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どうやら運だけはいいみたいです  作者: イッキ
異世界「兎」始動編
5/33

稲妻のうさぎ

うさぎだ。

何の違いも無く、俺が良く知っているうさぎだ。


俺は昨日と同じく街の外でスキル、ジャンプの練習をしてた。

すると茂みからピョンっとうさぎが飛び出して来た。

この世界に来てまともなやつを見ていない。

キツネーゼと呼ばれるモグラだったり。

カメザードと呼ばれるザリガニだったり。

加工するとスルメになる作物のタコだったり。


だが目の前にいるうさぎは動物園やペットショップなどで見るうさぎと全く違いがない。

俺は見た目の可愛さより、違う興味心が勝ってしまっていた。

この世界でコイツはなんで呼ばれているんだろう?だ。


捕まえてマチかパトラにでも聞いてみるか。


練習したスキルの試運転にも丁度いいかも知れないと考え、物音を立てないように静かに近づく。

少し距離を詰めたところでうさぎの耳がピンと立ち上がる。

その瞬間目にも止まらない速さで走り出した。

「はやっ!?」

うさぎの姿はあっという間に見えなくなった。


「完全に前の世界うさぎより速いな。」


俺はまだ近くにいるのではないかと思い、茂みに身を潜め再び現れるのを待った。


「来た!」

再び姿を見せたうさぎに悟られないように距離を保ちながら見失わないように見張る。

「さっきの距離でダメならここから試してみるか。」


うさぎまでの距離はざっと100メートルほどだろうか。


「ジャンプ!!」


真上に跳ぶのでは無く、前方に向かって地面を力強く蹴る。

地面蹴った足音にうさぎが反応するがうさぎが走るより少し早くうさぎの体に手が触れる。

「遅いっ!」

上を通り過ぎるのと同時にうさぎを抱え込み拾い上げる。

着地も決まりうさぎの捕獲は成功した。

「やったぜ!」

特に暴れる様子も見せず、大人しい。

手触りもモコモコで、近くでみるとやはり可愛らしい。

「お前も練習台になってくれてありがとうな。もう少しだけ付き合ってくれ。」

うさぎをしっかりと抱き抱える。

全く抵抗する様子が見られなかったので二人がいるかも知れないギルドへと連れて行くことにした。


街へ戻り、ギルドに向かっているがみんなの視線が集まっていることに気付く。

なんだか街に入ってから妙にみんなからの視線を感じる。

「そう言えば門に居た衛兵の人たちにも見られいた気がするけど。コイツがそんなに珍しいのか?」

そうこう考えている間にギルドに着いた。


ギルド内を見渡すとパトラは居なかったがマチの姿があった。

マチに声を掛けようとするがやはりここでも俺に視線が集まっていた。

なんなんだよ。

「おーい。マチ!」

「あっ。兎さん。こんにち・・・?!」

マチが固まってしまった。

「マチ!?大丈夫か!?街の外でコイツを捕まえたんだけどなんて言う生き物なのか聞きたくて連れてきたんだけど。」


「ラッ、稲妻兎ライトニング・ラビット!!」

ラビット!?

本当にうさぎだった。

それにしてもライトニング・ラビットって偉く大それた名前だな。

「どどどど、どうされたんですかその子!?」

マチの動揺が激しい。

ギルドのヤツらも何やらザワザワし始めた。

「いや、だから街の外で見かけたんでなんて言う生き物なのかなーって思って捕まえたんだ。」

ざわつきが更に激しくなる。

「捕まえた・・・兎さんが!?」

「あぁ。そんなに珍しいのかコイツ?」

「珍しいなんて物じゃありませんよ!!」

マチがグッと俺に近づく。


「稲妻兎はその名の通り稲妻の様な速さで移動します。警戒心が高い上に視野も広く、その大きな耳で遠くの物音まで感知出来るので見掛けることは出来ても近づく事はほぼ不可能と言われている動物なんです。」


コイツ、そんなに凄いうさぎだったのか。


「捕獲の難しさからSランク動物に位置付けられていて、買おうとすれば大きなお城が三つ建てられるくらいの値段で取引されています。」

「へぇ。お城がねぇ。・・・えっ!?は?城!?」

体が震え、全身から水分という水分が溢れ出て来て一気に喉が渇く。

「それに生きた状態での捕獲は今までで数回しか確認されておらず、生きた状態となると・・・。どれだけの価値が付くか想像も出来ません。」


・・・これはマズイ。かなりマズイ予感がする!


「マチ!!ここから離れるぞ!」

「え?」


「おい!兄ちゃん。その稲妻兎、こっちへ渡しな。」

予想通りだ。

ギルドに居たガラの悪そうな連中が武器を手に持ち絡んでくる。

「大人しく渡せば命だけは助けてやるぜ。」

あっという間に俺たちは取り囲まれ逃げ道を失った。

「皆さん、落ち着いてください。ギルド内での争い事はやめて下さい。」

リリアンさんが止めに入るか連中は聞く耳なんて持たない。

リリアンを払い除けこっちに詰め寄ってくる。

「わわわ。兎さん!どっどうしましょう。」

慌てるマチを横目にどうにかここから逃げ出す手立てを考える。

ギルド内を見渡すとギルド内の人間がこの一階に集まっている事に気が付いた。

・・・試したことは無いけどやってみるしか無い。


「マチ!俺に掴まれ!」

「え!?」

「いいから早く!」

マチが俺の体にしがみついた事を確認し絶対に手を離すなよと念を打つ。

「おいおい兄ちゃん。何するつもりか知らねぇが怪我じゃ済まないことになるぜ。見たところ装備も貧弱。まだまだ低レベルの冒険者だろ。」

俺はニヤリと笑って見せる。

「誰も闘うなんて言ってないぜ!ジャンプ!」

「きゃあ!」

マチと共にギルドの二階に飛び上がる。

「なっ!?」

一瞬で二階に移動した俺たちを見てギルド内の全員が驚く。

二階の窓を開け、そこからすかさず今度は前方に。

「へへ。じゃあな!」

そういいジャンプをして脱出した。


マチがかなり怖がっていたがジャンプを駆使し、俺たちはうさぎを捕まえた場所まで移動した。


「はぁ。はぁ。ここまで来ればもう大丈夫だろ。」

「そうですね。それにしても兎さん。今のは?」

職業選択時に得られたスキルである事を説明したがマチは驚いた様子で。

「すっ凄いスキルですね。」

「あぁ。はぁ。はぁ。いいスキルだろ?はぁ。はぁ。」

息の上がりと体力の消耗が凄まじい。

練習の時は休憩を挟みながらやっていたが今は流石に乱用し過ぎたみたいだ。

その様子を見兼ねたマチが少し待って下さいねと徐ろに俺に手をかざす。

回復唱術ヒーリング。」

みるみるうちに俺の身体から疲労が消えていく。

「おぉ!サンキュ。」

どうやらマチの回復魔法は怪我だけじゃ無く疲労回復効果もあるようだ。


さてと。

追っての無いことを確認し、俺はうさぎをそっと野に放つ。

「悪かったな。もう捕まえないから行きな。次は誰にも捕まるなよ。」

マチが驚きを隠せない。

「兎さん、逃しちゃっていいんですか!?大金持ちになれるんですよ!?」

まぁ少し勿体無い気持ちもあるが・・・。

「スキルの練習をしてただけだからな。コイツもいい練習相手になってくれたし。」

なにより俺の名前にも「うさぎ」が入っているし、今は兎を名乗っている。

同じうさぎ同士、コイツを売り払うって事はあまり考えたくない。

ん?

なんだコイツ?全然逃げて行こうとしない。

「おーい。悪かったよ。もう行っていいんだぞ。」

耳をピクピク動かすだけで全くその場から動かない。


「まぁいいか。そう言えばマチも悪かったな。家まで送っていくよ。」

「いえいえ。大丈夫ですよ。この間も送り届けて貰ったので悪いですし。それに私、1人用ですが帰還魔法リターンの魔法も使えるんですよ。」

「そっか。巻き込んで悪かったな。じゃあまたな。」

「はい。」

そう言うとマチは帰還魔法で帰って行った。


「俺も帰るか。」


街の方へ歩みを進めているとさっきのうさぎが後をついて来ている事に気づいた。

「おいおい!せっかく逃してやったのについて来てどうするんだよ!お前ついて来たら捕まって売られちまうぞ。もう行けって。」

うさぎは離れて行こうとしない。

「まいったな。コイツを連れて帰ったらまた騒ぎになるぞ。」

どうしたものかと考えていたとき。


「ふむ。なかなかの人間じゃな。」


どこからか声が聞こえたが周りを見回しても誰の姿もない。


「こっちじゃよ。こっち。」

「!?」

うさぎが喋ってる!?

「なんじゃ?この姿ではワシと話にくいか?それなら。ホイ!」


そう言うと、うさぎは人間の女の子に姿に変身した。

「どうじゃ?これなら話やすいであろう。ハッハッハッ!」

目の前で起きている事が理解出来ず困惑しながらも質問をする。

「お前、本当にさっきのうさぎなのか?」

そうじゃと頷くと、ホレっとまたうさぎの姿に戻ってみせた。

再び人間の姿になり、これで信じられたか?と目を丸くさせる俺の方を見て高らかに笑ってみせる。

「この世界のうさぎってすごい事が出来るんだな。」

「イヤ、こんな芸当が出来るのはワシくらいのもんじゃろうて。」

感心しているとうさぎは続けて俺にこう言った。


「さて。ワシから提案があるのじゃが。」

提案?

「どうじゃお主。ワシはお主が気に入った。ワシの主人にならんか?」

「主人!?」


「なぁに、お主にペットとして飼われてやると言う意味じゃ。安心せい。普段はこの姿でおってやるわい。」


それにしても偉く年寄りクサイ喋り方だな。

この見た目でこの喋り方はどうも違和感がある。

本当はかなり年齢を重ねているのだろうか。


「どうして俺がお前の主人にならないといけないんだ?今まで通り自然で暮らせばいいじゃないか。」

「だから言っておろう。お主が気に入ったと。それにお主は全然気づいてなかったかもしれんが。」

「?」

「お主。ワシの胸をずーーーっと抱きしめておったのじゃぞ。責任はとってもらわんとのぉ。ハッハッハッ!」

「なんやて!?」

「主人にならんと言うならワシにも考えがあるぞ。このまま街へ赴き、街中に言いふらして回ろうかのう。」

それはマズイ。

この姿でそんなことを言いふらされれば俺の第二の人生も終わってしまう。

「わかった。わかったから落ち着いてくれ。」

「冗談じゃよ?」

このうさぎ。


会話をしながらうさぎと街へ戻る街道を歩く。

「お前、名前とかないのか?ずっとお前とかうさぎって呼ぶわけにもいかないだろ。」

俺も今は兎だしな。

「そうじゃのぉ。昔は確か〜、ぴょん治郎と呼ばれておったかのぉ。」

オスの名前じゃねぇか。


「お前、オスなのか?」

「見ての通りメスに決まっておろう。まったく。」

名前を付けたやつはどんな気持ちでそんな名前を付けたんだ・・・。

それに昔って言ったな。前にも飼われていた事があったんだろうか。

「ぴょん治郎は呼ぶ気が起きん。」

じゃあ、お主で好きな呼び名を考えろと突き返される。

好きな名前と言ってもなぁ。

うさぎと言えば・・・。

「ミミ。」

「なんじゃ?」

「お前の名前。ミミでいいか?」

「ワシがうさぎじゃからミミ〜?安易な名前じゃのぉ。センスが無いぞ、お主。」

ぐうの音もでない。

「まぁいいじゃろう。ではワシは今日からミミと名乗ろう。」

名前がミミに決まった。


街の門に近づいたところで異変に気付く。

ギルドに居たガラの悪いヤツらが徒党を組み、明らかに俺を待っている。

「さっきの奴等じゃの。」

「あぁ。クソッ。待ち伏せかよ。」

「なぁに。このまま行けばよい。」

俺の静止も聞かずミミはそのまま門へと歩いていく。


「おい!戻って来たぞ!」

「てめぇ!さっきはよく逃げてくれたな。」

「稲妻兎はどこにやった!さっさとよこしやがれ!」

俺がうさぎを抱いていない事に気が付き、より強い口調で恫喝してくる。

「悪いな。さっきのうさぎなら逃してやった。今頃どこかを走り回ってるんじゃないか。」

本当はここにいるんだけどな。

「バカなことをしやがって。どうやら痛い目に遭わないとわからないらしいな。」

またジャンプで逃げるかと考えていた時だった。


「おい!連れてこい!」

そう言うと大柄の男が縄で縛った女性を連れてくる。

「マチ!?」

「兎さん!ごめんなさい。」

最悪だ。

やっぱり一人で街に帰したのがいけなかった。

「今度は逃げようとなんて考えるなよ。その時はこの女がどういう目に遭うか、わかってるよなぁ?」

「どうしろって言うんだ!うさぎはもう逃したんだ!もうここにはいない!」

「じゃあもう一度捕まえてこい。ヤツを捕まえて来ればこの女は返してやる。ただし!一時間以内だ。」

一時間以内に稲妻兎をもう一度、しかも今度はミミとは違ううさぎを見つけて捕まれるなんて不可能に等しい。

どうすればいいか思考を働かせていた時、ミミが前にでる。

「まったく。本当に愚かな連中じゃのぉ。」

「なんだと!なんだてめぇは」

「ワシはぴょん治郎!此奴はワシの主人じゃ。」

いや、ミミだから。

「主人だぁ?止まらねぇならお前からやってやろうか。」

面白いとミミが更に前にでる。

「おい、ミミ!!何やってるんだ!戻れっ!」

俺の静止も聞かずどんどん連中に向かって行く。


「まぁ見ておれ。」

「クソッ!!野郎ども!やっちまえ!」

「待っ・・・!?」


その瞬間。

俺が眼にしたのは。


ー稲妻ー


青く光る閃光が奴等の間を駆け抜けていく。

地面に火花が舞い、閃光が横切るとバタバタと奴等は倒れていく。


あっという間の出来事だった。

ミミはマチを抱え俺の元に戻ってきた。

その場に立っている者はなく、全員が意識を失っている。


「ホレ。自分の足で立たぬか。」

「ごっごめんなさい。」

呆気に取られている俺たちを横目にミミは至って冷静だ。


ミミは俺の方を見て、ふんっ!と鼻で笑ってみせた。

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