魔王の側近と兎
俺の召喚した巨大な石像が、ルシアン・ヴェルモンドの片腕であっさり粉々に砕かれた瞬間、背筋が冷たくなった。
みんなも一瞬息を呑む。
マチは杖を握り直し、パトラはナイフを構え、ミミは鋭い目をルシアンに向けた。
こいつ、強いなんてもんじゃない。
「どうぞ、お気をつけくださいませ。魔王様を倒しに来た不届き者たちよ、私がこの場で排除させていただきます。」
ルシアンが一礼しながら言った。
その声には冷徹な決意が宿り、不敵な笑みが張り付いている。
ルシアンはこの試練で作られた存在だと知らず、純粋に魔王を守る使命を果たそうとしている。
「みなさん!私がサポートいたします!」
マチが杖を掲げて構える。
マチの僧侶としての補助魔法が頼りだ。
「補助魔法・活力増進!」
マチの魔法により体が少し軽くなった気がした。
パトラが行くよ!と逆ケンタウロス型の使役魔物をけしかける。
もう出てきた。
あんまり見たくなかったんだが。
魔物が突進したが、ルシアンは軽やかに身をかわす。
「そのような獣では、私の服を汚すこともかないません。」
次にミミが動いた。
高速で飛びかかり、拳を振り下ろした。
だが、ルシアンは一瞬で背後に回り、翼から黒い風を放つ。
「お客人の動き、速すぎて目が回りますねぇ。」
と言いながら、ミミを壁に叩きつけた。
「ミミ、大丈夫か!?」
「まだまだ問題ないのじゃ。」
と返ってきたが、壁にひびが入るほどの衝撃だ。
ミミがおされている・・・。
状況がまずい。
俺はルシアンの動きを観察した。
必ず隙があるはずだ、一瞬を見極めるしかない。
「みんな、俺の合図で一斉に仕掛けよう!」
ルシアンがミミに黒い風を放った瞬間、俺は「ジャンプ」で空に飛び上がり、「蹴り」を頭に叩き込んだ。
マチが「補助魔法・俊敏強化!」で加速させ、パトラが「馬面、突っ込め!」と魔物をけしかけ、ミミが蹴りを連打した。
「これは、これは。不届き者どもの連携、見事でございますねぇ。」
ルシアンは、俺の蹴りを片腕で受け止めると同時に、黒い風でミミと魔物を吹き飛ばし、パトラを翼の先で弾き返した。
「手荒な攻撃ですねぇ。」
息を乱す様子もなく、冷たく言い放つ。
強さの底が知れない。
地面に着地し、マチが俺たちに回復魔法を唱える。「みなさん、お怪我はありませんか?」
パトラがナイフを構え、ミミがまだまだ、と息を整えた。
ルシアンはモノクルを直す動作をみせる。
「お見事でございます。魔王様をお守りするため、本気で排除せねばなりませんねぇ。お覚悟を。」
さらに空気がさらに重くなる。
「魔王様への忠義、お見せいたします。」
翼を広げた瞬間、黒い風が渦を巻き、部屋全体が震えた。
ミミが突っ込んだが、ルシアンは片手で腕を掴みむ。
「失礼ながら、野うさぎには爪切りが必要ですねぇ。」
そのまま床に投げ飛ばした。
ミミが床に叩きつけられ、衝撃で床が砕ける。
パトラが「馬面、援護!」と魔物を突進させたが、黒い風で吹き飛ばされ、パトラ自身も吹き飛ばされた。
マチが「補助魔法・防御強化!(シールド)」と唱えたが、ルシアンの次の攻撃が速すぎる。
翼から黒い羽根が矢のように飛んできて、俺は「ジャンプ」で避けたが、パトラが引っかかり転んだ。
パトラに駆け寄り、起こす。
ミミが立ち上がり、背後から拳を振り下ろした。
ルシアンは両腕を広げ、黒い風の渦を強化させる。
「その程度では私には届きませんよ!」
ミミを巻き込んだ。
俺は新スキル「ダッシュ」を試した。
瞬発力を活かし、一瞬で渦の横に回り込んで蹴りを叩き込んだ。
だが、ルシアンは素早く翼を振って俺を弾き返す。
「粗末な足技ですねぇ。」
軽くあしらわれ、壁に叩きつけられる。
ここまで圧倒的に強いのか・・・!?
俺たちの攻撃が全く届かない。
「魔王様を守るため、不届き者どもに慈悲はございませんよ。」
冷たく言い放ち、翼を一振りしただけで黒い風が刃のように部屋を切り裂いた。
壁が崩れ、天井が落ちかけ、俺たちは散り散りに吹き飛ばされた。
ミミが膝をつき、パトラが叫びながら壁に叩きつけられ、マチが吹き飛ばされる。
俺は「ジャンプ」で瓦礫を避けたが、次の攻撃がすぐさま来た。
黒い羽根が雨のように降り注ぎ、俺の腕をかすめて血が飛び散った。
「こいつ、強すぎるぞ・・・!」
俺は歯を食いしばった。
ルシアンは黒い風を再び放った。
今度は竜巻のような勢いで、ミミに襲いかかる。
なんとかミミは抑え込もうとするが。
「堪えきれんのじゃ・・・!?」
吹き飛ばされ、壁に激突して動かなくなった。
パトラも共に吹き飛ばされ、肩を押さえて膝をついた。
「みなさん、すぐに回復します!」
回復魔法をかけてくれたが、ルシアンの猛攻が止まらない。
「そのような小細工、無意味ですよ!」
杖を握るマチの手を黒い風で切り裂き、マチが倒れ込んだ。
俺は「ダッシュ」で距離を取ったが、ルシアンの視線が俺を捉えた。
「逃がしはしません!」
翼を広げた瞬間、黒い風が俺を直撃し、地面に叩きつけられ、骨が軋む音がした。
「ぐあっ・・・!」
みんな次々と倒れ、俺の攻撃もまるで通じない。
このままじゃ全滅だ。
「この程度で魔王様に挑もうとしていたのですか?」
黒い風を放とうとした瞬間、俺は「ダッシュ」で接近し、新スキル「スクラッチ」を放った。
うさぎの鋭い爪を模した動きで側面を切り裂こうとしたが、一瞬で防がれた。
無駄です!
逆に俺を吹き飛ばした。
「・・・っ!」
だが、その瞬間、俺は何かを感じた。
あいつの黒い風を放つ動作、その直後に一瞬だけ体が硬直する。
あそこだ!
でも、まだ届かない。
俺たちの力じゃ足りない。
ミミが立ち上がり突っ込む。
「愚かな抵抗です!」
黒い風で弾き返し、ミミを再び床に叩きつけた。
パトラがナイフを投げたが、翼がそれを弾き返し、腕に傷を負わせた。
俺は「ジャンプ」で跳び、「蹴り」を叩き込んだが、受け止められる。
「その程度ですか?」
冷たく言い放った。
何度も立ち上がり、何度も倒される。
ルシアンの強さは絶望的だ。
だが、戦いが続く中で、俺はその硬直の瞬間を何度も確認した。
「みんな、あの風を放つ瞬間を狙うぞ。そこが唯一の隙だ!」
「なるほど・・・。お主、良い観察力ではないか。」
「最後まで行くよ・・・。」
パトラ立ち上がり、マチが私もまだ大丈夫です、と杖を握り直した。
「最後の仕上げをいたしましょうか。」
ルシアンが翼を広げた瞬間、黒い風が竜巻のように襲ってきた。
部屋が崩壊し、瓦礫が飛び散る。
マチが「補助魔法・防御強化!」を唱え、俺たちを強化する。
黒い羽根がマチの肩を貫いた。
俺は「ダッシュ」で回避しつつ、動きを見極める。
再び黒い風を放とうとしたその刹那、俺は「ダッシュ」で一瞬にして接近し、「ジャンプ」で跳び上がり「跳兎烈蹴」を叩き込んだ。
翼が広がり、体が硬直した瞬間だ。
ミミが横から突っ込み、パトラが魔物をけしかけた。
「こっコレは・・・!?」
ルシアンの反応が僅かにだが間に合わない。
俺の「跳兎烈蹴」が頭を直撃し、ミミの高速で繰り出される鋭い蹴りが翼を切り裂き、魔物が足に噛みついた。
「くっ・・・今のは少し効きましたよ。」
ルシアンがよろめいた。
だが、すぐに立ち直り、まだ終わりではございません。
黒い風を放ち、俺たちを再び吹き飛ばした。
「今の全部喰らってまだ立つのかよ・・・。」
俺は最後の力を振り絞り立ち上がる。
黒い風を放つ瞬間、俺は「ダッシュ」で接近し再び、「跳兎烈蹴」を叩き込む。
さっきの攻撃が効いているのか、俺の蹴りをかわしきれない。
腹部に命中し、吹き飛ばす。
「終わりじゃ!」
ミミの激しい蹴りの猛襲がルシアンを襲う。
「ぐあぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
「まさか・・・。この私が、このような不届者たちに・・・。魔王様・・・、お役目を果たせず申し訳ありません・・・。」
黒い風が消え、翼がボロボロになり、灰となって崩れ落ちる。
「えい。」
すかさずパトラがナイフをルシアンに突き刺す。
いや、それはどうなんだろう・・・。
トドメになるのか?
完全に崩れ落ちている途中だったが・・・。
「おぉー!新たなる我が王よ!これからは私に何なりとご命令ください。」
今のでいいんかい!
ルシアンが新たに使役された。
でもこれは心強い味方が増えた。
パトラのやつ、このまま魔物たちを従えていくと、俺たちの中で最強になるんじゃないか?