表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら運だけはいいみたいです  作者: イッキ
異世界「兎」始動編
15/33

サーカスと兎

ルシアン・ヴェルモンドを倒した俺たちは、隠し部屋の床にへたり込んでいた。

血と汗にまみれ、息も絶え絶えだったが、今やルシアンはパトラの下僕となった。


「新たな王、パトラ様・・・。私の忠義はあなたに捧げます」


元は魔王の側近だったルシアンが、今はパトラを王として崇めている。

俺は立ち上がりながら呟いた。

「ルシアンみたいな強敵を倒したんだ。俺たちでもこの先、通用するかもしれないな。」

「そうだね、私は執事ゲットしたし!」

パトラは笑い、ミミが魔王の実力はこんなものではないわい、と冷静に言った。

ルシアンを倒したことで、少し自信が湧いてきた。


「休息を取ったら出るぞ。」

俺がそう言うと、皆が頷いた。

マチが回復魔法を唱えてくれて、体力が回復し、疲労もすっかり取れた。


彼女の魔法は傷だけでなく疲れも癒す優れものだ。


パトラがルシアンに見張り頼むよと命じると、かしこまりました、パトラ様と一礼し、隠し部屋の入り口に立った。

銀髪を整え直し、モノクル越しに鋭い視線で周囲を監視する。

俺たちは壁に寄りかかって休息を取った。

まだまだ何が待ち受けているか分からない。

ここで気を抜くわけにはいかない。


しばらくして、俺たちは立ち上がった。

部屋を見回したが、お宝の様なものは特に何もない。

「ルシアン。この部屋にはお宝とか何かないのか?」

「何もございませんよ。」

「・・・。」

なんの為にあったんだよ、この部屋。


行くぞと声をかけ、隠し部屋を後にした。

ルシアンが先頭に立ち、「こちらでございます、パトラ様。」

魔王城の構造はこのルシアンが熟知しておりますと案内を始めた。


彼の説明によると、魔王城は巨大な円形の要塞だ。

北側に魔王の玉座があるらしい。

隠し部屋は東の回廊に位置し、俺たちは今、中央へと向かう途中だ。

回廊には魔物の群れや側近が配置され、罠や仕掛けも多いらしい。

「東回廊は比較的穏やかですが、北側に近づくほど敵は強くなります。ご用心を。」

ルシアンが説明を淡々と告げた。

さすがに魔王の側近だけあって詳しいな。

パトラがさすが私の執事だよ。

得意げに言い放つ。


東回廊を進むと、魔物の群れが襲ってきた。

馬面の逆ケンタウロスや、牙を剥く狼型の魔物、影のように蠢く小型の魔物たちだ。

パトラがルシアン、やっちゃって、と命じる。


「かしこまりました、パトラ様。」

黒い風を放ち、一瞬で魔物を一蹴した。


味方になるとこんなに頼りになるのか。

ありがたい。


俺たちはその後を進み、ルシアンの力に頼りながら東回廊を抜けた。


東回廊を抜けると、広大な中央ホールにたどり着いた。

天井は高く、柱には不気味な彫刻が刻まれている。


「ここは魔王城の中枢に近い場所。魔王の玉座は北の回廊の先でございます。」


すると、ホールの奥から甲高い笑い声が響き、新たな敵が姿を現した。


そいつは異様なピエロだった。

全身がピンクと黒の縞模様で覆われ、顔は白塗りに赤い鼻と裂けた口元が不気味に笑う。

目は黒く塗り潰され、瞳がないように見え、頭には歪んだ赤いリボンが揺れている。

両手には巨大なハンマーを握り、足元には血のように赤い風船が漂う。


「キヒヒヒ! キミたち、お客さんだねぇ! ボクの楽しいサーカスにようこそぉ!」


甲高い声で叫びながら、ハンマーを振り回して不気味に踊り始めた。

ふざけた態度だが、その動きには異常な速さと力が宿っている。


ルシアンを見て、ザザは目を細めた。

「おやおやぁ? ルシアンじゃないかぁ! キミ、僕と同じく魔王様の側近だったのに、寝返ったのぉ!? キヒヒヒ! おもしろいねぇ、裏切り者って大好きだよぉ!」

不気味に笑いながらに言った。


「一緒に魔王様の悪ふざけに付き合った仲だったのにさぁ、寂しいなぁ。」

と付け加え、歪んだ笑顔を浮かべた。


「ザザ、貴様とは確かに旧知の仲だが、私は今、パトラ様に忠誠を誓っている」

ルシアンが淡々と答えた。


「パトラ様、あれは魔王の側近、ピエロットのザザ。ふざけておりますが、極めて危険でございます。」

パトラが私を守ってねと命じると、ルシアンはかしこまりましたと前に出た。


「みなさん、気をつけてください!」

マチが杖をを構えた。

ミミがふざけた奴じゃ、と冷静に呟く。


俺は、「ジャンプ」の準備をした。

こいつ、見た目は不気味でふざけているが、要注意だ。


ザザがショータイムだよぉ!と叫び、ハンマーを振り上げた瞬間、衝撃波が広がり、俺は横に跳び回避する。

ミミが跳び上がり、蹴りを繰り出したが、ザザは高笑いする。

「!?」

体がゴムの様に伸びる。

「うひゃひゃ! くすぐったいねぇ!」

笑いながらハンマーを振りかぶる。

ミミはその動きを読み、回避して距離を取った。


「パトラ様、お下がりを!」

黒い風で衝撃を防いだ。

「キヒヒ! 血風船!」

赤い風船を投げつけ、それが爆発してルシアンを吹き飛ばした。


「ぐっ・・・。」

「ルシアンか大丈夫か!?」

ルシアンは問題ございませんと立ち上がった。


俺はザザの側面に回り込み、「スクラッチ」で胴体を切り裂こうとした。

だが、ザザはうわぁ! 危ない、危ない!と大げさに叫びながら、体をゴムのように伸ばして攻撃をかわし、逆にハンマーで俺を叩き返した。


「ぐっ・・・!」


地面に叩きつけられ、息が詰まる。

パトラがルシアン、援護!と命じ、彼が黒い風を放ったが、ザザは赤い風船を盾にして防いだ。


「キヒヒ! ぜんぜぇん効かないよぉ!」


マチが「補助魔法・防御強化シールド!」を唱えてくれたが、ザザの次の攻撃が速すぎる。


「ハンマーダンスだぁ!」


叫びながら、ハンマーを振り回し、床を砕き、衝撃波を連発してきた。

俺は跳び上がり、衝撃波を避けつつ「蹴り」を叩き込んだが、ザザのゴムのような体が衝撃を吸収する。


「ざんねぇ〜ん!」


笑いながら反撃の風船を投げてきた。

俺はそれを回避し、距離を取った。


攻撃は聞いていないが大丈夫だ。

なんとか戦いに付いていけてる。


ミミがザザの背後に回り込み、蹴りを放つが、ザザは体を伸ばして回避する。


「まだまだ、もっと遊ぼうよぉ!」

赤い風船を飛ばして爆発させた。

ミミはかわし、冷静に位置を調整した。


「こいつ、厄介だな。」


「スクラッチ」で足元を狙い、さらに跳び上がってよろめいているところに蹴りを叩き込む。


痛いよぉ!と叫びながらも、体を伸ばしてダメージを軽減し、ハンマーを振り回してくる。


「みなさん、大丈夫ですか!?」

マチが回復魔法をかけてくれた。

パトラが吹き飛ばされ、ルシアンが庇う。


ザザの強さは見た目に反して異常だ。

不気味にふざけた態度で踊りながらも、その攻撃は速く、力強く、防御も完璧だ。

「パトラ様、こやつはふざけておりますが、私でも攻撃の予測がつかない強敵でございます。」


「不気味すぎるし、強すぎるぞ・・・。」


「まだまだ、もっと、も〜っと!たのしもうよぉ!」

ハンマーを振り上げ、ホール全体が震えた。

赤い風船が一斉に浮かび上がり、不気味な笑い声が響き渡る。

俺たちは散り散りに避けた。


中央ホールに響き渡るザザの不気味な笑い声と、赤い風船が漂う異様な光景の中、ルシアン戦と同等の苦戦が予想された。

だがルシアンを倒した自信が、俺たちにわずかな希望を与えている。


「キヒヒヒ! 楽しんでくれているかい?」

赤い風船が膨張し、不規則に爆発を始めた。

俺は「ダッシュ」で爆風を避けつつ、ザザの腕を狙った。

「うひゃひゃ! 当たらないよ〜。!」

体を伸ばして回避し、巨大なハンマーを振り下ろしてきた。

ぐっ・・・!かわしきれない・・・!!


ハンマーの先からカラフルなリボンが飛び出す。


「何だこれ・・・!?」

ダメージは全くない。

「キヒヒ! ボクの華麗な技はどうだい?楽しいだろぅ?」

ザザが得意げに笑う。


ミミが、正面から蹴りを胸に繰り出す。

「キヒヒ! キミたち踊ってるみたいだねぇ!」

笑いながらハンマーを振り回すが、ミミはその動きを読み、回避した。

パトラがルシアン!と命じ、ルシアンは黒い風を放つ。


「懐かしい技だねぇ、ルシアン!」

笑いながら赤い風船を盾にし、防いだ。

「ザザ、貴様とのくだらないお遊びにはもう飽きた。」


マチが「補助魔法・俊敏強化スピードアップ!」を唱え、俺たちの動きが加速する。

俺はザザに接近し、胴体を蹴り上げる。


「うわぁ! 痛いよぉ!」


大袈裟に叫びながら風船を投げてきたが、俺は「ジャンプ」で回避した。


「キヒヒ! さぁ、楽しいサーカスもそろそろ終盤だよ。」

ハンマーを地面に投げつけると、床から紙吹雪がボンッと飛び出した。


「なんだこれ!?目眩しか!?」


「うひゃひゃ! 綺麗だろ〜!」

笑いながら体を伸ばして攻撃してきたが、ハンマーを振り回す勢いでリボンが飛び出し、自分のリボンが絡まる。


「うわっ、やっちゃった!?」 


その隙を見逃さず、俺は跳び上がり、「跳兎列蹴」を叩き込んだ。


ルシアンが黒い風でザザの動きを抑え込む。


「キヒヒ! 楽しいねぇ!」


「キヒヒ! さぁ、フィナーレだぁ!」

体を伸縮させ抜け出し、ハンマーを振りかざし、風船を一斉に爆発させた。

ホールが揺れ、床にひびが入る。

爆発の中から大量のシャボン玉が飛び出す。


「こいつ・・・。ふざけているのか、攻撃なのか検討がつかない!」


俺は「ダッシュ」で接近し、蹴りとばす。

ザザの派手な攻撃が続く中、俺はひび割れた床に目がいった。


「そうだ!!」


「マチ、床に強めの一発を頼む!」

俺の指示に彼女は静かに頷き、杖を振りかぶる。

「みなさん、気をつけてくださいね!」


マチが杖を床に叩きつけると、地響きと共にホール全体が崩れ落ち、巨大な亀裂が走った。


「キヒヒ! 何っ!?」

足元が不安定になり、ザザがよろめいた。


「うわっ、ボクの舞台が台無しだよぉ!」


今だ、ミミ!と叫び、俺とミミが左右から同時に仕掛けた。

俺は「ダッシュ」で左側から、ミミは右側から「跳兎列蹴」をぶち込んだ。


「キヒ・・・。痛いねぇ・・・。」


ハンマーを落とし、膝をついた。


「フィナーレだよぉ・・・。ルシアン、楽しかったよぉ。」

ザザが歪んだ笑顔で呟き、赤い風船が弾けてシャボン玉と共に消えかけたその瞬間、パトラがナイフを取り出す。


「私の出番ね!」


すかさず、ザザの胸を一刺した。

崩れた床の瓦礫の中で、俺たちは息を整える。

ザザが立ち上がる。


「新たな王、パトラ様。これからボクの芸はキミにささげるよぉ〜!」

「・・・。」

ルシアン同様、ザザが仲間になった。

「私の頼れるしもべがまた増えたね! 」


「ルシアンを倒した俺たちなら、こいつも倒せるって信じてたさ。」


強敵との連戦続きだが、俺たち確実に強くなっている。


このまま、魔王だって倒してやる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ