episode5
セレスティーネは、登校時になるとアレクシスと一緒だったせいか・・一部の令嬢たちから陰口を叩かれるようになっていた。
セレスティーネは(自分は、ロンバルディーニの子どもでないから仕方ない)と心のどこかでいつも諦めている。
アレクシスの方にも、セレスティーネのことで親衛隊から報告が入っていた。
<階段から突き落とされた>
<自分は侯爵令嬢だから、立場が上なんだと言わないばかりに睨まれた>
アレクシスは、次から次へと自分が見ている普段のセレスティーネと報告書の中身が違いすぎて、違和感を覚えていた。
学園の生徒会に在籍しているアレクシスとセレスティーネの帰宅時間は異なるため、別々に邸に戻っている。それでも朝と晩は必ずルドヴィックが<家族はご飯を一緒に食べるものだ>と言い切り、一緒に食べるようにはしている。
アレクシスが生徒会室で報告書に悩みながらいると、書記のカリーナが入室してきた。
カリーナは、生徒会と親衛隊両方を兼ねている。
「アレクシス様に、質問がございます」
アレクシスは、カリーナを見て思う。
(相変わらず、気の強そうな女だ。夜会でも俺に、エスコートをなん度も頼んでくる・・・)
カリーナの父は、王家の覚えも良いロンバルディーニ家と縁を繋ぎたい一方で、娘を嗾ける。
政治的思惑が見えみえで、アレクシスは辟易していた。
「質問とはなんだ?」
「あの・・・セレスティーネって子は、最近になってアレクシス様のお父様の子だという噂をお耳にしましたわ。
しかも私たちにまで無礼な態度をとって、ちょっと貴族としての行いを放棄しているように見えますわ」
(カリーナがいる間は、他の下位貴族の女共の厄介払いができていてからそのままにしていたが、もう潮時か・・セレスティーネを害するものがいると知れば、義父上は、俺を含めて社交界から消し去ろうと動くだろう。それくらい、セレスティーネのことは後悔していた。セレスティーネが目覚めるまで、毎日懺悔を繰り返していた)
アレクシスはカリーナの話を聞きながらも、ルドヴィックがどのように動くかを思案していた。
「彼女は色々あったから、あまり責めるような言い方はやめてくれ。俺は帰る」
アレクシスは静かに、生徒会室を後にした。
相変わらず何も話さないセレスティーネだけれども、テディと一緒に遊んでいる姿は自然とアレクシスも心が癒されていた。
「セレスティーネ。テディ。ただいま。そろそろ日が暮れるから、部屋に入るんだ」
アレクシスが声をかけると、二人は黙ってアレクシスの後について邸に戻った。
玄関に入ると、セレスティーネはテディに抱きついていた。
「はぁ・・よく抱きついてるけれど、テディは砂だらけで汚れている。まだ制服だろ?早くお風呂に入った方がいい」
アレクシスがドロシーを呼ぶと、セレスティーネの世話を任せた。
「アレクシス様が心配なさっていますからね。さぁお風呂に行きましょ?」
セレスティーネは、テディを見つめながらもドロシーに連れられて部屋にあるシャワールームに案内された。
このときなぜ、セレスティーネがテディから離れたがらなかったのか・・その答えは、翌日に判明する。
アレクシスがいつものように生徒会室へ行くと、副会長のライアンが待っていた。
ライアンは、ルドヴィックの妹の子で、形上はアレクシスと従兄弟にあたる。
「セレスティーネが、エリーゼ様の娘だって?」
ライアンは、躊躇することなくアレクシスに尋ねる。
「ああ。心的外傷があったみたいで、誰とも話さない状態が続いている。それで誤解されている事が多い」
「へぇ。俺の母さん『いくらなんでも、騎士として忙しくしているとはいえ家族を顧みないなんて情けない兄だ』と言いながら怒っていたよ」
「情けない兄ね・・その言葉は否定しない。義父上の名誉のためにも言っておくが、それについては本人も後悔していた」
「彼女、学園でほとんど見かけることはないんだけど?」
「ああ。Cクラスだからじゃないか?」
「そこ?そこにいるのか。それは会わないな。っていうか、なぜC?なんだ?」
「学力は良かったみたいだが・・運動神経の方が問題だったらしい」
「ああそれでCクラスか・・なぁ。この生徒会の続き、お前の家でやってもいいか?ちょっと母さんから探り入れてこいってお願いされてるんだよね」
「お前だけならいいだろう」
アレクシスが立ち上がると、「私もご一緒したいですわ」といいながら入室してきてのは、カリーナだった。
「どこから話聞いていた?」
ライアンが探りを入れる。
「アレクシス様のおうちへ伺うって話ですわ」
それを聞いて二人は、安堵する。
ロンバルディーニの複雑な家庭状況を、知られるわけにはいかないからだ。
カリーナには、別の目的があった。
ロンバルディーニ邸へ行くことになったのを、護衛騎士に伝えると同時に「犬の始末をお願いね」と耳元で囁いた。
カリーナは自分には吠えてばかりのアレクシスについている犬が、嫌いだった。
むしろ、動物全般着用しているドレスや制服が汚れるから苦手意識があった。