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ツインとうさぎ

千年前。


世界の各地で奇妙な噂が流れていた。

村や街から人が消えるという、得体の知れない現象。

魔物の仕業か、それとも神隠しか。

次々に人が消え、「今度はこの街が標的になるかもしれない」という恐怖が、人々を怯えさせ、暮らしを暗くしていた。


そんなある日、王都に一人の若い男が現れた。

華奢な体つきのその若者は、片手で巨大な魔物を引きずりながら、城下町を堂々と歩いて通る。

その魔物は、人が消える騒ぎとは別の問題で近隣を荒らしていた凶暴な魔物だった。

手がつけられず、腕自慢の冒険者たちでさえ返り討ちに遭い、命を落とすほどの強さを持つ魔物だ。

街はたちまち大騒ぎになり、その喧騒を聞きつけた王がその者を城に連れてこいと命じた。


兵士たちが若者を王の前に連れてくる。

王は、威厳ある声で問いかけた。

「お主の話は聞いた。あの魔物はお主が倒したのか?」

若者は堂々とした態度で、どこか自慢げに答える。

「はい。みんなが困っているとお聞きしたので、僕が退治してきました。」


王も兵士たちも、信じられないという顔で若者を見つめる。

腕自慢の冒険者たちが束になっても敵わなかった魔物だ。

こんな細身の若者が倒せるとは、到底思えない。

王は眉を寄せ、一人の騎士を呼んだ。

「王都随一の実力を備えた騎士だ。力は私が保証する。その魔物を倒したというお主の力を、この場で見せてみよ。」

王の言葉に、若者は軽く頷く。

「分かりました。」


その軽い返事に、騎士が苛立ちを見せる。

「ふん、生意気な小僧め。その鼻っ柱、へし折ってやる!」

騎士が剣を構え、意気込んで前に出る。

だが、決着は一瞬だった。

若者が剣を抜き、一閃。

次の瞬間、騎士は床に這いつくばり、喉元に剣を突きつけられていた。

「僕の勝ちです。」


王も兵士たちも、騎士があっさりやられたことに何が起きたのかさえ理解出来ていない。

その場が静まり返る中、王が驚きの声を上げた。

「お、お主!名前はなんと申す!」

若者は剣を鞘に納め、落ち着いた声で答える。


「僕の名前はツイン。魔物退治を生業としている冒険者です。」


城中が再び大騒ぎになる。

王は立ち上がり、ツインの力を認めた。


「お主が魔物を退治したことは、この目で確かめた。褒美を用意せよ!」

王が兵士たちに命じるが、ツインは静かに首を振る。


「いえ、褒美はいりません。」


その言葉に、王は三度驚く。

「褒美がいらぬと申すなら、お主はなぜこの王都に来た?何か理由があるのであろう。」


王の問いに、ツインが真剣な目で答えた。

「はい、王様。人が村や街から消えるという噂をご存知かと思います。僕はこの件に関して、魔物が絡んでいることを突き止めました。」

「なっ、なんだと!?」

王が息を呑む中、ツインは淡々と続ける。


「その魔物は影のような姿で、人を呑み込んでしまいます。実体がなく、攻撃が当たらない。時には人の体を乗っ取り、支配してしまうこともあります。」

兵士たちがざわつき、王が顔をしかめる。

「だが、核のようなものが存在し、それを破壊すれば倒すことができます。ただ、その核がある魔物は本体ではなく分身体で、大元は別にいるのです。」


「そのような魔物がこの件の裏に隠れておったのか・・・。」

王も兵士たちも、どこにいるかも素性の掴めない魔物をどうやって倒せばいいのか、戸惑いを隠せない。

ツインはそんな空気の中、静かに微笑む。


「ご安心ください。その魔物、このツインが退治してみせます。」


ツインの力をその目で知った王は立ち上がり、玉座から一歩踏み出す。


「ツインよ!そなたの力は、私を含め、ここにいる者全てが見せてもらった。人を呑み込む魔物の退治を、私が国を代表し、願いでよう!勇者ツインよ!どうかその魔物を討ち取ってきて欲しい!」


兵士たちが勇者が現れたと騒ぎ立て、城内が湧き立つ。

ツインは静かに頷き、王の願いを受け入れた。


城下町で王から餞別に貰った資金を元に魔物退治の準備を整え王都を後にする。


ツインは丘の斜面を歩きながら、手に持った小さな袋を軽く振ってみせる。

「いらないって言ったのに、結局餞別だって貰っちゃったなぁ。それにしても・・・。」

足を止めてニヤニヤし始める。

「僕が勇者だって。ね、天使様!聞こえてます?みんな僕のこと勇者って呼んでましたよ!」


ツインの呼びかけに、空に小さな窓が浮かび現れる。

窓の中から、金髪の天使が顔を覗かせる。

「はいはい、聞こえてますよ。ツイン、調子に乗らないでくださいね。」

優しそうな声だけど、どこか呆れた表情だ。


「ちょっと待ったーー!!」

いきなり俺が大声を出すと、みんながビックリしてこっちを見る。

ツインが首をかしげる。

「どうしたんだい?」

「いや・・・その・・・。」

俺が言葉に詰まると、ミミが視線をみんなに巡らせてから、俺を見て小さく首を振る。

「・・・なるほど。」

ツインは俺とミミのやり取りを見て何か察したみたいで、みんなには上手く隠しながら話を続けた。


――これはあとでこっそり聞いた話なんだけど、ツインはやはり俺と同じ転生者だったらしい。

前の世界じゃ、生まれた時から病弱で、自分で歩くことさえできなかったらしい。

それを知った天使が同情して、転生後の世界じゃ不自由がないようにって、能力と武器の二つを特別に与えてくれたらしい。

・・・どこかの堕天使とは大違いだな。

まぁ、ツインの話に戻そう。


「当たり前ですよ。あなたは能力と武器、特別に二つも得てるんですから。」

天使が窓からツインを見て、呆れ顔で言う。

ツインは笑いながら手を振る。

「みんな困ってるみたいだから、チャチャっと倒しに行こうか!」

「またそんな簡単に言う・・・。そう言っていつも無茶ばっかりして!そんなに人助けが楽しい?」


ツインは少し黙り込んで、俯いたまま口を開く。

「僕は前の世界じゃ、色んな人の助けがあって生きてたんだ。その人たちに恩返しは出来ないけど、代わりにこの世界の困ってる人たちを、一人でも多く助けたいんだ。」

その言葉に、天使が一瞬目を丸くする。

「・・・お人好しなんだから。」

そして、ニコッと微笑んでみせる。


ツインは腰の袋から世界地図を取り出し、地面に広げる。

「地図に効果を付与。影の魔物、本体の位置を示せ。」

地図の表面が淡く光り、赤い印が浮かび上がる。

印は東の大陸の荒野を示し、はっきりと点が灯った。

天使が感心したように呟く。

「本当に便利な能力。どんな物にでも、あなたが想い描いたことを付与させられるなんて。その力を使って人が消える原因は影の魔物のせいだーってことも突き止めたんですもんねぇ。」

ツインが肩をすくめる。

「まぁ、そうだけど・・・。でも制限だってありますよ。魔王みたいな強力な魔物を一撃で倒すなんてものは付与させられないし。」


天使が小さく笑う。

「それでも十分すぎる力ですよ。さて、どうするんです?その場所に行く気でしょうけど。」

ツインが地図を畳みながら立ち上がる。

「当たり前だよ。影の魔物が人を襲っているなら、放っておけない。さぁ、行こうか!」


ツインは王都を出て、東の大陸の荒野へ向かう旅路を歩んでいた。

丘を越え、森を抜け、海を越えた先にある荒れた平原を進む。

肩に掛けた袋には餞別が入っていて、少し重みはあるが、気分は軽い。

地図に浮かんだ印を目指して、一歩一歩進んでいく。


森の端に差し掛かった時、草むらから小さなうさぎがピョコっと顔を出した。

「おっ!?うさぎ?」

ツインが足を止めて驚いた表情をみせる。

「この世界にもうさぎがいるなんて、知らなかった。前の世界と同じで可愛いじゃないか。」

笑みを浮かべ、袋から干し果物を取り出す。


「おいで、お腹空いてるないかい?」

うさぎに近づいて、そっと餌を差し出す。

うさぎは少し警戒しながらも、ツインの手から果物をパクっと食べ始めた。

「ははっ、美味しいかい?」

ツインがうさぎに気を取られてしゃがんでると、背後でガサッと音がした。


「!?」

振り返る間もなく、大きな魔物が飛びかかってきた。

牙を剥いた狼みたいな魔物だ。

不意打ちをくらって、ツインが地面に倒れる込む。

「くそっ!」

剣に手を伸ばすけど、魔物が唸りながら襲いかかってくる。


その瞬間、白い影がものすごいスピードで動いた。

うさぎがツインの前を一瞬で駆け抜け、魔物に体当たり。

鈍い音が響いて、魔物が吹っ飛び、木にぶつかって気絶する。


驚きながら立ち上がり、うざぎを見つめる。


「き、君がやったのかい!?」

うさぎはツインの足元に戻ってきて、キリッとした目でこっちを見上げてる。


「僕を助けてくれたんだね。ありがとう。」

ツインがしゃがんで、そっとうさぎを抱き上げる。

小さな体は軽くて、柔らかい毛が手に触れる。

「すごいスピードだったな。君はきっと特別なうさぎなんだね。」

うさぎは喋りはしないが、ツインの手の中でじっとしていて大人しい。

「ねぇ、僕と一緒に来ないかい?君のことが気に入ったんだ。」

うさぎはツインの顔を見上げて鼻をピクピク動かしている。

「んー?オッケーなのかな?君を飼うことにするよ。名前は〜・・・。ぴょん治郎ってのはどう?」

ぴょん治郎と名付けられたうさぎは首を傾げ、腕の中から抜け出しツインの肩に跳び乗る。

「はは。僕と一緒に来るんだね。」

ツインはぴょん治郎を肩に乗せ、再び東の大陸に渡るために海に向かって歩き出した。


日が沈み、辺りが暗くなってきた頃、近くに小さな村の灯りが見えた。

「もう夜だし、今日はあそこに泊まろうか。」

ツインがぴょん治郎と村へと近づく。


だが、村に入ると少し様子がおかしい。

民家は厳重に鍵がかかり、お店も宿も厳重に鍵がかけられている。

人の気配はあるのに、扉を叩いて呼んでみても誰も出てこない。

ツインが首をかしげる。

「困ったな。一晩泊めてもらいたいだけなんだけど・・・。どうしようか?ん?」

ぴょん治郎が耳をピンと立て、周りを見てる。

「どうしたんだい?」

その時、地面から黒い霧が湧き上がった。


「!?」


ツインが剣を抜くと、霧の中から影の魔物が現れる。

黒い影が、うねるようにツインに迫ってくる。

「こ、これが噂の魔物か!」


剣を振るうが、刃は影をすり抜け、地面を叩くだけ。

ぴょん治郎が肩から飛び降り、ものすごいスピードで影に体当たりするが、通り抜けてしまう。

「くっ・・・。やっぱり核を攻撃しないとダメか。ぴょん治郎!この魔物には核がある!そこを狙うんだ!」

ぴょん治郎が何度も影に飛びかかるが全てすり抜ける。

「さすがに伝わらないよなぁ・・・。」

そうしている間に影は数を増しさらに増え続け、四方を囲むように広がる。


「くそっ、こんなに多くちゃ核を見つけたとしても倒しきれない!」

ツインが剣を構え直すが、影がじりじりと近づいてきて、影の数が増えすぎてどうにも出来ない。

ぴょん治郎もツインの足元で飛び跳ね、慌てた様子を見せる。


魔物たちがツインに襲いかかるその瞬間、眩しい光が辺りを包んだ。

「うわっ!?なっ、なんだ!?」

ツインが目を覆うと、影の魔物たちが悲鳴のような音を上げて消滅する。

光が収まり、ツインとぴょん治郎が呆然と立ち尽くす、薄目を開けると目の前には老人が立っていた。

白髪の老人で、手には不思議な石が嵌め込まれた首飾りを持ってる。

ツインが首飾りをじっと見つめる。


「あなたが僕たちを助けてくれたんですか?」

老人が頷く。

「ああ。儂はこの村の村長をやっておる。わざわざこの村を訪れた者を放っておくことは出来ん。しかし、ここ最近、影が増えてきてる。もう限界かもしれん。」

そうか・・・。

だから鍵をかけて厳重にしていたのか。


「その首飾りは・・・?」

「村に伝わる光の遺物じゃよ。影を追い払う力が秘められておる。この首飾りがなけりゃ、儂たちもとっくに影に呑まれていたじゃろう。」


ぴょん治郎が村長の足元に近づき、首飾りを鼻でクンクン嗅いでる。

ツインが笑みを浮かべる。

「その首飾りが影を倒す鍵なのかもしれないね。村長さん、僕は影の魔物を追って来たんです。僕に話を聞かせて貰えないでしょうか?」

影の魔物をと村長が驚きを見せ、そう言うことなら儂の家で話をしようと家に招いてくれた。


村長の小さな家に入ると、暖炉の火がパチパチと音を立て、薄暗い部屋を照らす。

ツインがぴょん治郎を肩に乗せたまま腰を下ろすと、村長が首飾りを机に起き、話し始めた。


「お主は影の王と呼ばれる魔物の話を聞いたことはあるかの?」

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