俺達の友情は永遠だ!
友情。
美しくも儚い言葉である。
種を植え、水をやり、大事に育てて芽吹く友情もある。
意図しない所から芽吹き、気がつけば大きく育ち、美しい花を咲かせる友情もあるだろう。
今日、一つの友情の話をしよう。
これは、とある三人の男の友情の話だ。
「友情パワァァァァァッ!」
田中の拳が佐藤の鳩尾にめり込む。
一切の加減の無い、素晴らしい一撃だった。
倒れ伏す佐藤。
そんな佐藤に田中が歩み寄る。
そして、乱暴に佐藤の身体を蹴り転がして仰向けにし、その懐に手を入れた。
「これで、俺とお前の友情は永遠だ!」
そう言って田中が佐藤の懐から一枚の紙を取り出して見せる。
楽し気なイラストの描かれた一枚の紙。
イラストの右側には番号が書かれている。
誰もが一度は見た事があるであろう一枚の紙。
……そう、宝くじだった。
「俺の……、俺の百万……!」
佐藤が呻くように声を発する。
どうやら百万円当たっているらしい。
友情とか言っているが、ぶっちゃけ犯行現場である。
友情が永遠になる瞬間などではない。
友情の花は、とうに枯れ果てている。
友情が爆裂四散する様を存分に見せつけていた。
「これの換金が終わった時、真の意味で俺達の友情は永遠のものとなる」
換金が終わった時。それは、真の意味で友情が永遠に終了する瞬間だと思う。
やっている事は、紛う事なき強盗である。
だが、そんな事を気にもせず、颯爽とその場を去ろうとする田中。
佐藤は腹を押さえ、身動き一つ取れずにいる。
このまま銀行まで止める者はいないかに思われた。
しかし、その瞬間だった。
「やらせるか!」
突如として現れた男が、田中に跳び蹴りを入れる。
間一髪で防御した田中が地面を転がった。
「佐藤との友情は俺の物だ!」
現れた第三の男の視線は宝くじに釘付けだった。
「お前は⁉ 鈴木!」
田中が叫ぶ。
そして、叫びながらも油断なく立ち上がる。
「まさか⁉ お前も佐藤との友情を狙っているのか⁉」
再度、田中が叫ぶ。
当たり前の様に宝くじを友情と呼ぶのはどうかと思う。
「当然だ! 佐藤との友情は誰にも渡さん!」
お前もナチュラルに宝くじを友情と呼ぶのを止めろ。
お前らの頭は金の事しか考えられないのか?
「お前に佐藤との友情を引き裂けるものか!」
今現在、佐藤との友情を引き裂こうとしているのはお前自身である。
「やって見せるさ!」
そう叫んで、鈴木が田中に襲い掛かる。
鈴木が田中の髪を掴み、田中は鈴木の脇腹に拳を叩きこむ。
二人して地面に倒れこみ、互いに掴み合い、殴り合う。
互いが血を流し、衣服は泥埃にまみれている。
強盗同士による醜い争いである。
何時まで続くとも知れない闘いだった。
その争いを止めたのは二人の決着ではない。
ある一人の男の覚醒によるものだった。
声が響く。
怒りに満ち溢れた声だった。
「お前等ぁぁぁぁぁぁっ!」
そう、佐藤の復活である。
佐藤の目は血走り、その身体は殺気を放っている。
「ヤベェ! ずらかれ!」
田中が叫ぶ。
その声を合図に、田中と鈴木は争う事を止め、一緒になって走り出す。
その姿は完全に逃亡する犯罪者だった。
「田中! 佐藤との友情は⁉」
「持ってる!」
「後で決着をつけるぞ!」
「分かった!」
後があるのか、それが、そもそもの問題だ。
こんな状況、警察に通報されれば即終了である。
「逃がすかぁぁぁぁ!」
田中と鈴木の背後から声が響く。
そして、その声は、凄まじいまでの速度で田中達に迫っていた。
「原付だと⁉」
背後を振り返った田中が叫ぶ。
その声に振り返った鈴木も驚愕の表情を浮かべる。
そう、佐藤は原付バイクに跨り、法定速度で迫って来ていた。
勿論、ヘルメットも装着している。
この状況でも順法意識があるのが驚きである。
「友情アタァァァック!」
佐藤のその声と共に、田中と鈴木に原付が突っ込む。
田中達が為す術もなく吹き飛ばされ、揉みくちゃになりながら地面に転がった。
前面が破損し、停車する原付バイク。
道路に残ったブレーキ痕。
そして、倒れ伏した田中と鈴木。
……何処に出しても恥ずかしくない、立派な人身事故現場である。
ヘルメット装着、法定速度順守と道路交通法に則った運転をしていたのに、人を撥ねる事に躊躇いが無いのはどういう事かと思う。
「俺の百万を返してもらうぞ!」
言いながら、倒れ伏した田中達の下に佐藤が歩み寄る。
「くっ……! 金の事しか頭にないのか⁉ 卑しい奴め!」
田中が言うが、どの口で言うのかという話である。
「金の為に俺達との友情を捨てるつもりか⁉」
鈴木も叫ぶが、だから、どの口で言うのかという話だ。
「うるせぇ! お前等との友情に値がつけられるか!」
佐藤が叫ぶ。
言っている事は、美しい言葉にも聞こえる。
だが、今回は、ただ単に価値が無いと言っているのである。
確かに、こんな連中との友情に一円の価値もない。
できるなら、金を払ってでも縁を切った方が良いと思う。
「持っているのは田中だったな……」
そう言って、佐藤が田中に近づく。
その瞬間だった。
倒れ伏した田中の懐から、一枚の宝くじが落ちる。
そして、風が吹いた。
宝くじが風に舞う。
誰の手も届かぬ空に宝くじが昇って行く。
「おい⁉」
「「俺達の友情が⁉」」
三人が叫ぶ。
だが、それに答えるはずもなく、宝くじは飛んでいく。
三人が必死に追いかける。
届きそうで届かない。
どれだけ手を伸ばしても、その手をすり抜けていった。
風の音が三人を嘲笑っているようだった。
そして、三人の友情は、事故現場を呆然と見つめていたオッサンの焚火に吸いこまれて行ったのだった。
「美味いな……」
「久しぶりに焼き芋なんて食べたな……」
「………………」
三人は、並んで焼き芋を食べていた。
焚火のオッサンが、お詫びにとくれた焼き芋だった。
「まあ、気を落とすなよ」
「そのうち、良い事あるって」
「………………」
田中と鈴木が佐藤に声を掛けるが、佐藤は無言だった。
それはそうだろう。
どの口で慰めの言葉など発しているのかという話だ。
百万円当たったはずなのに、佐藤に残された物は壊れた原付バイクだけだった。
「佐藤との友情を永遠のものにし損ねたな」
「そうだな」
「まあ、佐藤は運が良いから、また、チャンスはあるだろ」
「確かに、佐藤は、くじ運とか良いよな」
そう言って、田中と鈴木は笑いあう。
当の佐藤は無表情である。
くじ運が良くても、対人関係の運は壊滅的に悪そうだ。
「また友情を手に入れたら連絡をくれ」
「俺にも忘れずにな」
懲りていない。
奪いに来るのに、何故、連絡を貰えると思うのだろうか。
「………………」
佐藤は無言だ。
会話すらしたくないのだろう。
当然だった。
そして、佐藤は無言のまま、スマホで『友人 縁の切り方』と、検索していた。
『秋の文芸展2025』のテーマが『友情』だったので書いてみました。
書いてみたら友情の欠片もない話になってしまいましたが、気にせずに投稿します。




