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どうやら運だけはいいみたいです  作者: イッキ
異世界「兎」始動編
9/33

騎士とうさぎ

何が起きたのか理解出来ていない俺の前に立っているのは黒いマントの男だった。

石像は横たわっている。


あの大きな石像を吹っ飛ばしたのか。

コイツ何をしたんだ。


「聞こえていないのか!鳶目珀兎!」


俺の名前を知られている。

何者なんだ?

とりあえず助けられたのは事実か。

「誰だか知らないが助かった。ありがとう。」

「礼などいらない。すぐに立て。コイツ、まだ動くぞ。」

「!?」


石像が起き上がろうとしている。

冗談だろ・・・。

まだ動くのかよ。


「何をボサっとしている!キサマも天使から与えられたものがはず。その力を使い闘ってきたはずだ。今ではかなり力をつけているんだろう!」


は?

力なんて付けていませんけど?

このフワフワでモコモコな物。

効果があるのか無いのか分からないアクセサリーを付けているだけなんですけど。

何をおっしゃられているんですか?

まだまだ魔物を倒した事すらない低レベルの冒険者なんですけど。


だが今のコイツの言葉で一つ分かった。

コイツは・・・。

俺と同じ、転生者だ。

ミカエルから俺の事を聞かされていたのか?

どうして今このダンジョンにいるんだ。

くそっ!今は考えていても仕方がない!

コイツと手を組んで石像を倒す事を考えろ。

黒いマントの横に立ち構える。


黒マントが先陣を切り石像に向かって走り出す。

「あっ。」

罠だ・・・。

床に穴が空き、黒マントは吸い込まれるように落ちて行った。

覗き込むとかなり深そうだ。

底が全く見えない。

「鳶目珀兎ぉぉーーー!!」

遠くなる黒マントの声が聞こえた・・・。

名を呼ぶな。

俺は何もしてねぇよ。


石像に目を向けると立ち上がってしまっていた。

マジかよ・・・。

結局、俺一人で戦わないと行けないのか。

しかしどうしたことだ?

石像は動かずに襲ってこない。


「力は見せてもらった。」


石像が口を開いた。

「私を倒したその力。なかなかのものだ。」


いや、さっきのは俺じゃ無いんですけど。

「我は貴様の力となろう。我を呼びたければこれを鳴らし、呼ぶが良い。」

石像からベルを託された。


俺じゃ無いんよー。

貰っても困るわー。


「さらばじゃ。強き者よ。」

そう言うと石像は消えてしまった。

「・・・。」

どうしよう。

これ・・・。

今度会った時、アイツに渡せばいいか・・・。

ベルをしまい部屋を見渡すと石像が消えたおかげか奥の扉が開いていた。

とりあえず皆んなを探そう。


扉を開くと道は左右に別れている。

「またかよ。どっちに行けばいいんだ?」

悩んでいると左の道の奥から声が聞こえる。

「たすけてーーー!」

この声は!?パトラの声だ!

パトラの叫び声がどんどん近づいてくる。

肉眼でパトラを確認出来るようになり手を振ったが、狼の群れに追われているようだ。

「兎ーー!だずげでーー!!」

涙を流し全力で俺に助けを求めている。

おいおい、冗談だろ。

あの数、十頭くらいいるじゃねぇか。


・・・そうだ!さっきのベル!

アイツには悪い気がするが使ってみるか。

「パトラ!俺の後ろに回れ!」

パトラがヘッドスライディングで俺の後ろに滑り込んだ事を確認し、俺はベルを鳴らした。


さっきの巨大な石像が現れ通路を遮る。

魔物の群れは急に現れた石像に驚き逃げ返していった。


「本当に出た。助かったよ。ありがとう!」

「・・・。」

石像が口を開く。

「あの・・・。今度はもっと広い所で呼んでくれる?」

石像は狭い通路にピッタリ収まり身動きが取れないようだ。

・・・すまん。

石像は消え、俺たちは事なきを得た。


「うわぁーーん!うさぎぃぃーー!ありがどーー!」

パトラが俺にしがみ付き感謝を述べる。

涙と鼻水で服が汚れてしまうので、しがみ付くパトラを振り解く。

パトラが落ち着くのを待ち、話を聞く事にした。

どうやら転移魔法で飛ばされた部屋にあの魔物立ちがいて、ずっとあの魔物達に追われて逃げて来たらしい。

ここまでは一本道だったみたいだ。

じゃあ俺たちが行くべき道は右の通路か。

普段のパトラに戻ったところで俺たちは右の通路に行く事にした。


「それよりさっきの大きいやつはなんなの?兎が出したの?」

「ちょっと色々あってな。」

卑怯者呼ばわりされそうだったので説明することは伏せておく事にした。

「とりあえず今は二人を探して合流しないとな。」

「それもそうね!あの二人、大丈夫かしら。」

なんの問題も無いだろう。

なんて言ってもミミが付いているんだから。


「ワシとした事が。油断しておったのぉ。」

「大丈夫ですか!?」

檻に閉じ込められミミは身動きが取れなくなってしまっていた。

「もう!ミミさんが目に付く宝箱を片っ端から闇雲に開けるからですよ!」

ミミはぐうの音も出ない様子だ。

「おっ。そうじゃった。」

ミミは元のうさぎの姿にもどり小さくなった事で檻の外へと抜け出した。

抜け出した所で人間の姿に戻る。

「こうすれば簡単に出られるんじゃった。ハッハッハッ。」

緊張感の無いミミにマチはいたたまれない様子で、二人を探しますよ!と足早にその場を離れる。


「このダンジョンどうも気になるのぉ。まるで古代の遺跡じゃの。古めかしく、壁に描かれておる文字。長く生きておるワシも初めて目にする文字じゃ。」

「どれだけ古い遺跡なんでしょうか?」

「コレばかりはワシにも全く検討がつかんのぉ。」

進んでいると大きく豪華に飾らせている扉がある所にたどり着く。

「如何にもな扉じゃのう。」

「二人とも見当たりませんね。」

「ふむ。立ち止まっておっても仕方がない。中に入っておるやも知れん。行くとしよう。」

扉を開き二人は中に入る。


明らかに人が座るイスではない。

人より遥かに大きな生物が座る為に作られたイスが部屋の中央にドッシリと構えてある。

「玉座の部屋か。どうやら、この遺跡の主は大層なヤツじゃったようじゃのう。」

マチがキョロキョロと辺りを見渡し二人がいないかを確認する。

「お二人ともいらっしゃいませんね。」

「あやつら、どこで何をしておるのじゃ。」

ふとミミの方を向いたマチはミミの後ろに鎧を着た騎士が立ち、ミミに向かって剣を振りかぶろうとしていることに気が付く。


「ミミさん!危ない!後ろです!!」

「!?」

ミミは寸前で避けマチの近く跳びよる。

「騎士のようですがアレは何でしょうか・・・?全く気配を感じ取れませんでした。」

マチを後退させミミが前に出る。


「ミミ、さがっておれ。此奴かなりの手練れじゃ。」

ミミにすら全く気配を感じ取らせるとこ無く背後を取った程の相手だ。

それが相手の力量を示している。


マチに部屋から出る事を指示したが扉は固く閉ざされており開きそうにない。

「どうやら此奴を倒さないとここからは出れぬようじゃの。」

騎士が剣を構え咆哮をあげる。

騎士のオーラが部屋中を包み込む。

マチは騎士との圧倒的な力の差を感じ全身が震え上がり、その場にへたり込んでしまった。

無理もないのぉ。

此奴、ワシと同等、もしくはワシ以上の手練れかも知れん。

気を抜く訳にはいかんようじゃの。

ミミも集中し、力を開放させる。


「かかって来い。ワシが相手をしてやるわい。」

両者がぶつかり戦闘が始まる。


マチの目には今、何が起きているのか捉える事が出来ない。

青白い光が部屋中を駆け回り、時に壁や地面に抉られた様な痕が付き闘いの壮絶さを物語っていた。


マチの横を激しい強風が通過し、壁にドンッ!っと凄まじい勢いで何かが叩きつけられる。


「ぐはっ!?」

「そんな・・・。ミミさん!?」


ミミの姿はボロボロで立ち上がるのにも時間が掛かっている。

同時に騎士の鎧も所々が凹み、よろめいている。


「まさか、ここまでのヤツじゃったとは・・・。思っておった以上にやりおるわい・・・。」

その様子を見兼ねたマチが勇気を振り絞り立ち上がり、ミミを回復させようと駆け寄る。


「いかん!マチ!避けろ!」


「え・・・?」


マチが背後の騎士に顔を向けた瞬間、激しい衝撃が自信を貫く。

騎士は自らの剣をマチ目掛け投げつけた。

その刃はマチの背中から胸を突き抜け、ミミの横に突き刺さる。

マチはその場に倒れ込んだ。


「・・・マチ?」


「マチ!しっかりせい!お主はまだこんな所で死んではならん!」

マチは大量の血を流し動く気配は無い。

ミミが駆け寄りマチを抱きかかえ何度も、何度も名前を呼ぶが反応はない。


ミミの頬を涙が伝い落ちる。

涙が抱えたマチの頬に触れた時だった。


「・・・ヒー・・リング。」


マチは最後の力を振り絞りミミの怪我を負った体をの傷を癒す。


「マチ!?お主なにをしておる!ワシでは無く自分を治せ!」

「ごほっ・・・。私がいても・・・ミミさんの邪魔になってしまう・・・だけです。それに・・・ごほっ・・・。私はもう・・・助かりません。」

「何を言っておる!今、手当をすればまだ助かる!お主の師匠として命ずる。自分を治すのじゃ!」

ミミにも既に手遅れである事はわかってはいたが、自然とそう口走っていた。


「・・・私は出来の悪い・・・弟子ですね。」


マチは笑顔で最後にそう言い残し、息を引き取った。

ミミの傷は完全に癒やされ、疲労も消えていた。


そっとその場にマチを下ろし静かに立ち上がる。

「・・・マチお主は出来の悪い弟子なんぞではない。そこで見ておれ。此奴はワシが必ず倒す!」


ミミが右足で激しく地面を何度も踏み付ける。

ダンッ!ダンッ!という激しい音と共に振動で神殿は揺れ、壁が崩れ落ちるほど振動する。

ミミは騎士をこれ迄に見せた事がない形相で睨み付ける。

騎士を睨みつける眼光は青く光を放っていた。


騎士はミミの変化に構えを取ろうとするが瞬間、腹部に衝撃が走り鎧が砕け玉座へと吹き飛ばされる。

騎士は立ち上がる間も無く真上に蹴り上げられ、高速で上下左右から猛攻を受ける。


千翔撃せんしょうげき!!!」


ミミの数千にも及ぶ高速で放たれる蹴りの連撃により、騎士の姿はまるで空中に浮かんでいるように見える。

最後の蹴りで地面に叩きつけられた騎士の全身は、完全に鎧が剥がれ落ちており、既に騎士と呼ぶには程遠いものだった。


完全に沈黙した騎士は灰となり消え、戦闘が終結した。


騎士が消え去ったことを確認したミミはよろめきながらマチの元にゆっくりと歩み寄り座り込んだ。

「はぁ。はぁ。・・・勝ったぞ。・・・マチ。」


激しい振動と共にガラガラと天井が崩れ落ちる。

「あぶねっ!!」

瓦礫を咄嗟にかわし俺は事なきを得る。

「さっきから何が起こってるんだろう?」

俺とパトラは何が起きているのか見当も付かず、とりあえず大きな音が鳴る方へと向かいダンジョン内を彷徨っていた。


暫くすると音は止み、激しい揺れもおさった。

「物凄い衝撃だったけど止んだみたいだな。」

「今の音、あの扉の奥から聞こえた見たいだけど。」

俺たちは大きな扉の向こうに元凶があると思い、恐る恐る扉を開いた。


扉の先で俺たちが目にしたのは座り込んだミミと大量の血を流し横たわっているマチの姿だった。

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