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[10th night]

 クラブに行けば、案の定口々に冷やかされる運命が待っていた。


――プラチナを放っておいていいのか?

――放っておいている間にデオナールに掻っ攫われるぞ。

――新婚早々、喧嘩して家を追い出されたのか。


 とにかくゴシップ好きの連中の集まりだ。

 彼女への関心を私にぶつけられても困ると、一種牽制のようなものをして、ひとしきり酔ってからうるさい野郎共は撒いて早々に家路についた。






 灯りのない寝室へ辿り着けば、そこに彼女はいなかった。


 私室で休んだのだろう。

 それがまるで彼女の拒絶を表わしているようで、ひどく胸が痛んだ。



 せめて寝顔だけでも。



 そう思い、そっと彼女の私室へ繋がる扉を開け中へそっと忍び入ると、月明かりに照らされながら華奢な半身が起き上がった。



「起こしたか?」



 問い掛けに、彼女は首を振った。



「眠れなかっただけです」


「……そうか」



 近付こうとしたはずの身体は動かず、一瞬の沈黙の帳が下りた。



 口を開こうとして、けれど自分は何を言いたいのだろうかと噤む。

 それが何度か繰り返された時、彼女が不安げに問い掛けた。



「どう、なさったんですか」


――答えられない。


「今日はもう、お帰りにならないかと思いました」


――続けられた言葉に、期待をして。


「悪友たちに追い出された。新婚がこんなところにいるんじゃない、と」



 そして、何故か謝った彼女に「どうして謝るんだ」と訊ねたその声は、問い詰めるように硬くなった。



 泣きそうに震える彼女を、いっそ腕の中に閉じ込めたいと思う衝動に駆られる。



「だって……

 あなたは本当はお帰りになりたくなかったのでしょう? 思い通りにならない妻のせいで、せっかくの逃げ場での居心地が悪くなるのは、申し訳ないと……」




 逃げ場?

 私の居場所はここだけだろう?




 そう伝えることも出来ず、君の元に返ってきたかったのだとも言えず、私はまた素っ気ない言葉を返した。



「疲れたから返ってきた……それだけだ」








 月色の瞳が淡く光って。

 惹きつけられるような、錯覚を覚えた。




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