼子を相手にするかのように、問う。
「泣いたのか? なぜ?」
「分からない。分からないんです」
――カルスか?
迷いはけれど、欲に負けた。
「でも、アメジストは見たいんだろう」
彼女の顎に指を掛け、そっと持ち上げて間近で覗き込んだ。
「見ていればいい。森に迷い込むことのないように」
それは、エメラルドの瞳を持つ、カルスへの見えない牽制だった。
盗られはしない、絶対に。
そう誓い、そして口付けた。