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影の王と兎

ヨキの記憶はいつも同じ場面で止まる。


燃える村。

叫び声が響き、黒い影が人々を飲み込んでいく。

幼いヨキは母に抱かれ、隠れていた小屋の隙間からそれを見ていた。

影は父を、友を、すべてを奪った。

最後に母が「逃げなさい!」と叫び、ヨキを突き飛ばした瞬間、影が母を覆い、赤い目が彼女を睨んだ。


ヨキは走った。

涙を流しながら、ただひたすらに。

村は灰になり、彼女だけが生き残った。

あの日から10年、影を追うため剣を手にし、復讐を誓った。



夜の街。

月が雲に隠れ、闇が濃くなる。

ヨキは剣を握り、路地を進む。

黒髪が風に揺れ、鋭い目が前方を捉える。

足音が響き、背後に気配が走る。


「そこか!!」


振り返ると、影が揺らめいている。

黒い霧が人の形を作り、赤い目が光る。

ヨキが剣を構えると、影が飛びかかる。

刃が空を切り、影が散るが、再び形を作る。


「あの時の影だけな!今日こそキサマを葬ってやる!」


あの日の影と同じ気配を感じ、彼女が斬りかかると、影が笑い声を上げ、路地の奥へ逃げる。


「絶対に逃がさない!」


ヨキが走って追う。

曲がり角に差し掛かった瞬間、影が急に加速する。彼女が剣を振り上げ、角を曲がったその時――


「うわっ!?」


珀兎が曲がり角から現れ、ヨキの剣が彼の首をかすめる。

兎が「ジャンプ」で後ろに飛び、地面に転がる。


「何!?」


ヨキが剣を止める。

兎が立ち上がり、息を切らす。

「なっ、何だよお前!いきなり斬りかかってくるとか危ねぇだろ!」


「主、大丈夫か?」

ミミが珀兎の後ろから現れる。

ヨキが二人を一瞥する。

「お前らの後ろに影がいる!どけっ!!」


珀兎が振り返るが、何も見えない。

「影って何だよ?何もいねぇじゃねぇか!」

「ふむ。ワシにも何も見えんが・・・。」


ヨキが剣を構えたまま睨む。


「見えないなら関係ない。邪魔だ!」


「おい、待てよ!何か事情があるなら話聞かせてくれよ。影って何だ?」


ヨキが冷たく返す。


「お前らには関係ない。」


俺は少し自慢気な態度をとる。

「へぇ〜。お前、こいつのこと知らねぇのか?」

ミミを指さす。

「?」

「こいつはミミだ。130年前に魔王と戦った英雄で、この街じゃ知らない奴がいねぇくらいすごい冒険者だぞ。何か妙な魔物なら、見過ごすわけにいかねぇだろ。」


ヨキがミミを一瞥する。

ミミは黙って腕を組み、静かに見返す。

その眼光に何かを感じたのか、ヨキが剣を緩める。


「・・・英雄か。分かった、話そう。」


「なら、ここじゃなんだし、ギルドに行こうぜ。何か情報があるかもしれない。」


「そうじゃな。ギルドなら色んな情報が入る。あそこで話を聞こう。」

「・・・わかった。」


ヨキをつれ、俺とミミはギルドに向かった。


ギルドに着くと、リリアンが三人を迎える。


「兎さん、ミミさん。あれ?この方は?」


「ヨキだ。影の魔物を追ってる。」

俺がヨキことを話し、ヨキから詳しく事情を聞くことにした。


ヨキが簡潔に事情を話し終える。

村を滅ぼした影、10年追ってきたことを。


「影の魔物か・・・。」


「うむ・・・。少し、気にかかるの。」


ヨキが二人を見る。


「何か知ってるのか?」

「ああ、少し前に影の魔物と戦ったことがある。」


「人間を操ってた影の魔物だ。倒しはしたけど、気味悪い魔物だった・・・。」


ミミが続ける。

「妙な気配じゃった。影の魔物は、まるで実態が無いような魔物じゃったの。」


ヨキが目を細める。


「似たような魔物だな。」


「ああ、カインの時と同じ感じがする。」

ミミも同意する。

「うむ。同じ類の魔物かもしれん。」


「リリアンさん、何か知らないか?」


リリアンさんに聞いてみると思い当たる節があるのか、顔を曇らせる。


「実は最近、夜に人が消えるって噂がありまして・・・。」


ヨキが身を乗り出す。

「どこでだ!?」

食い気味に突っかかるヨキに少し戸惑いながらリリアンさんは教えてくれた。


「街外れの古い遺跡近くです。人が消えたって話が何件か入っているんです。普段この地域には霧が出ることはありませんが、その日はやけに霧が掛かっていたらしいです。」


「霧か・・・。」

カインの時も妙な空気だったな・・・。

状況があの時と似ている。


「魔王城の移動が何かに関係してるかもしれん。影の魔物が動く理由があるはずじゃ。」

「そうだな。魔王城は東の大陸に暫く留まった後消えてしまったみたいだけど、何か関係があるかも知れない。」


ヨキが剣を握り直す。


「その遺跡に行く。」

一人で向かおうとするヨキを呼び止める。

「待てよ。一緒に行った方がいい。一人でも多い方が心強いだろ?」


「私の戦いだ。」


ヨキが返すが、ミミが口を挟む。


「ワシらが戦った影と同じなら、単純な魔物ではない。一人で行くのは危険じゃ。」


ヨキが一瞬黙る。


「勝手にしろ。だが、私の目的は変わらん。」

(私の復讐だ。こいつらと組む気はないが、情報が得られるのは確かだ。)


「あぁ、それでいい。ミミ、どうだ?」

「ワシらも一緒に行くとしよう。」


影の魔物を探るために俺たちは一時的に手を組んだ。


リリアンが心配そうに言う。

「気をつけてくださいね。霧の話以外にも、遺跡近くで変な気配を感じたって人もいて・・・。」


「なら、なおさら調べる必要がある。」


ヨキが足早に遺跡に向かおうとするが、呼び止める。

「なぁ、ヨキ。遺跡に行く前にさ、お前の村のこと少し教えてくれないか?影の魔物が襲った理由になる手がかりがあるかも。」


ヨキが一瞬足を止め、答える。


「・・・私の村があったのは、森を抜けた丘の上だ。今ではもう廃墟になってしまったが。」

「・・・廃墟か。そこに何か残ってれば、遺跡の影に繋がるかもしれない。」

ミミが頷く。

「うむ。影の魔物が村を襲った理由が分かれば、奴らの目的も見えてくるやもしれん。」


「だったらまずはそこに行こう。。」

俺たちは顔を見合わせ、街を出発した。


森を抜けると、丘の上に崩れた家々が現れる。

焼け焦げた木材と石が散乱し、風が寂しく吹き抜ける。


「ここだ。」


俺が周りを見回す。

「ひどいな・・・。本当に何も残ってない。」

ヨキが空を見上げる。


「影がすべて奪った・・・。生き残ったのは私だけだ。」


ミミが廃墟の中心へ進む。

「何か残っておるかもしれん。探してみよう。」


俺たちは手分けして廃墟を調べることにした。

倒れた柱をどかし、ミミが地面の石を払う。

ヨキはかつての自宅跡へ向かい、焼けた床板の下に手を伸ばす。

そこに、古びた木箱があった。


「これは・・・。」


ヨキが箱を開けると、中から黄ばんだ紙の束が出てくる。

古文書みたいだ。


「何か見つけたのか?」

書かれている文字は古い文字でヨキには内容が理解出来ない様子だったが、ミミがこの文字なら知っておるといい、読み上げる。


「ふむ。古代文字じゃな。」


ミミが目を細め、ゆっくり読み上げる。


「『影の王は深層に眠る。封印されし魔物なり。特定の遺物が鍵となり、その力を解き放つ』・・・。」


俺が首をかしげる。


「遺物?何だそれ?」

「この村にそんなものがあったのか・・・?」


ミミが続ける。


「『遺物は光を宿し、影を抑える。だが、失われし時、封印は揺らぐ』。ここで途切れておる。」


「光を宿す遺物か。ヨキ、村でそんなもん見たことねぇか?」


俺が聞くと、ヨキが一瞬考える。

「母が持ってた首飾り・・・。光る石がついてた。でも、あの日以降は見ていない。」


「それが遺物なら、影が村を襲った理由に繋がるかもしれん。」

「そうだなだな。影の王ってのがなんなのか分からないが、復活しようとしてるなら、その首飾りを狙ったのかも。」


ヨキが剣を握り直す。

「奴らに奪われた可能性がある!」


その時、丘の下から声が響く。


「兎さーん!ミミさーん!」

あれは・・・!?

マチとパトラが駆け上がってくる。


「二人とも、どうしたんだ?」

俺が驚くと、マチが息を切らす。

「リリアンさんに話を聞いて、私たちも影の魔物の事が気になってしまって・・・。」


パトラがヨキを見て笑う。

「へぇ、あなたがヨキね!剣の腕前すごそうだねぇ!


「黙れ。」


ヨキが冷たく返すが、マチが慌てて割って入る。

「もう!パトラさん!からかうのやめてください!ヨキさん、気にしないでくださいね。」


ヨキが一瞬マチを見るが、何も言わず目を逸らす。


「二人とも、ちょうどいい。遺跡に行く前に、この文書をギルドに持って帰るとしよう。詳しく調べる必要がありそうじゃ。」


「遺跡って、街外れの?」

「ああ。影の魔物がそこにいるっかもしれない。ヨキの首飾りもそいつが持ってるかも知れないんだ。」


「首飾りを取り返せば、手がかりになる。」

「そうだな。マチ、パトラ、二人も手伝ってくれるか?」

マチが頷き、パトラは頭の後ろに手を組みニヤついた口調でいう。

「まぁ、仕方ないね。報酬次第だけど。」


マチがヨキの張り詰めた様子を気にし、言葉かける。

「ヨキさん、そんなに肩に力を入れてばかりでは疲れてしまいますよ。少し力を抜くことも大事です。」

ヨキが一瞬驚いた顔をするが、すぐに目を逸らす。


「・・・余計なお世話だ。」


ミミが文書を手に持つ。


「影の王が何者か、遺跡で分かるかもしれん。」

俺たちは廃墟を後にし、ギルドへ戻った。


ギルドに着くと、リリアンが俺たちを出迎える。

「お帰りなさい。なにか手掛かりはありましたか?。」


俺がポケットから古文書を取り出して渡す。

「これ、ヨキの村で見つけたんだ。影の王って魔物と、遺物が関係してるらしいんだ。リリアンさん、悪いけど調べてもらえない?」


リリアンが文書を受け取り、軽く目を通す。

「影の王・・・。聞いた事がありませんね・・・。ギルドの資料に何かあるかもしれません。分かりました、調べておきます。」


ヨキが一歩進み出る。

「遺跡に影の魔物がいるなら、私の首飾りもそこにあるはずだ。すぐに向かう!」


「うむ。遺跡で何か分かるかもしれん。準備を急ぐのじゃ。」


俺たちがギルドを出ようとすると、リリアンが慌てて呼び止める。

「待ってください、兎さん!」


「ん?」

俺が振り返ると、リリアンがカウンターの下から何かを取り出す。


「これ、持って行ってください。」

「何ですかこれ?」

俺が手に取ると、リリアンが説明する。

「小型の魔法通信機器です。私と直接連絡が取れます。何か分かればこれで連絡しますから、遺跡で何かあったら教えてください。」

彼女が渡してきたのは、魔法で作られた手のひらサイズの通信機器だ。

青い石が嵌め込まれ、微かに光っている。


「へぇ、便利なものがあるんですね。」

俺が通信機器をポケットにしまう。


「よし、リリアンさんに影の王を調べてもらう間に、俺たちは遺跡に向かう準備だ。ヨキ、お前も何か必要なもんあったら言えよ。」


ヨキが首を振る。

「剣があれば十分だ。」


「分かった。みんな準備できたら出発しよう!」

「何か分かったら、すぐ通信機器で連絡します。気をつけてくださいね。」


「リリアンさん。ありがとう!」

俺が礼を言うと、リリアンが小さく微笑む。


ギルドを後にし、俺たちはそれぞれ準備を整える。


ヨキは街の門の前で俺たちが準備を整えるのを待ち、静かに精神を研ぎ澄ませていた。


「影の王・・・。キサマの正体を掴んでやる。」

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