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東の大陸と兎

半日が経ち、出港の準備が整い港に着いた俺たちが目にしたのは小さな漁船・・・。

これが小さな漁船・・・!?

船を見たみんなも驚き空いた口が塞がらない。

どう見てもこれは、プレジャーボートだ!!

「とても漁船にはみえませんね・・・。」


「よう!来たか、兄ちゃんたち。」

「船乗りのおっちゃん!こ、これってどうしたんだ!?小さな漁船って話だっただろ?」

「へへへ。俺が趣味で乗り回してたボートだ。俺しか知らない秘密の地下に隠していたものだ。コイツで東の大陸に送ってやるよ。」

こんなものどこに隠してたんだよ・・・。

「本当にこれでワシらを送ってくれるのか?」

「あぁ。なんて言っても影を倒してくれたんだ。しかし、未だ街の人間はほとんど行方不明。俺は兄ちゃんたちに期待してんだ。兄ちゃんたちなら必ずみんなを救ってくれるってな!」

ヨキが強気に前に出る。

「任せろ。必ずみんなを救ってみせる。」

船乗りはニヤリと笑い、タバコに火をつけ蒸す。

「やっぱりいいねぇ!姉ちゃん、どうだ?戻ったら俺の嫁にならねぇか?」

「まぁ。」

「ほう。」

「わぁお・・・。」

マチが頬を赤くして口を塞ぎ、ミミが目を大きくする。

俺はあんぐり状態だ。

突然の船乗りからの申し出に顔を赤らめてヨキが戸惑う。

「な、なにを馬鹿なことを言っている。そんなものに私は興味はない。」

「何だ。少しは考えてくれてもいいじゃねぇか。」

軽くあしらわれた船乗りを見て、俺たちは自然と笑ってしまった。


プレジャーボートに乗り込み、港を離れて海に出た。

モーターの音が響いて、波を切って進む。

俺は東の大陸に近づく実感を感じている。

「これで東の大陸まで行けるんだな。それに思ってたよりスピードもでるんだな!」

「そのようじゃの。これなら思っていたより早く東の大陸につきそうじゃの。」

ヨキが船首に立ち、前方を見つめている。

「ツインも言っていた。影の王の復活が近いかも知れない。船が遅れることは許さんぞ。」

「威勢のいい姉ちゃんだ。安心しな燃料ならたっぷり詰め込んだ。嵐でも来ない限り一日もかかりゃしねぇよ!」

いや、フラグを立てないでくれ・・・。

俺の脳裏に不安が過ぎる。


その時パトラが急に立ち上がった。

「なっ、なんだよパトラ!びっくりするだろ。」

黙ったまま運転席に近づき、船乗りに何やら耳打ちをしている。

「・・・ん?あぁ、あと1人くらいは乗れないでもないがどうしたんだ?」

ありがとう、おじさんと声をかけ戻ってきた。

ナイフを取り出し、へへっと笑ってみせる。

「ルシアン、出ておいで!」


船の上にルシアンが呼び出させる。

船乗りのおっちゃんも急に船の上に1人現れて驚きを隠せない。

銀髪を潮風に靡かせながら現れたが、ルシアンはなぜ呼び出されたのか戸惑っている。

「・・・?パトラ様?いかがなさいましたか?」

ルシアンに飛び付き、抱きしめ、顔を擦り付ける。

「だってぇ〜。この前は久しぶりに会えたのにすぐに戻しちゃったじゃんかぁ〜。それにずっとナイフの中なんて可哀想でしょ〜。」

戸惑ったルシアンの顔もパトラの言葉に自然と緩み、笑みが溢れる。

「パトラ様。お気遣いありがとうございます。身に余る光栄でございます。」

パトラのヤツ、本当にルシアンのこと気に入ってるんだなぁ・・・。

「ねぇ、ルシアン。聞きたいことがあるんだけど。」

「はい。何なりとお聞きください。」


「影の王って知ってる??」

その名を聞いた途端、ルシアンの表情が一変する。

殺気立つルシアンにヨキが咄嗟に剣を構える。


「あー、もー!だから、ヨキ!剣をしまえ!ルシアンもその殺気、なんとかしろ!」


ルシアンが冷静を取り戻すのを確認しヨキが剣を収める。

「・・・申し訳ありません。私としたことが少し取り乱してしまいました。」


何だか訳がありそうだな・・・。


「ルシアン、何か知ってるなら影の王について俺たちに教えてもらえないか?」

船の椅子に腰を掛け、静かに俺たちを見渡し口を開く。


九百年前ーー


魔王が世界にその名を轟かせ始めた頃。

魔王城の玉座の間では、若き魔王が静かに座し、その背後に濃い影が揺れていた。

魔王の魔力はあまりに強大で、日を追うごとに増していくその力は、影にまで影響を及ぼしていた。

ある日、その影が動き出した。

最初はかすかな震えだったものが、次第に形を成し、黒い霧のような姿で立ち上がった。

影は魔王の足元に跪き、忠実に仕える姿勢を見せていた。


ルシアンは魔王の側近としてその光景を眺めていた。

影が動き出した時も、特に異変を感じなかった。

魔王が力を示せば示すほど、その影もまた力強く立ち、魔王の命令に従って動く姿は自然なものに思えた。


「我が影よ、我に争う、西の森の魔物を鎮めてみせよ。」

魔王の銘に、影は無言で頷き、霧となって城を出て行った。

ルシアンはその背を見送りながら、魔王に一礼した。


「魔王様、影が動き出したのはお力の証にございます。私も影にお供いたしましょうか?」

「いや、よい。ルシアン、お前はここに控えていろ。あれは我が一部だ。」


魔王の言葉に、ルシアンは静かに下がった。

影は確かに忠実だった。

魔王の命じるままに魔物を倒し、戻ってはまた次の命令を待った。


だが、その平穏は脆くも崩れた。

ある夜、月が雲に隠れ、魔王城が静寂に包まれた時だ。

ルシアンはいつものように寝所を見回りに訪れた。扉を開けると、薄暗い部屋の中で魔王が深い眠りについているのが見えた。

だが、その胸元から黒い霧が立ち上り、影が不気味に揺れている。

よく見ると、影の手が魔王の身体に伸び、魔力を吸い取っている。

黒い糸のようなものが魔王から影へと流れ込み、影の姿が一層濃く、力強く変化していた。


ルシアンは目を疑い、影に駆け寄った。

「貴様、魔王様に何をしている!」

影はゆっくりと振り返り、赤く光る目でルシアンを睨んだ。

そして、冷たく笑ってみせる。

「貴様如きに我が目的を語る必要はない。黙って見ていればよい。」


次の瞬間、影から力が放たれ、ルシアンを闇の中へと引き摺り込んだ。

闇の中では身動きが出来ず、闇が身体を締め付ける。

「魔王様を裏切る気か・・・。 貴様は魔王様の影ではないのか・・・!」

ルシアンの叫びに、影は嘲笑を響かせた。

「裏切り? 否、我は貴様らの支配を超える存在となる。この魔力を我がものとし、我が道を切り開く。それが我の定めだ。」


闇が締め付け、息が詰まるほどの圧迫感に襲われた。

必死に抗ったが、何も抵抗することが出来なかった。

ルシアンは死を覚悟した。

だがその時、寝所に轟音が響き、魔王が目を覚ました。


魔王は立ち上がり、怒りに満ちた声で一喝した。

「我が影がこのような裏切りを働くか! 貴様、我を愚弄するか!!」


魔王の手から放たれた魔力の奔流が影を直撃し、黒い霧が一瞬にして吹き飛んだ。

闇が祓われ、ルシアンは床に倒れ込み、荒い息をつきながらその光景を見上げた。

影は苦しげにうめき、魔王を睨みつけた。


「貴様の力は確かに強い・・・。だが、我はもう貴様の一部ではない。いずれ我が貴様を超えてみせる。」


影はそう吐き捨てると、窓から黒い霧となって逃げ出し、夜の闇に消えた。


魔王はルシアンに近づき、静かに声をかけた。

「ルシアン、無事か。」

ルシアンは膝をつき、頭を下げて答えた。


「魔王様・・・。お救いいただき感謝申し上げます。私としたことが、影を止められず申し訳ございません・・・。」

「貴様を責める気はない。影の思惑に気付かなかった我の油断でもある。」

魔王の声は穏やかだったが、ルシアンの胸には悔しさと怒りが渦巻いていた。


その後、影は魔王城を離れ、世界中を襲い始めた。村々を闇で覆い、人々の恐怖を糧に力を増し、やがて「影の王」と呼ばれるようになった。

ルシアンは影が去った寝所で静かに誓った。

「魔王様を裏切り、私を闇に引きずり込んだ貴様を許さぬ。いつか必ずその罪を償わせてみせる。」


「今や私はパトラ様に忠義を誓った身ではありますが、影への憎しみは消えてはおりません。」


ルシアンの話を聞き終えた頃、東の大陸に近づき、波の音が静かに響く中、ボートが岸に着いた。


ボートが砂浜にそっと乗り上げ、俺たちは順番に降り立つ。

潮風が頬を撫で、遠くでカモメの鳴き声が聞こえる。

東の大陸だ。

やっと着いたんだな。


「静かだな・・・。いくら砂浜でも少し不気味なくらいだ。」

パトラが荷物を下ろしながら首をかしげる。

「確かに・・・。鳥の声しか聞こえない。」


ヨキが船から降り、辺りを見回す。

「油断するな。影の王が近いなら、いつ何が起きてもおかしくない。」


俺たちが荷物を砂浜に置き終えたその時、地面から黒い霧が立ち上り始めた。

霧が形を成し、影となって周りを取り囲むように現れる。

現れた影の数は尋常じゃない。


「うわっ、なんだこれ!?多すぎるだろ!」


ヨキが即座に剣を抜き、影に飛びかかる。

「切り開くぞ!」

ヨキが剣を振るって二体を切り裂き、俺たちも核を狙って影を攻撃する。

たが、次の影がすぐ湧いてくる。


「くそっ、倒してもキリがないぞ!」

ヨキがさらに何体かを切り裂くが、影の数は減らない。

増える一方だ。


「くっ・・・。これでは埒が明かない!」


ルシアンが静かに前に進み出る。


「皆様、お下がりください。」


俺が息を切らしながら叫ぶ。

「ルシアン、一人じゃ危険だ! 」

ヨキも剣を構えたまま言う。

「そうだ、キサマ!何を考えているんだ!」


ルシアンは振り返り、落ち着いた声で答える。

「この程度、私一人で十分でございます。」


ルシアンが両手をかざすと、黒い風が渦を巻き、影たちへと襲いかかった。

一瞬にして影が切り裂かれ、霧となって消えていく。

あっという間に周囲が静かになった。


俺たちは呆然とその光景を見つめる。

「影に攻撃が効いただと・・・!?」

「なっ・・・!?どういうことだ!? 普通なら効かないはずなのに!」


俺たちが驚く中、ルシアンは穏やかに振り返り、静かに説明した。

「ヤツは影とはいえ、魔物であることに変わりはございません。私もまた魔物、故に私の攻撃はヤツに効くのでございます。」


「さすがルシアン!頼りになるー!」

パトラが飛び付き、ルシアンを称える。


さすがルシアンだ。

頼りになるぜ・・・。

この話の中でルシアンが900年前と語っていますが、ミミが先代の魔王と戦った魔大戦が130年前。

試練ではこの頃の魔王城が生成され、ルシアンがパトラに使役されました。

ツインが影の王と戦ったのが1000年前です。

ルシアンは自分が試練で生まれたものとは知りません。

故に語り始めが1000年前ではなく900年前になります。

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