16 エピローグ
アビゲイルはその後レニエ伯爵家の養子となった。その後すぐに正式に婚約を発表した。
アビゲイルは自分がロベルトの婚約者になることで、色々と言われるのではないかと危惧していたが、社交界の評判は二人の婚約を好意的に受け止めた。
家格がどうとか、育ちがどうとか、そういうことを凌駕する二人の美貌が理由だった。
そんなにこの顔がいいのか、そんなものなのかと少し落ち込んだくらいだ。
ロベルトに聞けば、友人である王太子と上司である公爵、そしてその娘の計らいが多少あったらしい。幼い頃から苦労している部下がついに婚約するのだからと祝いの代わりに悪評が立つようなら手をまわす予定だったのだとか。
が、あまり手を尽くさなくとも、二人の美貌を並べて公爵令嬢が囃し立ててやれば、それだけで人々は二人のロマンスを想像し合った。
実はロベルトが学生の頃から二人は出会っていたのだとか。アビゲイルのために下積みから始めたのだとか、ロベルトのために伯爵家の令息に喧嘩を売ったとか。
事実でないことと、事実が混ざって広まって、収拾がつかなかった。
ロベルトは都合がいいのでそのままにして、もし詳細を聞かれても微笑んで誤魔化した。
社交界が文句を言わないのであればいよいよアビゲイルにとっての懸念事項が少なくなってきた。
侯爵夫妻とは一度だけ挨拶のために会った。
ロベルトからいい話を聞いたことがないので、それなりに覚悟していったのだが特に何も言われなかった。すでに許可したことだから好きにしなさい、と言われて終わった。
ここでもみてみぬふりというか、色々言わない主義らしい。
その割には夫人としての教育だとかの手配はしっかりされていた。掴みどころのない人たちだなと思った。そのうち掴めるだろうか。
ロベルトと何度も話し合って、騎士団長は結婚すると同時に辞めることにした。流石にこれは仕方のないことだと思う。
アビゲイルが仕事を辞めることについて、ロベルトは思ったよりも懸念を示した。というよりはアビゲイルが自分自身で積み上げてきたものを、結婚することによって壊してしまうことに対して申し訳なさというか、本当にそれでいいのかということを言いたかったようだ。
この話し合いが意外にも長期化して、最終的にはルイスやアーサー、宰相を巻き込んでの話し合いにまで発展した。アビゲイルの退職だけでものすごい人件費がかかっている。
が、この問題はアビゲイルだけでなく城で勤める全ての女性に関わることでもあるので、真剣に色々と話し合われた。
結果、女性の結婚後の復職に関する規則がいくつか整えられた。
アビゲイルは結局団長職は退くものの、騎士を鍛える役割につくことになった。これについて騎士たちは密かに怯えた。叩き上げのアビゲイルの訓練は厳しいことで有名だからだった。
なんだかんだで問題が出てくるたびに話し合ったり、周囲を巻き込んだりしながら二人は結婚した。
アビゲイルは子供を二人産み、ある程度の年齢まで育てると午前中だけ騎士団の業務に復帰した。
復帰した時にやはり騎士たちは怯えていた。
アビゲイルはその頃には「愛とはなんだ」という疑問すら湧き上がらないほどに、ロベルトと家族たちを愛し、愛されていた。




