サーカスと兎
ルシアン・ヴェルモンドを倒した俺たちは、隠し部屋の床にへたり込んでいた。
血と汗にまみれ、息も絶え絶えだったが、今やルシアンはパトラの下僕となった。
「新たな王、パトラ様・・・。私の忠義はあなたに捧げます」
元は魔王の側近だったルシアンが、今はパトラを王として崇めている。
俺は立ち上がりながら呟いた。
「ルシアンみたいな強敵を倒したんだ。俺たちでもこの先、通用するかもしれないな。」
「そうだね、私は執事ゲットしたし!」
パトラは笑い、ミミが魔王の実力はこんなものではないわい、と冷静に言った。
ルシアンを倒したことで、少し自信が湧いてきた。
「休息を取ったら出るぞ。」
俺がそう言うと、皆が頷いた。
マチが回復魔法を唱えてくれて、体力が回復し、疲労もすっかり取れた。
彼女の魔法は傷だけでなく疲れも癒す優れものだ。
パトラがルシアンに見張り頼むよと命じると、かしこまりました、パトラ様と一礼し、隠し部屋の入り口に立った。
銀髪を整え直し、モノクル越しに鋭い視線で周囲を監視する。
俺たちは壁に寄りかかって休息を取った。
まだまだ何が待ち受けているか分からない。
ここで気を抜くわけにはいかない。
しばらくして、俺たちは立ち上がった。
部屋を見回したが、お宝の様なものは特に何もない。
「ルシアン。この部屋にはお宝とか何かないのか?」
「何もございませんよ。」
「・・・。」
なんの為にあったんだよ、この部屋。
行くぞと声をかけ、隠し部屋を後にした。
ルシアンが先頭に立ち、「こちらでございます、パトラ様。」
魔王城の構造はこのルシアンが熟知しておりますと案内を始めた。
彼の説明によると、魔王城は巨大な円形の要塞だ。
北側に魔王の玉座があるらしい。
隠し部屋は東の回廊に位置し、俺たちは今、中央へと向かう途中だ。
回廊には魔物の群れや側近が配置され、罠や仕掛けも多いらしい。
「東回廊は比較的穏やかですが、北側に近づくほど敵は強くなります。ご用心を。」
ルシアンが説明を淡々と告げた。
さすがに魔王の側近だけあって詳しいな。
パトラがさすが私の執事だよ。
得意げに言い放つ。
東回廊を進むと、魔物の群れが襲ってきた。
馬面の逆ケンタウロスや、牙を剥く狼型の魔物、影のように蠢く小型の魔物たちだ。
パトラがルシアン、やっちゃって、と命じる。
「かしこまりました、パトラ様。」
黒い風を放ち、一瞬で魔物を一蹴した。
味方になるとこんなに頼りになるのか。
ありがたい。
俺たちはその後を進み、ルシアンの力に頼りながら東回廊を抜けた。
東回廊を抜けると、広大な中央ホールにたどり着いた。
天井は高く、柱には不気味な彫刻が刻まれている。
「ここは魔王城の中枢に近い場所。魔王の玉座は北の回廊の先でございます。」
すると、ホールの奥から甲高い笑い声が響き、新たな敵が姿を現した。
そいつは異様なピエロだった。
全身がピンクと黒の縞模様で覆われ、顔は白塗りに赤い鼻と裂けた口元が不気味に笑う。
目は黒く塗り潰され、瞳がないように見え、頭には歪んだ赤いリボンが揺れている。
両手には巨大なハンマーを握り、足元には血のように赤い風船が漂う。
「キヒヒヒ! キミたち、お客さんだねぇ! ボクの楽しいサーカスにようこそぉ!」
甲高い声で叫びながら、ハンマーを振り回して不気味に踊り始めた。
ふざけた態度だが、その動きには異常な速さと力が宿っている。
ルシアンを見て、ザザは目を細めた。
「おやおやぁ? ルシアンじゃないかぁ! キミ、僕と同じく魔王様の側近だったのに、寝返ったのぉ!? キヒヒヒ! おもしろいねぇ、裏切り者って大好きだよぉ!」
不気味に笑いながらに言った。
「一緒に魔王様の悪ふざけに付き合った仲だったのにさぁ、寂しいなぁ。」
と付け加え、歪んだ笑顔を浮かべた。
「ザザ、貴様とは確かに旧知の仲だが、私は今、パトラ様に忠誠を誓っている」
ルシアンが淡々と答えた。
「パトラ様、あれは魔王の側近、ピエロットのザザ。ふざけておりますが、極めて危険でございます。」
パトラが私を守ってねと命じると、ルシアンはかしこまりましたと前に出た。
「みなさん、気をつけてください!」
マチが杖をを構えた。
ミミがふざけた奴じゃ、と冷静に呟く。
俺は、「ジャンプ」の準備をした。
こいつ、見た目は不気味でふざけているが、要注意だ。
ザザがショータイムだよぉ!と叫び、ハンマーを振り上げた瞬間、衝撃波が広がり、俺は横に跳び回避する。
ミミが跳び上がり、蹴りを繰り出したが、ザザは高笑いする。
「!?」
体がゴムの様に伸びる。
「うひゃひゃ! くすぐったいねぇ!」
笑いながらハンマーを振りかぶる。
ミミはその動きを読み、回避して距離を取った。
「パトラ様、お下がりを!」
黒い風で衝撃を防いだ。
「キヒヒ! 血風船!」
赤い風船を投げつけ、それが爆発してルシアンを吹き飛ばした。
「ぐっ・・・。」
「ルシアンか大丈夫か!?」
ルシアンは問題ございませんと立ち上がった。
俺はザザの側面に回り込み、「スクラッチ」で胴体を切り裂こうとした。
だが、ザザはうわぁ! 危ない、危ない!と大げさに叫びながら、体をゴムのように伸ばして攻撃をかわし、逆にハンマーで俺を叩き返した。
「ぐっ・・・!」
地面に叩きつけられ、息が詰まる。
パトラがルシアン、援護!と命じ、彼が黒い風を放ったが、ザザは赤い風船を盾にして防いだ。
「キヒヒ! ぜんぜぇん効かないよぉ!」
マチが「補助魔法・防御強化!」を唱えてくれたが、ザザの次の攻撃が速すぎる。
「ハンマーダンスだぁ!」
叫びながら、ハンマーを振り回し、床を砕き、衝撃波を連発してきた。
俺は跳び上がり、衝撃波を避けつつ「蹴り」を叩き込んだが、ザザのゴムのような体が衝撃を吸収する。
「ざんねぇ〜ん!」
笑いながら反撃の風船を投げてきた。
俺はそれを回避し、距離を取った。
攻撃は聞いていないが大丈夫だ。
なんとか戦いに付いていけてる。
ミミがザザの背後に回り込み、蹴りを放つが、ザザは体を伸ばして回避する。
「まだまだ、もっと遊ぼうよぉ!」
赤い風船を飛ばして爆発させた。
ミミはかわし、冷静に位置を調整した。
「こいつ、厄介だな。」
「スクラッチ」で足元を狙い、さらに跳び上がってよろめいているところに蹴りを叩き込む。
痛いよぉ!と叫びながらも、体を伸ばしてダメージを軽減し、ハンマーを振り回してくる。
「みなさん、大丈夫ですか!?」
マチが回復魔法をかけてくれた。
パトラが吹き飛ばされ、ルシアンが庇う。
ザザの強さは見た目に反して異常だ。
不気味にふざけた態度で踊りながらも、その攻撃は速く、力強く、防御も完璧だ。
「パトラ様、こやつはふざけておりますが、私でも攻撃の予測がつかない強敵でございます。」
「不気味すぎるし、強すぎるぞ・・・。」
「まだまだ、もっと、も〜っと!たのしもうよぉ!」
ハンマーを振り上げ、ホール全体が震えた。
赤い風船が一斉に浮かび上がり、不気味な笑い声が響き渡る。
俺たちは散り散りに避けた。
中央ホールに響き渡るザザの不気味な笑い声と、赤い風船が漂う異様な光景の中、ルシアン戦と同等の苦戦が予想された。
だがルシアンを倒した自信が、俺たちにわずかな希望を与えている。
「キヒヒヒ! 楽しんでくれているかい?」
赤い風船が膨張し、不規則に爆発を始めた。
俺は「ダッシュ」で爆風を避けつつ、ザザの腕を狙った。
「うひゃひゃ! 当たらないよ〜。!」
体を伸ばして回避し、巨大なハンマーを振り下ろしてきた。
ぐっ・・・!かわしきれない・・・!!
ハンマーの先からカラフルなリボンが飛び出す。
「何だこれ・・・!?」
ダメージは全くない。
「キヒヒ! ボクの華麗な技はどうだい?楽しいだろぅ?」
ザザが得意げに笑う。
ミミが、正面から蹴りを胸に繰り出す。
「キヒヒ! キミたち踊ってるみたいだねぇ!」
笑いながらハンマーを振り回すが、ミミはその動きを読み、回避した。
パトラがルシアン!と命じ、ルシアンは黒い風を放つ。
「懐かしい技だねぇ、ルシアン!」
笑いながら赤い風船を盾にし、防いだ。
「ザザ、貴様とのくだらないお遊びにはもう飽きた。」
マチが「補助魔法・俊敏強化!」を唱え、俺たちの動きが加速する。
俺はザザに接近し、胴体を蹴り上げる。
「うわぁ! 痛いよぉ!」
大袈裟に叫びながら風船を投げてきたが、俺は「ジャンプ」で回避した。
「キヒヒ! さぁ、楽しいサーカスもそろそろ終盤だよ。」
ハンマーを地面に投げつけると、床から紙吹雪がボンッと飛び出した。
「なんだこれ!?目眩しか!?」
「うひゃひゃ! 綺麗だろ〜!」
笑いながら体を伸ばして攻撃してきたが、ハンマーを振り回す勢いでリボンが飛び出し、自分のリボンが絡まる。
「うわっ、やっちゃった!?」
その隙を見逃さず、俺は跳び上がり、「跳兎列蹴」を叩き込んだ。
ルシアンが黒い風でザザの動きを抑え込む。
「キヒヒ! 楽しいねぇ!」
「キヒヒ! さぁ、フィナーレだぁ!」
体を伸縮させ抜け出し、ハンマーを振りかざし、風船を一斉に爆発させた。
ホールが揺れ、床にひびが入る。
爆発の中から大量のシャボン玉が飛び出す。
「こいつ・・・。ふざけているのか、攻撃なのか検討がつかない!」
俺は「ダッシュ」で接近し、蹴りとばす。
ザザの派手な攻撃が続く中、俺はひび割れた床に目がいった。
「そうだ!!」
「マチ、床に強めの一発を頼む!」
俺の指示に彼女は静かに頷き、杖を振りかぶる。
「みなさん、気をつけてくださいね!」
マチが杖を床に叩きつけると、地響きと共にホール全体が崩れ落ち、巨大な亀裂が走った。
「キヒヒ! 何っ!?」
足元が不安定になり、ザザがよろめいた。
「うわっ、ボクの舞台が台無しだよぉ!」
今だ、ミミ!と叫び、俺とミミが左右から同時に仕掛けた。
俺は「ダッシュ」で左側から、ミミは右側から「跳兎列蹴」をぶち込んだ。
「キヒ・・・。痛いねぇ・・・。」
ハンマーを落とし、膝をついた。
「フィナーレだよぉ・・・。ルシアン、楽しかったよぉ。」
ザザが歪んだ笑顔で呟き、赤い風船が弾けてシャボン玉と共に消えかけたその瞬間、パトラがナイフを取り出す。
「私の出番ね!」
すかさず、ザザの胸を一刺した。
崩れた床の瓦礫の中で、俺たちは息を整える。
ザザが立ち上がる。
「新たな王、パトラ様。これからボクの芸はキミにささげるよぉ〜!」
「・・・。」
ルシアン同様、ザザが仲間になった。
「私の頼れるしもべがまた増えたね! 」
「ルシアンを倒した俺たちなら、こいつも倒せるって信じてたさ。」
強敵との連戦続きだが、俺たち確実に強くなっている。
このまま、魔王だって倒してやる。