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石の手

作者: 六福亭

 占い師のところに、一人の客がやってきました。


 客は、マントですっぽりと全身を包み、しばらくの間は口をきこうともしませんでした。占い師がうながすと、ようやく彼は口を開きます。


「私にかけられた呪いを、解いてほしいのです」


 客の男は、さっとマントを開きました。あらわになった両腕は、肘から先が灰色の石でできています。男が両手をゆっくりと卓に下ろすと、固く重い音がしました。


「私は一年前、酔っぱらった拍子のいたずらで、石像の両手をこわしてしまいました。すると翌朝、手がこうなっていたのです。……以来、まともに働くことも、人と親しくつきあうこともできず、みじめに生きてきました」


 彼は男泣きに泣きました。静かに聴いていた占い師は、水晶玉をのぞきこんでじっと考え込んでいるようでしたが、やがてこう告げました。


「西の都に行きなさい。そこに、呪いを解いてくれる人がいるかもしれない」


 それを聞いた男は、残ったわずかばかりの金で占い師にお礼を払い、立ち去りました。


 何か月もかけて西の都に辿り着くと、早速男は呪いを解いてくれる人を探しました。石の手を誰かれ構わず見せて相談しましたが、あわれに思ってお金や食べ物を恵んでくれる人や、面白がる人はいても、呪いの解き方が分かるという人はいませんでした。


 男は、昼も夜も石の両手をむき出しにして、都中をうろつき回りました。そのうち皆このあわれな男に慣れてしまい、相手にする者はいなくなりました。


 夏至祭りの夜、人々の行き交う広場を男がとぼとぼと歩いていると、楽しそうな人々の中でたった一人、たき火を見つめて泣いている娘がいました。


「どうして、泣いているのです?」


 男が思わずたずねると、娘は泣き泣き答えました。


「母の形見の指輪を、たき火の中に投げ捨てられてしまったのです」


 それを聞いた男は、迷わず言いました。


「では、私のこの手を使ってください」


 そして、あかあかと燃える大きな火の中に、石の手をさっと差し入れました。


 指輪は、燃え残りの小枝に引っかかっていました。取り出してみると、まるでちっとも燃えなかったかのように、きらきらと銀色に輝いています。娘は何度も何度もお礼を言いながら、黒くこげた石の手に触れました。


 するとその手は、みるみるうちにやわらかくあたたかな人間の手に変わりました。大喜びする男と娘は、たき火を囲んで一緒に踊りました。


 二人はすっかり仲良くなり、結婚することになりました。都から遠く離れた娘の家を訪ねていくと、父親が迎え入れてくれました。


 奇妙なことに、その父親には両手がありませんでした。


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― 新着の感想 ―
物語の余白に、いっぱい数を書いてきた六福亭さんのうまさを感ます。他者のために石の手を使う、父親の両手がないという不穏な結末。読む人の想像をかきたてる部分が、とても面白く感じました。
不思議で温かなお話でした。 誰かのために石の手を使うところが特に良かったです。 読ませていただき、ありがとうございました!
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