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どうやら運だけはいいみたいです  作者: イッキ
異世界「兎」始動編
18/33

影と兎

「主ら!何か来るぞ!」

ミミが叫んだ瞬間、霧の奥からボロボロの青年が近づいてくる。

ぼさぼさの髪、破れた服、血走った目。

見た目はただのやつれた青年だが気配が尋常じゃない。

試練でルシアンやザザと戦った時以上の気配を感じる。

「コイツ・・・。嫌な気配だ。」


「・・・けて。」

小さく掠れた声で青年が何かを呟いている。

俺は距離を保ちながら聴覚強化で小さな声を聞き取ることに専念した。

青年の顔をみると、涙を流している。


「僕を・・・助けて・・・。」


「え?」

助けて?

だがその言葉とは裏腹に、青年が急に俺たちに襲いかかってきた。


武器も魔法も使わない。

素手で、異常なほどの力とスピードで殴りかかってくる。

俺は、「敏捷跳」でなんとかかわすが、拳が地面に当たり、衝撃で近くの木々が根元から折れて倒れた。

馬車がひっくり返りかえり、御者が怯えた声をあげて全速力で、この場から逃げ出した。


「なんだこいつ!?」

ミミが横から飛びかかる。

たが、青年はそれを軽く弾き返し、弾き飛ばされる。

ミミのスピードとパワーについて行くのかよ・・・!?

やはりコイツ、ルシアン達と同等かそれ以上だ。

俺は「ジャンプ」で跳び上がり様子を見た。


突然、頭にチカチカした光が走る。

「なんだこれ・・・!?」

「わしの頭にも妙な映像が・・・!?」


意識がもっていかれる・・・!

映像の中では、青年がスギサッタの村で笑顔を振りまいていた。

子供たちと一緒に野原を駆け回って、転んだ子に優しく手を差し伸べてる。

老人に収穫した果物を渡して、一緒に笑い合ってる。

村人たちから「スギサッタの光」と呼ばれ、みんなから慕われてるのが分かる。


僕のエミリー。

優しい笑顔の女性と一緒に川辺で足を浸している。「ずっとこうしていたいね。」

優しいそうな女性が幸せそうな笑顔を見せている。

「僕も、キミとずっとこうしていたい。」

青年は柔らかい表情で笑っている。

夕暮れ時、二人が村の広場で手をつないで、子供たちが歌う声を聞きながら穏やかに見つめ合ってる。


「これは・・・。コイツの過去か・・・?」


「兎さん・・・。今の映像って・・・。」

マチは震えた声で俺を見た。


さらに映像が入り込んでくる。


「ぐっ・・・。」


村の家々に炎が上がって、夜空を赤い火が染める。

青年が不気味に笑い声を上げながら、村人たちを次々と手にかけていく。

燃え盛る家々の間で、エミリーが彼を見つけて駆け寄る。


「どうしたの!?こんなのあなたじゃないわ!?」

涙を流しながら叫ぶエミリーに、青年は不敵な笑みを浮かべ躙り寄る。

彼女が泣きながら後ずさる中、その手が彼女の胸を貫いた。

「どうして・・・。カイン・・・。」

エミリーは倒れ、体が炎に包まれた。


「クククッ・・・。ハッハッハッ!!」

不気味な笑い声が村中に響き渡り、映像が終わった。


戦闘が一瞬止まって、俺たち、呆然と立ち尽くした。

「こっ・・・こいつ。村を滅ぼして、エミリーさんまでまで殺したのか?」

マチが目を押さえ、震えた声をあげる。

「なんてひどい事を・・・。」


「僕を・・・助けて・・・。」

「何!?何!?コイツ・・・!?気持ち悪いよ!」

頭を整理しようとしたが、カインがまた動き出して、泣きながら拳を振り上げてきた。


カインの拳から強烈な一撃が放たれ、みんなが吹き飛ばされた。

木に叩きつけられ、一瞬意識が飛びかけた。

何だよ、これ・・・。

なんなんだよ・・・コイツ・・・!?


体が痛い。

「みなさん、大丈夫ですか!?」

マチが俺たちの元に駆け寄り、ミミが少し離れた場所で立ち上がる。


カインは震え、泣きながら拳を握る。

「僕を・・・助けて・・・。」と同じ言葉を囁く。

さっきの映像が頭から離れない。

村を滅ぼし、エミリーさんを殺した奴が助けてだと・・・!?

「主、無事か?」

「あぁ、なんとかな・・・。」

全体回復リザレクション!」

マチが俺たちを回復してくれたおかげで、体が楽になった。


カインが涙を流しながは拳を奮う。


「兎さん、危ない!」

と素早く俺に「俊敏向上スピードアップ」を唱えてくれたおかげで避ける事ができた。

パトラが「ぶんどる」で力を奪おうとするが効果がない。

どうすればいいんだ・・・?


その時またしても頭に映像が入り込んでくる。

「クソっ・・・。またかよ・・・!?」


暗い夜の森の中だ。。

カインが一人で森を歩いている。

月明かりが薄く照らしている。

地面を這う黒い影のような魔物が背後からカインに近づいていく。

カインがその気配に気づき振り返る。


「誰だ!?」


「クク・・・。お前、幸せそうな匂いがするな。」

黒い影がカインの足元に絡みつき、体を這い上がる。

「やめろ・・・!!何だきさま!?僕から離れろ・・・!!」

手で振り払おうとすが引き剥がせない。

「抵抗は無駄だ。お前の体は俺のものだ!クク。」

強く絡みつき、影が腕に食い込む。

黒い筋が体中に広がり、胸に伸びる。

「ぐっ・・・!ぐあぁぁぁぁぁぁ!!やっ、やめろ・・・。僕の体から出ていけ・・・!」


「恐怖しろ、絶望しろ!その感情がオレ様を強くする!」


カインの指先がピクピクと動き、膝が崩れそうになる。

「まだだ!もっとオレ様に恐怖を寄こせ!」

黒い影が首まで這い上がり、目が赤く染まる。


「助けて・・・。誰か・・・。」


「この体はオレ様のものだ。クク。」

カインの意識を押し潰し、カインの体が硬直する。


映像は飛び、村が燃え上がる。

「これは、さっきの映像だ・・・。」

カインが村人たちを次々と手にかけていく。

「やめろ!やめろー!」

カインが心の中で叫び、必死に止めようとしている。

カインの絶叫が心の中で響き渡る。


エミリーさんがカインを見つけ駆け寄る。


「誰か・・・。助けて・・・。頼む・・・。彼女だけは、エミリーだけはやめてくれ・・・。」

「クク。愛する者を殺される絶望、オレ様の最高の餌だ!」

魔物はカインの手を動かし、カインの抵抗も虚しく、彼女の胸を貫く。


「うわぁーーーーーーー!」


カインの絶望の叫びが響き渡り、映像が終途絶えた。


はっ!と我に返る。

「主っ!かわせ!!」

ミミの言葉に咄嗟に「敏捷跳」で避ける。


「あっ、あぶねっ・・・。ん?マチ?」


マチが目を押さえ、涙を流している。


・・・そうだ。

さっきの映像。

カインは魔物に操られていたのか。

カインの瞳には深い苦しみが宿っていて、魔物の支配がまだ解けていないのが分かる。


マチが震える声で呟く。

「なんてひどい事を・・・。」

彼女は杖を握り、普段優しいマチの声に怒りが感じられる。

パトラは涙をこらえるように唇を噛んでいる。


「私は、あなたを絶対に許しません!」

「私は、お前を許さない!」

マチが杖を向け、パトラがナイフの切先を突き立てて激怒する。


ミミは少し離れた場所で静かにカインを見据えていた。


「主、どうする?」

どうするって・・・。

「カインを助けるに決まってるだろ!」

あんな過去を見せられたあとじゃ、立ち止まる選択肢はない。


「魔物に操られて・・・。私、見過ごせません。」

「なら、やることは一つだね。あの魔物を倒すよ!」

鋭い目でカインを見据えた。


突然、カインが両腕を広げ、黒い影が彼の体から溢れ出す。

地面から無数の触手が飛び出し、俺たちを襲う。

触手が鞭のようにしなり、俺たち目掛け遅いかかる。

「ミミ!触手を頼む!」

ミミが触手を攻撃するが、すり抜けてしまう。

「この影の触手・・・!こちらからは触れることも出来んのか・・・!?」


「カインのやつを抑えるぞ!」

左右から俺とミミが仕掛けるが、影が瞬時に反応し、触手で押し返す。


「クソッ!近づく事が出来ない!」


触手が再び襲いかかるが、回避し、距離をとる。


影がカインに纏わり付き、蠢く。

風の音と共に、彼の体から響く重い脈動が聞こえてくる。


「この影がカインを縛ってる・・・。なんとか引き剥がさないと。」


みんなに視線を向けると、全員が頷く。


「この魔物だけは、俺も絶対に許せねえ!絶対に倒すぞ!」

カインの過去を見た俺たちの中には怒りしかなかった。


ミミが一歩前に出て、低い声で言う。

「ワシらが此奴を助けてやらねば。」


影は実体がなく、触手のように伸びて直接俺たちを狙ってくる。

ミミの攻撃も、俺の攻撃も触れることすら出来ない。

「くそっ・・・!なにか手はないのか!?」


「マチ、サポート頼む!」

マチが杖を振るい、「俊敏向上スピードアップ」を俺たちにかける。

体が軽くなり、影の動きをなんとかかわす。

「これで少しは耐えられる・・・!」


「ワシが影を引きつける!主、カインに近づけ!」

ミミが飛びかかるが、影は実体がないせいでミミを無視し、俺やパトラに伸びてくる。

「だったら私が!!キミ!隙を作って!」

ナイフを投げるが、影をすり抜けて地面に刺さる。


俺は跳び上がり、カインに近づこうとするが、影が反応し、黒い波動が俺を襲う。

吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「ぐっ・・・。全くカインに近づけない・・・。」


「もう・・・終わらせてくれ・・・。」

その言葉に胸が締め付けられる。

あの映像で見たカインの苦しみ。

魔物に支配され、抵抗もできずに全てを奪われたカイン。

「お前をこんな目に遭わせた魔物を必ず俺たちが倒す!!絶対に倒すっ!!」


影が勢いを増し、俺たちを狙う。

回避し、距離を保ちながら様子をみる。


「みんなで影を叩くしかない!何か手がかりを見つけよう!」


ミミが影に飛びかかるが、すり抜けて転がる。

「ぐっ・・・。ダメじゃ・・・。」

パトラがナイフを投げ続けるが全く効果がない。

「攻撃が当たらないよ〜!!」


地面に刺さったナイフに微かな光が反射し、カインの胸元をてらす。

「なんだ・・・?」

カインの胸元で黒い影が一瞬だけ濃く蠢くのを目撃する。


「待て・・・!あそこだ!カインの胸に何かある!」

ミミが胸元目掛け消滅から突っ込む。

触手がミミを襲い、弾き飛ばす。

この時、俺はダッシュでミミの背後についていた。

ミミに攻撃が向き、ミミの後ろにいた俺を影は捉えきれていない。


影に実体はないはずなのに、かすかな抵抗を感じ、影が一瞬縮こまる。

「これだ・・・!影の核が胸元にある!」


俺はカインの胸元へ「跳兎烈蹴」を叩き込んだ。

「すまん!カイン・・・!けど耐えてくれ!!」


胸元の核に命中すると、影全体が揺らぎ始める。

マチが声が響く。

「兎さん、それ効いてます!」


影が悲鳴のような音を上げ、カインの体から溢れる黒い霧が薄れていく。

俺は蹴りの連撃を核に集中させる。

「うおぉぉぉぉ!!カインを操ってる魔物!!消えちまえーーー!!」

最後に渾身の一撃を叩き込むと、核が砕け散り、黒い霧が風に溶けた。


霧が晴れ静寂が戻り、カインがゆっくりと膝をつく。

カインは優しい笑顔で俺たちを見つめる。


「キミたちに助けを求めてよかった・・・。キミたちなら僕を助けてくれると・・・思っていたんだ・・・。」

その言葉に俺は息を整え、彼に近づく。

「カイン・・・。これで自由になれたな。」


みんながカインに駆け寄り、魔物が消滅したことを確認し安堵する。

だがその時、カインの体が手の先から徐々に崩れていく。

砂のように指が砕け、腕へと広がる。

「カイン・・・!?」


カインは静かに俺たちを見つめ、穏やかな声で呟く。


「これで・・・エミリーの所へいける・・・。エミリーは僕を・・・許してくれるだろうか・・・。」


その言葉を最後に、彼の体は完全に崩れ、砂となって風に吹かれ消滅した。


俺の体は震えていた。


「カイン・・・。お前は俺たちに助けを求めたんだな・・・。だからお前は必死に俺たちを追いかけてきたんだ・・・。」

あの映像の笑顔、エミリーさんと過ごした時間が頭をよぎる。


マチが涙を流し、空を見上げる。

「エミリーさんなら、カインさんのこと全部分かってますよね・・・。」

パトラが目を伏せ、静かに言う。

「当たり前じゃん・・・。あの二人なら大丈夫だよ。」

「言うまでもないわい。あやつらなら。」


そうだな。


今頃、二人ともきっと素敵な笑顔で笑ってるさ。

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