episode2
ルドヴィックが、連れてきたセレスティーネはしばらく客間にいた。
一日に五回も、医師が呼ばれて周りの方が困惑していた。
「極度の栄養不足と脱水です。高熱は、無理に旅をしたからです」と忠告受けたのにも関わらずルドヴィックは自分の意見を押し通した。
「いいや。旅をしたから治るんだ」
「それは、屈強な騎士団のやり方です。令嬢は繊細なんですから、もう少し大切に扱ってください」
医師の意見に反対するものは、ルドヴィック以外はいなかった。
一方でアレクシスは、昨日ルドヴィックとの会話から一夜明けても、まだセレスティーネとの関係を決めかねていた。
(このまま、俺が彼女の前に出ていいのだろうか・・たった一人の恨まれていないだろうか・・)
「わんわん」
大丈夫だというように、スタンダードプードルがアレクシスの頬を舐めていた。
「テディお前は、本当にかわいいな」
アレクシスがフィーネから初めて、プレゼントされたのがこの犬だった。
『きっとペットでも買えば、お兄様も元気になるはず』
フィーネはエリーゼを亡くしてまもない兄のために今貴族で流行りのプレゼントでペットを用意しようとしたが、アレクシスの存在がルドヴィックに生きる希望を与えたため、スタンダードプードルは『テディ』と名付けられてアレクシスのペットとなっている。
セレスティーネが目覚めたのは、三日ほど経過した朝のことだった。
「セレスティーネ様?目が覚めたのですね?」
ドロシーとローラが、セレスティーネと別れたのは、セレスティーネが3歳の頃だった。
可愛らしい声を聞かせてくれるはずだと思った二人は、待てどくらせど言葉を発しないセレスティーネを見て顔を見合わせる。
「「旦那様」」
二人は部屋を飛び出し階段を慌てて駆け降りると、アレクシスと共にブレックファースト会場にいるルドヴィックの元へと駆け寄る。
「どうした二人とも、走ってここまできて。ちょっとは落ち着きなさい」
二人は、息を整えながらルドヴィックに伝える。
「旦那様こそ、落ち着いてください。お嬢様・・話せない・・です・・」
ドロシーとローラは、まだエリーゼが生きていた頃にセレスティーネの声を聞いたことがあった。
それなのに、久しぶりにあったセレスティーネは、話すどころか瞳も合わせなければ、口も開かなかった。
そのことにショックを受けた二人は、ルドヴィックの元へと駆け込んだ。
ルドヴィックは話を聞くとすぐに騎士団に在中している医師を、邸へと派遣した。
セレスティーネが寝ている時は短いと感じていた診察時間も、さすがに今回は事がことだけに慎重に診察されているのだろうと見てとれるほど時間がかっていた。
セレスティーネの診察が終わるよりも先に、アレクシスは学園へ行く時間となり邸を出て行った。
行き場をなくしたテディは、そのままセレスティーネの部屋の片隅で昼寝をはじめた。
医師の診察の結果、セレスティーネはエリーゼがいなくなってから、エラから受けた虐待が原因で話ができなくなっていた。
それと同時にエラを尋問しているうちに毎回セレスティーネは『両親から見捨てられた。父親は、男の子が欲しかったから男の子を育てている』と吹き込まれていた事がわかった。
そこでルドヴィックは、決断した。
セレスティーネも、アレクシスみたいに同年代のお友達と付き合えば、話ができるようになるのではないかと考えた。
セレスティーネの身体が栄養をとれるようになって、元気になったら学園に通わせようと模索し始めた。