13 それは愛だと言うけれど
「アーサー、リーガンはいるか?」
「……っああ、ここに」
第一騎士団に向かえば、リーガンはアーサーの前で拘束され膝をついていた。流石に宰相補佐に怪我をさせたとあればなんらかの処分が下るだろう。でもそんな規則で決まった処分だけで終わらせるなんてできそうになかった。
処分が下る前にやらなければならない。
拘束されているリーガンに、アビゲイルは手袋を投げつけた。その瞬間その場にいた全員が息を呑む。
「拾えよクソ野郎。決闘をしよう」
アビゲイルの殺気にリーガンは冷や汗が噴き出た。目の前のアビゲイルが、自分の知っているアビゲイルと違う生き物に見える。
誰だこの女は。
リーガンの記憶の中でのアビゲイルはもっと弱く、ものを知らず、愛に飢えて不安そうな、どこにでもいそうな女だったはずだった。団長なんて務まるはずもなく、実力もないはずだった。だからその見た目を使ったのだろうと思っていた。
誰であれ、一度は見惚れるその美貌を。その顔と体で迫られれば大抵の男は首を縦に振るはずだから。
はくはくと浅い呼吸で目の前に落ちた手袋を見つめる。
拾いたくない、直感でそう言っている。けれど拾わなければとプライドが叫ぶ。
結局リーガンは何も考えず、気づけば手袋を拾っていた。「よろしい」と微笑むアビゲイルに、誰もが見惚れ、それから「終わったな」とリーガンの最後を悟った。
「アビゲイル、殺すなよ」
「殺さない。それにテスも呼んである。首を飛ばさない限りは大丈夫だろ」
アーサーがアビゲイルの指差す方向を見れば、ルイスに連れられ息を切らしている治癒術師の姿が見えた。
第一騎士団の演習場にリーガンとアビゲイルが立っている。二人の間には審判兼いざとなったら止める役のアーサー。周りにはルイス、テス、それから大量の野次馬がいた。
「先輩は私のことを身体で昇進した女だと思っているでしょう? いい機会だからここで皆さんに証明しましょう。先輩は剣を使っていいですよ」
アビゲイルは自分の腰に持っている剣を外してルイスに預ける。
「私は素手で十分ですから」
怖気付いて何もいえなくなっているリーガンを挑発してやれば。
「ふざけるなよ!!!」
リーガンはすぐに飛びかかってきた。
***
結果から言えば、当然、リーガンの惨敗だった。
死なない程度に全身の骨という骨を折られた。降参の意思表示ができないように顎の骨を折った。次に指、手、腕、肩、肋骨と一本ずつ折った。一気に折ると気絶してしまうから、本当に丁寧に上から順番に。
最後に足の骨を折って立てなくなったところで試合は終了。倒れ込んだ時の痛みでリーガンは気絶し、テスが慌てて治癒魔法をかけた。
テスの技量は知っている。同じ団員なのだから。
テスが今すぐ治癒できて、かつ最大限苦痛を与えられる方法をアビゲイルは選んだ。決闘の形式をとっているだけの私闘だった。
その後アビゲイルはドン引きしている野次馬の間を抜け、再度ロベルトに会いに行った。彼はまだ眠ったままだった。
ちょうど宰相補佐の同僚が見舞いに来ていたので、「しばらく会えなくなると伝えてくれ」と伝言を頼んだ。
次の日から、アビゲイルは自主的に謹慎した。
謹慎初日、アーサーが家を訪れた。
「別に今回の件でお前に謹慎令は出てないから、適当に5日休んだら戻ってこい。みんなお前の愛に感心してたぞ」
「愛ってなんだ愛って」
「恋人が怪我したから罰を恐れず決闘して自主謹慎したのを愛と呼ばずになんと呼ぶんだよ」
「みんなドン引きしてた気がするが」
「アビゲイルが去った後に拍手喝采だった」
「私がいる時にやれよ」
それもそうだな、とアーサーは笑っていた。手土産に食べ物と団員たちからのメッセージを渡された。早く戻ってこいだとか、リーガンの悪口だとか、愛だとか、そういうことが書かれていた。
アビゲイルは謹慎している間、大変暇だった。家中の掃除をしたり、トレーニングをしたり、弟が置いて行った本を読んだりした。
謹慎している間、ロベルトから手紙は一度も来なかった。家を訪ねてくることも。
病状だけが気になっていたので、ルイスに手紙を送れば「次の日には回復したそうです」と言われた。じゃあなぜ手紙を送ってくれないのか。なぜ会いに来てくれないのか、暇すぎてそんな、らしくもないことを考えていた。
きっと忙しいんだろう。そう言い聞かせながら気づけばロベルトに貰ったピアスに触れていた。




