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野井琅世のコメディー短編置き場

俺達の友情は永遠だ!

作者: 野井琅世
掲載日:2025/10/30



 友情。

 美しくも儚(はかな)い言葉である。

 種を植え、水をやり、大事に育てて芽吹く友情もある。

 意図しない所から芽吹き、気がつけば大きく育ち、美しい花を咲かせる友情もあるだろう。

 今日、一つの友情の話をしよう。

 これは、とある三人の男の友情の話だ。






「友情パワァァァァァッ!」


 田中の拳が佐藤の鳩尾(みぞおち)にめり込む。

 一切の加減の無い、素晴らしい一撃だった。

 倒れ伏す佐藤。

 そんな佐藤に田中が歩み寄る。

 そして、乱暴に佐藤の身体を蹴り転がして仰向けにし、その懐に手を入れた。


「これで、俺とお前の友情は永遠だ!」


 そう言って田中が佐藤の懐から一枚の紙を取り出して見せる。

 楽し気なイラストの描かれた一枚の紙。

 イラストの右側には番号が書かれている。

 誰もが一度は見た事があるであろう一枚の紙。


 ……そう、宝くじだった。



「俺の……、俺の百万……!」


 佐藤が呻くように声を発する。

 どうやら百万円当たっているらしい。

 友情とか言っているが、ぶっちゃけ犯行現場である。

 友情が永遠になる瞬間などではない。

 友情の花は、とうに枯れ果てている。

 友情が爆裂四散する様を存分に見せつけていた。


「これの換金が終わった時、真の意味で俺達の友情は永遠のものとなる」


 換金が終わった時。それは、真の意味で友情が永遠に終了する瞬間だと思う。

 やっている事は、紛う事なき強盗である。

 だが、そんな事を気にもせず、颯爽(さっそう)とその場を去ろうとする田中。

 佐藤は腹を押さえ、身動き一つ取れずにいる。

 このまま銀行まで止める者はいないかに思われた。

 しかし、その瞬間だった。


「やらせるか!」


 突如として現れた男が、田中に跳び蹴りを入れる。

 間一髪で防御した田中が地面を転がった。


「佐藤との友情は俺の物だ!」


 現れた第三の男の視線は宝くじに釘付けだった。


「お前は⁉ 鈴木!」


 田中が叫ぶ。

 そして、叫びながらも油断なく立ち上がる。


「まさか⁉ お前も佐藤との友情を狙っているのか⁉」


 再度、田中が叫ぶ。

 当たり前の様に宝くじを友情と呼ぶのはどうかと思う。


「当然だ! 佐藤との友情は誰にも渡さん!」


 お前もナチュラルに宝くじを友情と呼ぶのを止めろ。

 お前らの頭は金の事しか考えられないのか?


「お前に佐藤との友情を引き裂けるものか!」


 今現在、佐藤との友情を引き裂こうとしているのはお前自身である。


「やって見せるさ!」


 そう叫んで、鈴木が田中に襲い掛かる。

 鈴木が田中の髪を掴(つか)み、田中は鈴木の脇腹に拳を叩きこむ。

 二人して地面に倒れこみ、互いに掴み合い、殴り合う。

 互いが血を流し、衣服は泥埃にまみれている。


 強盗同士による醜い争いである。


 何時まで続くとも知れない闘いだった。

 その争いを止めたのは二人の決着ではない。

 ある一人の男の覚醒によるものだった。

 声が響く。

 怒りに満ち溢(あふ)れた声だった。


「お前等ぁぁぁぁぁぁっ!」


 そう、佐藤の復活である。

 佐藤の目は血走り、その身体は殺気を放っている。


「ヤベェ! ずらかれ!」


 田中が叫ぶ。

 その声を合図に、田中と鈴木は争う事を止め、一緒になって走り出す。

 その姿は完全に逃亡する犯罪者だった。


「田中! 佐藤との友情は⁉」

「持ってる!」

「後で決着をつけるぞ!」

「分かった!」


 後があるのか、それが、そもそもの問題だ。

 こんな状況、警察に通報されれば即終了である。


「逃がすかぁぁぁぁ!」


 田中と鈴木の背後から声が響く。

 そして、その声は、凄まじいまでの速度で田中達に迫っていた。


「原付だと⁉」


 背後を振り返った田中が叫ぶ。

 その声に振り返った鈴木も驚愕の表情を浮かべる。

 そう、佐藤は原付バイクに跨(またが)り、法定速度で迫って来ていた。

 勿論、ヘルメットも装着している。

 この状況でも順法意識があるのが驚きである。


「友情アタァァァック!」


 佐藤のその声と共に、田中と鈴木に原付が突っ込む。

 田中達が為す術もなく吹き飛ばされ、揉みくちゃになりながら地面に転がった。


 前面が破損し、停車する原付バイク。

 道路に残ったブレーキ痕。

 そして、倒れ伏した田中と鈴木。


 ……何処に出しても恥ずかしくない、立派な人身事故現場である。


 ヘルメット装着、法定速度順守と道路交通法に則(のっと)った運転をしていたのに、人を撥(は)ねる事に躊躇(ためら)いが無いのはどういう事かと思う。


「俺の百万を返してもらうぞ!」


 言いながら、倒れ伏した田中達の下に佐藤が歩み寄る。


「くっ……! 金の事しか頭にないのか⁉ 卑(いや)しい奴め!」


 田中が言うが、どの口で言うのかという話である。


「金の為に俺達との友情を捨てるつもりか⁉」


 鈴木も叫ぶが、だから、どの口で言うのかという話だ。


「うるせぇ! お前等との友情に値がつけられるか!」


 佐藤が叫ぶ。

 言っている事は、美しい言葉にも聞こえる。

 だが、今回は、ただ単に価値が無いと言っているのである。

 確かに、こんな連中との友情に一円の価値もない。

 できるなら、金を払ってでも縁を切った方が良いと思う。


「持っているのは田中だったな……」


 そう言って、佐藤が田中に近づく。

 その瞬間だった。

 倒れ伏した田中の懐から、一枚の宝くじが落ちる。


 そして、風が吹いた。

 宝くじが風に舞う。

 誰の手も届かぬ空に宝くじが昇って行く。


「おい⁉」

「「俺達の友情が⁉」」


 三人が叫ぶ。

 だが、それに答えるはずもなく、宝くじは飛んでいく。

 三人が必死に追いかける。

 届きそうで届かない。

 どれだけ手を伸ばしても、その手をすり抜けていった。

 風の音が三人を嘲笑っているようだった。

 そして、三人の友情は、事故現場を呆然と見つめていたオッサンの焚火(たきび)に吸いこまれて行ったのだった。






「美味いな……」

「久しぶりに焼き芋なんて食べたな……」

「………………」


 三人は、並んで焼き芋を食べていた。

 焚火のオッサンが、お詫(わ)びにとくれた焼き芋だった。


「まあ、気を落とすなよ」

「そのうち、良い事あるって」

「………………」


 田中と鈴木が佐藤に声を掛けるが、佐藤は無言だった。

 それはそうだろう。

 どの口で慰(なぐさ)めの言葉など発しているのかという話だ。

 百万円当たったはずなのに、佐藤に残された物は壊れた原付バイクだけだった。


「佐藤との友情を永遠のものにし損ねたな」

「そうだな」

「まあ、佐藤は運が良いから、また、チャンスはあるだろ」

「確かに、佐藤は、くじ運とか良いよな」


 そう言って、田中と鈴木は笑いあう。

 当の佐藤は無表情である。

 くじ運が良くても、対人関係の運は壊滅的に悪そうだ。


「また友情を手に入れたら連絡をくれ」

「俺にも忘れずにな」


 懲りていない。

 奪いに来るのに、何故、連絡を貰えると思うのだろうか。


「………………」


 佐藤は無言だ。

 会話すらしたくないのだろう。

 当然だった。



 そして、佐藤は無言のまま、スマホで『友人 縁の切り方』と、検索していた。


『秋の文芸展2025』のテーマが『友情』だったので書いてみました。

書いてみたら友情の欠片もない話になってしまいましたが、気にせずに投稿します。

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