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episode1

「領地へ行ったと思ったら、慌てて帰ってきてどうしたんですか?」

 アレクシスは見たことのない、ルドヴィックの焦りを見て目を見開いて驚いていた。


 ルドヴィックが慌てて領地へ行ってきたのには、理由がある。

執事であるマーカスが、高齢になるため隠居生活を送たいと申し出たことから全てが明るみに出た。

なんとルドヴィックの妻エリーゼは、極秘出産をしていた。

エリーゼ自身は、ルドヴィックが英雄と騒がれている期間が終わり次第、全てを伝えようと準備していた。

哀しいことに、連日領地での仕事に追われ過労で倒れてしまいそのまま亡くなってしまった。

 そのことがようやく執事マーカスから、ルドヴィックへと伝えられた。

『なぜ?なぜ今になって、伝えてきたんだ?いつでも話すチャンスはあったはずだ』

 マーカスは、ルドヴィックの隣にいるアレクシスを見た。

『ルドヴィック様には、セレスティーネ様以外にも、ご子息がいるかと思ってました。それに私の仕事は、あくまでも領地のことが範囲内でございます。それに・・もしも幼いセレスティーネ様に、エラの悪意が向けられた場合生命の保証がありませんでした』


 マーカスのいう通り、ロンバルディーニ侯爵家は、かなり特殊だ。

領地と王都では、仕事内容も全然違う。

王都は、騎士団や警備隊の擁立が主な仕事になる。

だからこそ、エリーゼは領地で一人っきりで慣れない仕事に励むしかなかった。

それが、ロンバルディーニ侯爵家のやり方だ。


 ルドヴィックは、マーカスの話を聞いてすぐに王都の邸を飛び出して領地へと向かった。

そこでエラを拘束し、部屋で一人苦しんでいたセレスティーネを抱き抱えて馬車へと飛び乗った。

栄養の足りない弱った身体では、3日間の馬車の旅は過酷だったようで、2日目には高熱を出していた。

ルドヴィックは意識のないセレスティーネを抱き抱えながら、自責の念に囚われていた。

 

 ルドヴィックが英雄となった今、領地のことはマーカスに任せっきりになっていた。

邸のことは侍女長のエラ一人がいればいいと思い、ドロシーとローラはアレクシスを引き取ったことで侍女として領地から呼び寄せていた。


 「ドロシーとローラを呼んできてくれ」

 

 ルドヴィックは、領地で短い期間エリーゼと過ごしてきた二人を執務室へと呼び出した。


 「旦那様お呼びでしょうか?」

ドロシーとローラが、おそるおそる入室してきた。

 

「すまない、二人を責めるつもりはない。ただ・・なぜセレスティーネのことを黙っていたのか教えてもらってもいいか?」


 ルドヴィックは、領地でどのようにセレスティーネが過ごしていたのか二人から聞き出すことにした。


 「侍女長であるエラは、虐待防止法違反の罪で騎士団にて拘束されているから、安心していい」

 二人は、手を胸に当てて安堵する。

「セレスティーネ様は・・ルドヴィック様とエリーゼ様の娘になります。ただ、エリーゼ様が話さなかったこと・・そして、ルドヴィック様がアレクシス様をお育てになっていることで、侍女長であるエラが『私が育てる』と豪語いたしました。そしてそれは『ルドヴィック様の許可をとっている』といったものでした」

「侍女長であるエラに逆らえば・・それはセレスティーネ様へと向けられると思い、私たちは何も話すことができませんでした」

「私たちができることといえば、「セレスティーネ様が無事に過ごせること』を祈ることでした」

 

 ルドヴィックから見て二人が、嘘をついているようには思えず・・しばらくはセレスティーネの世話をお願いする。

 

 ルドヴィックの落ち込んでいる様子に、アレクシスが心配そうに目尻を下げる。

「義父上。大丈夫ですか?」

「ああ・・情けないな。エリーゼが、子どもを産んでくれていたことに気づかなかったなんて・・」

続けてルドヴィックは、「アレクシスに話を聞いてくれないか?」と尋ねると彼は快諾した。


 ルドヴィックは、ワインと紅茶を用意すると、アレクシスの前に紅茶を置いて、話はじめる。

「私は・・英雄と呼ばれる前に一人の男だ。エリーゼを初めて見たのは、フィーネが学園でできた初めての友達だと行ってこの家に連れてきた時だった。綺麗な薄茶色の髪に、アイスブルーの瞳が綺麗だと思っていた。

彼女の両親は、彼女があまり身体が強くないことから・・婚約の承諾が難しかったが、それでも俺は彼女しかいないと思って、結婚を申し込んだ」

 ルドヴィックは一口ワインを飲むと、アレクシスにも紅茶を勧める。

話を続けた。

「彼女は身体が弱いから、子どもができにくいと医師から診断を受けていた。それがまさか俺が英雄になるあの戦果の前に、妊娠していたなんて思ってもいなかった・・エリーゼは、俺の周りが落ち着いてから話そうと考えてくれていたらしいが、結局過労で倒れてそのままだ・・。俺もエリーゼを亡くしたショックで、周りが何も見えていなかったんだろうな・・今回執事であるマーカスが、話してくれたことで、ようやくセレスティーネがいることが明るみに出た。アレクシスにも、負担をかけるが・・すまない」

 ルドヴィックは、アレクシスに頭を下げた。

アレクシスは、その動きを制すると自分の考えを述べる。

「俺にできる範囲でしたら、協力します。ただ彼女が俺を受け入れてくれるかが問題だと思いますが・・」

「アレクお前の存在が、俺をまた奮い立たせてくれたんだ。お前ならできる」

 

 ルドヴィックと話したその夜の会話は、アレクシスにとっても自分の存在が認めてもらえたようで嬉しかった。

アレクシスは、ルドヴィックからたくさんの愛情をもらっていると肌で感じていた。

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