表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

運命の解読者

 ある古代の奇書が解読された。人類に解読不能とされたものだが、一人の科学者であり文献学者でもあるJはそれをみて発狂したという。同時中継され翻訳されたが、本の内容そのものは移されなかった。もともと、いわくつきでその本を見たものが急死したという話さえある。J博士はそれを持ち前の好奇心で読み解き、解読を始めたが、数分と絶たず発狂。その発狂の様子はテレビで中継されていた。そして奇声をあげてスタジオの人々を怖がらせた。

「この奇書は、人々に魔術をもたらす!!」

 その番組は伝説となり、そうしてその科学者の目に移った文字は長い月日をたて解読され、人々はその奇書の内容を調べ、地球上のほぼすべての人々が解読を始めた。すると、ほとんどの人間は“予知能力”を手に入れてしまった。それからだ、人々がその能力でいさかいを始めたのは、そこかしこで戦争が起こって、人類はそれまでの生活を維持できなくなった。


ある女性探偵。探偵事務所にて、新人の助手と話しをしていた。


「わからないのか、運命を読めるものが、なぜ私をもとめてやってくるのか」

「わかりません、どうしてです、あなたは“奇書”を読まなかった」

「当然のことさ、誰もが奇書を読んだが、私にはある仮説があったのさ、そしてその仮説から、私の今の地位を手に入れた、向こうから物資をもってつっこんでくるんだ」


 バタン!扉が開いてショットガンを背負った男が入ってくる。

「ここか!」

 その瞬間、ショットガンをがっしりと構え銃口をこちらに向けた。

「右のタンスの奥に隠れろ」

「えっ!?」

 しかし、女性探偵の言葉が役にたったことなどない。右のタンスの奥に隠れた。

「次はクローゼット、その次は物干しざおの箸、次は外廊下をわたって二階へと上がれ」

 彼は彼女が言う通りにする。するとどうだろう。すべての弾丸は彼をよけた。二階へあがったあとも彼女は叫んで命令した。

「右!左!飛べ!……そして伏せろ!」

 ズドンという鈍い音がした後、天井は落下した。助手が体をあげると、がれきの影から後ろにさっきの大男が立ち上がった。

「危ない!」

 と女性探偵が叫ぶ。

「ふん!」

 得意げに大男はショットガンをふりかぶった。そのとき、垂れ下がっていた二階のソファが彼の後頭部を直撃して、彼は転がる様に地面に倒され張り付いたように動かなくなった。


「どうしてわかったんです?」

「私には“ナレーター”としての力が目覚めた」

「はい?どういう……」

「話せば長くなるが」


 そうして女性は自分の生活について話はじめた。あるハリウッド俳優の娘として育ち(この時点で助手はピンときたが)彼の傾倒するカルト宗教に洗脳された両親をみて、自分も一時期完全に支配されていた。だがそのカルト宗教から脱し、だっする時の経験が彼女の人生の役にたった。

「まず人の認識を惑わし、騙す素地をつくる、そして予言をいいはなち、準備した予言を実行する」

「それって……どういう」

「あの天才科学者Jが、番組中に発狂して亡くなった……とされているけれど、私は彼にきいたのよ、あなたは嘘をついていないかと」

「聞いたって?」

「彼は生きていたから、それ自体嘘だったから、私は彼の所在地をつきとめた、探偵の勘で」

「はあ?」


【あなたはあの時、大きな嘘をついた、だから世界はウソに巻き込まれることになった】

【ふふふ、君のような存在が現れると思っていたよ、まるで奇跡だ】

【やっぱりそうね、あなたはあの奇書こそが、人々に魔術をもたらすといった】

【騙される人間が悪い、それに、従来の人間の文明も、騙されることによって快楽をまし、騙されることによって欲望を流通させていた、ただそれだけだ】

【あれは、単なる催眠術の本だった、あなたは世界を催眠状態にしてしまった、おかげであらゆる人々は、未来を予知できると思ってしまった、世界は狂い、都市は荒れ果て、エネルギー資源は枯渇した、世界は正常な生活と文明を維持できなくなった、あなたはどう責任をとるの?】

【ふん、君の父だってそうじゃないか、彼はあの伝説の番組で一緒になった、私と敵対する宗教に所属し、私が発狂したとされる番組に出演していた、そして私をせめた、私はやはり人間の愚かさを実感したよ、君もそうだろう?】

【そうね】

【ならば黙っておくことだ、人々は自滅する、そしてその意識の中では、いつだって預言者になれるんだ】


 助手は探偵に尋ねた。

「でもどうして、あなたには彼の行動がよめるんです?」

「簡単よ、奇書の内容を解読した、洗脳のパターンを……すると顔の動きや、体の動きが一定の規則に基づいていることがわかった、もしかしたらJが何らかの電波で洗脳しているのかもしれにないけれど“洗脳される才能”がなかったことが、私の幸運であり、不幸だったかもね」


 助手と探偵は半分倒壊した雑居ビルの一室をでると、ほとんど廃墟だらけ、ガラスがわれ、すすけ、鉄骨の骨組みがあらわになって、自然に浸食されるばかりとなった都市の全体を見上げた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ