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騎士団長、愛を知る  作者: 立花 みどり


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05 ランチ


 仕事を終え、自宅で明日の準備をしていると個人用の魔文箱がチカチカと光ったのに気づいた。


 ロベルトと付き合い始めてからやりとりが増えた。お互い急に仕事が入りやすい立場である。そのため以前よりもこまめに確認する癖がついた。

 ロベルトからの連絡かと思って箱を開けると、差出人は領地にいるアビゲイルの弟、カノンだった。珍しい。


『来週用事があって王都に行くので泊めてください』


 どうやら来週こちらに来るらしい。


 カノンは現トロビー子爵家当主だ。


 アビゲイルには一人の弟と一人の妹がいる。数年前までは二人とも王都にある学園へ通っていた。その間は三人で暮らしていた。

 卒業すると二人は領地に帰っていったが、こうして何かの折に王都に来ては泊まっていく。


 二人が領地へ帰ってからもアビゲイルは引っ越していない。三人で住むにはやや狭く、一人で住むには広い家。弟妹が使っていた部屋はいくつか家具を整理して、今は彼らのために寝具が置いてある。


 前回泊まりに来たのは数年前か……?

 とりあえず軽く掃除をして布団を干しておかなければ。


「あ、来週か……」


 布団を干して、少し足りない日用品の買い出しをして、などの予定を脳内で立てていると、来週ロベルトと予定があったのを思い出す。


 うーん。


 普通であれば先に予定を入れていたロベルトを優先すべきなんだろう。


 だけど、弟と会えるのは数年に一度だ。できればこちらにいる間、弟と過ごしたい。


 あと、できれば弟に留守番をさせたくない。

 カノンはトロビー家の人間とは思えないくらい勉強ができて社交的でもあるが、その分生活力があまりにもないのだ。


 料理もできないし掃除もできない。領地の屋敷には使用人がいるから生活力がなくとも問題ないが、この家には使用人がいない。カノンを一日一人にすれば、何枚か皿を割り、水場をびしょびしょにされる気がする。勘弁してほしい。

 

 ロベルトに予定をずらしたいと言えば了承するんだろうとは思う。いや、でも先に約束してたしなあ。


 予定をずらしたいけど申し訳ない、流石に留守番くらいはできるか?でも不安だな、などと悩んでいると、ロベルトと一緒に出かけた時に買った大事な皿や小物たちが目に入った。

 ……カノンに留守番をさせるとこれを壊される可能性もある。それを想像した時、アビゲイルの心は決まった。

 

「よし、明日直接、詫びを持ってお願いしてみよう」



**



 アビゲイルは昼休みになると、用意したお詫びのお菓子を持って中庭へ向かった。


 二人は少し前から一緒に昼食をとるようになった。

 発端はロベルトの仕事が一時的に忙しくなったことだった。

 

「緊急で対応しなければいけない案件があり、しばらく出かけたり食事に行ったりするのが難しくなるかもしれません。でもできれば少しでもいいので会いたいです」


 手を握られて切実に言われた。

 なので話し合って昼食を一緒にとることになった。とはいえ緊急の用事が入って行けないこともお互いあるので、その場合は魔文箱で連絡し合っている。


 最初、昼食を一緒にとることを提案された時、穏やかな時間を好奇な目で見られるのが嫌だな、と思った。今まではそんなことあまり思ったことはなかったのに。


 それを素直に伝えると、ロベルトはなぜか嬉しそうだった。

 なぜだ。


 彼自身も、そういう目で見られるのは確かに不快だが、逆に見せびらかしているのだと思うと悪い気はしないです、と言った。仲の良さを自慢していると思えばいいのだと。

 

 それはそれで恥ずかしくないか。


 色々意見を出し合った。……結局二人が付き合っていることは初日から城中に知れ渡っているし、一緒に出かけているのも見られているのだから、今更だろうということになった。

 実際、一緒に昼を過ごし始めた頃は視線を四方八方から感じていたが、一週間もすれば周囲も自分も慣れたようで何も感じなくなった。これが杞憂というやつか。



 基本はほとんど毎日アビゲイルが二人分の食事を作っている。たまにロベルトが美味しいものを見つけた時は事前に連絡の上で買ってくる。そういうスタイルでやっている。


 二人分の食事を用意してくると伝えた時、ロベルトはかなり慌てていた。

 アビゲイルが料理するイメージがなかったようで無理して言い出したのではないかと思ったらしい。

 「大変ではないですか」「無理はしないでください」「私が買うので大丈夫です」なんていいながら慌てていた。見たことないくらい慌てていたので面白かった。


 そんな姿を見て笑いながら、弟妹のランチを作って持たせていたことがあるから心配するなと伝えた。一時期は三人分用意していたこともあるから気にしなくていいと。


 いい聞かせればロベルトは落ち着き、少し慌てたことを恥ずかしそうにしながら「そういうことなら、お願いします」と言った。毎日アビゲイルの料理を食べては「ありがとうございます。おいしいです」と感想を述べてくれた。

 誰かに料理を作るのは久しぶりで、お礼を言われるのも久しぶりだった。もともと料理が好きなわけじゃない。必要だったから覚えたものだったけど、ロベルトに毎回お礼を言われると、それだけで明日も美味しいものを作ろうという気になれた。


「ロベルト、お待たせ」


 中庭に行けば既にロベルトがいつものベンチで待っていた。横に座って用意したサンドイッチを渡す。


 ランチは大体サンドイッチだ。日によってパンの種類が違ったり具が違ったりする。忙しくて少しの時間しか会えなくても、サンドイッチなら素早く食べられるという理由で採用されている。


 お互い大人になるまでの間にそれなりに苦労したこともあって、価値観が近いようだ。手づかみやかぶりつく食事に対して抵抗がないのがありがたい。ロベルトはいつもアビゲイルの用意した食事を素直に受け取ってくれる。


「おいしいか?」

「もちろん」

「今日はデザートと食後のコーヒーもある」

「……その心は? あなたが昼食を豪華にしてくれる時は、何かお願いがある時です」


 賢い恋人はとても察しがいい。普段は用意していないオプションがあることで、何かあることを察してくれたようだ。


「来週の出かける予定を再来週に変更させて欲しい。……来週弟が来ることになったんだ。会えるのが数年に一度だから、できれば一緒に過ごしたい」


 予想外のお願いだったらしい。ロベルトの返事が一拍遅れる。


「わかりました。その代わり、再来週は必ず私と出かけてください」

「もちろん。先に予定を入れていたのはロベルトなのにすまない。弟がいる間は好きなものをたくさん作ってくるよ」


 ロベルトは予定が変更されることは悔しいが、好物を作ってもらえるのは嬉しくて複雑だと言いながら、作って欲しいけど遠慮して言えなかった食べ物を教えてくれた。

 そのうち材料費は出すとか言い出したので、材料費はいらないから感想を教えてくれと言ったら、何枚でも書きますと真面目に言われた。


 真面目に言われているのか冗談を言われているのか微妙だった。本当に紙で渡されたらどうしよう。


 


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