運命の解読者
ある古代の奇書が解読された。人類に解読不能とされたものだが、一人の科学者であり文献学者でもあるJはそれをみて発狂したという。同時中継され翻訳されたが、本の内容そのものは移されなかった。もともと、いわくつきでその本を見たものが急死したという話さえある。J博士はそれを持ち前の好奇心で読み解き、解読を始めたが、数分と絶たず発狂。その発狂の様子はテレビで中継されていた。そして奇声をあげてスタジオの人々を怖がらせた。
「この奇書は、人々に魔術をもたらす!!」
その番組は伝説となり、そうしてその科学者の目に移った文字は長い月日をたて解読され、人々はその奇書の内容を調べ、地球上のほぼすべての人々が解読を始めた。すると、ほとんどの人間は“予知能力”を手に入れてしまった。それからだ、人々がその能力でいさかいを始めたのは、そこかしこで戦争が起こって、人類はそれまでの生活を維持できなくなった。
ある女性探偵。探偵事務所にて、新人の助手と話しをしていた。
「わからないのか、運命を読めるものが、なぜ私をもとめてやってくるのか」
「わかりません、どうしてです、あなたは“奇書”を読まなかった」
「当然のことさ、誰もが奇書を読んだが、私にはある仮説があったのさ、そしてその仮説から、私の今の地位を手に入れた、向こうから物資をもってつっこんでくるんだ」
バタン!扉が開いてショットガンを背負った男が入ってくる。
「ここか!」
その瞬間、ショットガンをがっしりと構え銃口をこちらに向けた。
「右のタンスの奥に隠れろ」
「えっ!?」
しかし、女性探偵の言葉が役にたったことなどない。右のタンスの奥に隠れた。
「次はクローゼット、その次は物干しざおの箸、次は外廊下をわたって二階へと上がれ」
彼は彼女が言う通りにする。するとどうだろう。すべての弾丸は彼をよけた。二階へあがったあとも彼女は叫んで命令した。
「右!左!飛べ!……そして伏せろ!」
ズドンという鈍い音がした後、天井は落下した。助手が体をあげると、がれきの影から後ろにさっきの大男が立ち上がった。
「危ない!」
と女性探偵が叫ぶ。
「ふん!」
得意げに大男はショットガンをふりかぶった。そのとき、垂れ下がっていた二階のソファが彼の後頭部を直撃して、彼は転がる様に地面に倒され張り付いたように動かなくなった。
「どうしてわかったんです?」
「私には“ナレーター”としての力が目覚めた」
「はい?どういう……」
「話せば長くなるが」
そうして女性は自分の生活について話はじめた。あるハリウッド俳優の娘として育ち(この時点で助手はピンときたが)彼の傾倒するカルト宗教に洗脳された両親をみて、自分も一時期完全に支配されていた。だがそのカルト宗教から脱し、だっする時の経験が彼女の人生の役にたった。
「まず人の認識を惑わし、騙す素地をつくる、そして予言をいいはなち、準備した予言を実行する」
「それって……どういう」
「あの天才科学者Jが、番組中に発狂して亡くなった……とされているけれど、私は彼にきいたのよ、あなたは嘘をついていないかと」
「聞いたって?」
「彼は生きていたから、それ自体嘘だったから、私は彼の所在地をつきとめた、探偵の勘で」
「はあ?」
【あなたはあの時、大きな嘘をついた、だから世界はウソに巻き込まれることになった】
【ふふふ、君のような存在が現れると思っていたよ、まるで奇跡だ】
【やっぱりそうね、あなたはあの奇書こそが、人々に魔術をもたらすといった】
【騙される人間が悪い、それに、従来の人間の文明も、騙されることによって快楽をまし、騙されることによって欲望を流通させていた、ただそれだけだ】
【あれは、単なる催眠術の本だった、あなたは世界を催眠状態にしてしまった、おかげであらゆる人々は、未来を予知できると思ってしまった、世界は狂い、都市は荒れ果て、エネルギー資源は枯渇した、世界は正常な生活と文明を維持できなくなった、あなたはどう責任をとるの?】
【ふん、君の父だってそうじゃないか、彼はあの伝説の番組で一緒になった、私と敵対する宗教に所属し、私が発狂したとされる番組に出演していた、そして私をせめた、私はやはり人間の愚かさを実感したよ、君もそうだろう?】
【そうね】
【ならば黙っておくことだ、人々は自滅する、そしてその意識の中では、いつだって預言者になれるんだ】
助手は探偵に尋ねた。
「でもどうして、あなたには彼の行動がよめるんです?」
「簡単よ、奇書の内容を解読した、洗脳のパターンを……すると顔の動きや、体の動きが一定の規則に基づいていることがわかった、もしかしたらJが何らかの電波で洗脳しているのかもしれにないけれど“洗脳される才能”がなかったことが、私の幸運であり、不幸だったかもね」
助手と探偵は半分倒壊した雑居ビルの一室をでると、ほとんど廃墟だらけ、ガラスがわれ、すすけ、鉄骨の骨組みがあらわになって、自然に浸食されるばかりとなった都市の全体を見上げた。