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忘れたうさぎ

ぴょん治郎は来る日も、来る日もツインの帰りを待った。

村長と共に、影の王を倒し笑顔でツインが帰ってくるのを待ち続けた。

村の入り口の丘に立ち、遠くを見つめた。

「ツインなら影の王を倒して戻ってくるよ」

村長が優しく声をかけてくれたが、ツインは戻って来なかった。


日が経つにつれ、ぴょん治郎の心にぽっかり空いた穴が耐えきれなくなった。

ツインがいないことに我慢できず、ある夜、ぴょん治郎は村を出た。

光苔が淡く輝く村を後にし、ツインの後を追い、広い大地を駆け回った。

何年も、何年もツインを探して走った。

その小さな体で、信じられない速さで走り続けた。


幾年もの年月がそれを忘れさせるには十分だった。


いつしか自分はなぜ走っているのだろう?

何か大切なものを待っていた気がするが思い出せない。

頭に残るのは、誰かが優しくつけてくれた名前だけ。


「ぴょん治郎」。


それだけが心に残り、ぴょん治郎は走る理由さえ忘れてしまった。

自分は一体何をしていたのだろう。


千年もの時が流れ、あの村は廃墟となり、地図から消え、ぴょん治郎の記憶からも遠ざかっていた。



ツインは遺物を探す。

村長から渡された首飾りを手に、新しい地図を広げた。

「クソッ!!影の王の場所は分かっているのにもう一つの光の場所が一向に掴めない!新しい世界地図を買って、何度も試したが場所を示してくれない!どうしてなんだ!」


「二つの光が一つとなりし時、影の王を討ち滅ぼすもの現れり。」


「一つは村長が僕に託してくれたのに・・・。どこにあるんだ!」


影の王の居場所ははっきりしてる。

東の大陸の荒野だ。

でも、もう一つの光が無ければ、影の王を倒せない。


影の王は日増しに勢いを増し、このままじゃ世界が闇に影に呑まれてしまう。


村々が静まり返り、街の人が消える話が絶えなかった。

「ためらってる場合じゃない。僕が動かなきゃ、世界が影に呑まれてしまう!」

「ダメよツイン!!まだもう一つが見つかっていないじゃない!今行っても勝てるかわからないわ!」

天使が現れ、立ち上がるツインを静止する。

「でももう時間が無いんだ!僕がやるしか無いんだ!ごめん、天使様・・・。」

ツインは双星剣を腰に差し、駆け出した。


影の王が潜む東の大陸の荒野へ向かう覚悟を決めた。

港から船に乗り、荒涼とした大地を踏みしめた。

目指す荒野へ近づくため、ひたすら歩を進めた。


ツインは荒野に辿り着いた。

風が唸りを上げて、砂塵が目を刺す。

遠くに黒い霧が立ち込め、異様な空気が漂ってきた。

「ここに影の王が・・・。」

双星剣を握り締める。

「僕の実力でどこまでやれるか分からない。でも、相打ちになってでも影の王を止めてやる!」


荒野を進むと、黒い霧が視界を塞いできた。

足元の岩がゴツゴツしてて、歩きにくい。

ツインは剣を構え、霧の奥を睨んだ。

「出てこいよ、影の王!ここにお前がいることは分かっているんだ!僕、勇者ツインが相手だ!」

霧の中から重い唸り声が響き、黒い影が蠢いてるのが見えた。

ツインは口元を吊り上げる。

「キミが影の王が・・・。これ以上お前の好きにさせてたまるか!!」


影の王が巨大な闇の塊となってツインを見下ろす。

「貴様か、我の邪魔をしておった姑息な人間は!」

声が荒野を震わせ、黒い霧が渦を巻いた。

ツインは剣を握り直す。

「これ以上キミの好き勝手させない!」

双星剣を振り上げ、闇に飛び込む。


影の王が嗤う。

「我が分身を払った程度で調子に乗るな!」

闇の腕が地面を砕き、ツインを薙ぎ払う。

凄まじい力に剣は弾かれ体が跳ね、岩に叩きつけられる。


「グハッ!」


血が地面に飛び散り、腕が痺れる。

這って立ち上がり、剣を構える。

「なんて力だ・・・。」


「無駄な抵抗だ。我の力はお前如きが抗えるものではない!」

影の王が巨大な闇の爪を振り下ろす。

爪が地面を抉り、衝撃波がツインを吹き飛ばす。

体が岩に激突し、肩が折れ、体が軋む音が聞こえる。

影の王が闇の槍を突き立てる。

「我が前に跪き、永遠の闇に沈め!」

槍が腹を貫き、ツインは膝をつく。


「ガハッ・・・!」


「やはり今の僕の力では影の王に勝ことは出来ないのか・・・。クソッ!!」

ツインは首飾りを握り掲げるが影の王には効果がみられない。

「分身には効いたけど、キミにはダメか・・・。」


影の王が嘲笑う。

「そんな光ごとき、我には無意味だ。貴様の命をここで終わらせてやる!」


「・・・なら、僕自身を使って君を封印してやる!」


影の王が爪を振り上げる。


「終わりだ!闇に消えろ!」


ツインはボロボロの体で立ち上がる。

剣を収め、影の王に闇雲に突進する。

「僕自身に封印の効果を付与!お前をこの荒野に閉じ込める!」

ツインの体が光を帯び、影の王に突き刺さる。


「貴様・・・!?これは・・・!?何をするつもりだ!!」

影の王が暴れ、闇が荒れ狂う。


ツインは血を吐きながら叫ぶ。

「お前をこの地に封じる!!」

光が眩く輝き、影の王を包む。

「我を封じるだと!?この力は・・・!」

光と闇がぶつかり合い、大地が割れる。


「封印しろ!!」


影の王が光に呑まれ、動きが止まる。

「グアァァァーー!!」


ツインの叫びと共に大きな爆発が荒野を揺らし、深い窪地ができた。


この場所は幾年も経ち、窪地に水が湧き、大きな湖となる。


爆発の衝撃でツインは吹き飛ばされ、首飾りも手から離れて空を舞う。

ツインが落ちた場所は一面に花が咲く野原だった。

凄まじい衝撃で地面が陥没し、真ん中の花が散り飛び、ドーナツ状の花畑になっていた。


「うっ・・・。どこだ、ここ・・・?」

体が砕け、血が地面に滲む。

「影の王は・・・。封印できたのか・・・?」


ツインは這って動く。

「首飾り・・・。落としちゃったな・・・。」

目が霞む・・・。

意識が・・・。

手を地面に押し当てる。

「はぁ・・・。はぁ・・・。地面に効果を付与・・・。僕を隠す地下空間を作れ・・・。」

地面が震え、穴が開く。

石の階段が現れ、ツインは転がり落ちる。

服に付いた微量の光苔が散らばり、地下の床に舞った。


壁に背を預け、息が途切れそうになる。

「ここまでだな・・・。」

目を閉じる。

「僕の魂に・・・効果を付与する・・・。僕と同じ勇者が現れた時・・・。その人を導く・・・役目を与えてくれ・・・。」

体が光に包まれ、魂が抜け出す。

「ごめんよ・・・。ぴょん治郎・・・。君の元に・・・戻ることが出来なくて・・・。」

光が消え、体は動かなくなる。

地下に静寂が降りた。


首飾りは爆発の衝撃で遠くへ飛ばされ、空を切り裂いて落ちていく。

風に乗り、落下する。

首飾りは土に埋もれ、陽光に鈍く光る。

その日の夕方、村の農夫が畑でそれを見つけた。

「これは・・・村長がツインに託した光の遺物じゃないか!?」

農夫は首飾りを拾い、村長の家に急ぐ。

「村長!村長ーー!!これ、畑に落ちてただ!」

首飾りを見て村長が驚く。

「こっ、これは!?」

血と泥で汚れた首飾りは依然として微かな光を放っていた。

村長が村の人たちに声を掛けツインの捜索を行ったが、ツインは発見出来なかった。



地下の部屋に光苔が淡く輝き、ツインの光の姿が静かに珀兎たちを見守る中、ミミが震える声で口を開いた。


「ツイン、すまぬ・・・。」

ミミがツインに謝罪する。

「ワシはお主の顔を見るまで全てを忘れておった。」


ツインは優しい顔でミミを見つめ返す。

「仕方ないよ。それほどの時間が経ったんだ。」


ミミが目を伏せ、続ける。

「まさかあの廃村・・・。ヨキの故郷がお主とワシが暮らした村じゃったとは・・・。」

その言葉に、ヨキが剣を強く握りしめる。

「母が持っていた、首飾り・・・。あれが光の遺物。」

ツインが穏やかに頷き、ヨキに目を向ける。

「偶然にも村の近くに落ちて、誰かが拾ってくれたみたいだね。そしてキミのお母さんにしっかりと受け継がれたんだ。」


ヨキが唇を噛み、悔しそうに声を絞り出す。

「ぐっ・・・。だがそれも村が影に襲われた時に持ち去られてしまった・・・。」


「ヨキ、キミの村が襲われたのは、影の王の封印が弱まってきたからだろう。影の王は光の遺物が再び自分の邪魔になるのを防ぐために、それを持ち去ったんだと思う。」


ヨキが剣を握り直し、鋭い目で前を見据える。

「ならば私がこのキサマの剣、この双星剣で影の王を倒すまでだ!」


ツインがヨキを見て、優しく微笑む。

「その意気だよ、ヨキ。キミは僕の元に辿り着いた。・・・僕はね、もう一つの光とはキミのことでは無いかと僕は思うんだ。僕の血を受け継いだキミ、僕とヨキ。これが二つの光だと思うんだ。キミは影に挑もうとする勇気もある。きっとヨキなら勇者としてやっていけるだろう。双星剣を受け継いだキミと僕が揃えば、影の王を完全に滅ぼせる。」


ヨキが双星剣を手に持つ力を強める。

「母や村のみんなの仇を討つためなら、私に怖いものはない。」

ツインが光の姿でヨキを見据え、穏やかに答える。

「そうだよ、ヨキ。僕と君ならできる。双星剣に宿る光と、僕の魂が一つになれば、必ず勝てるさ。」


地下の部屋に静寂が戻り、光苔の輝きが一行を包む。


「ワシらも協力するぞ。お主らに力をかそう!」


俺たちは決意を胸に秘め、地下の部屋でそれぞれの想いを固め、次の戦いに備えた。


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