魔王城と兎
「神器〜。神器〜。」
パトラはご機嫌で、神器の力を目の当たりにしてかなり期待を持ったようだ。
確かにあんな力を見れば期待は高まる。
この先に二つ目の神器がある。
バカみたいな力だが、今度はどんな神器なんだろうか。
「やったーーー!!」
神器を目にしたパトラが喜びを隠せない。
台座には禍々しい見た目のナイフが飾られている。
私が貰ってもいいよね?
口にはしていないが目力がそう告げている。
俺たちの中でナイフを扱えるのはパトラだけだし、有無を言わずに決まりだな。
そう言えば聞いたことが無かったけど、パトラの職業ってなんだろう?
パトラが台座からナイフを手にする。
何だか呪われそうな見た目だが、大丈夫なのか?
「なぁ、パトラ。この際だから聞くけどお前の職業ってなんなんだ?」
「あれ?私、みんなに言ってなかったっけ?私はハンターだよ!」
ハンター。
主にモンスターの狩猟や追跡、捕獲をする役割の職業だな。
でも、俺と合流する前に泣きながらモンスターに追いかけて回されていたような・・・。
逆に狩られそうだったぞ。
まぁ、いいか。
「で、ミカエル。もちろんこの神器の効果も。」
「もちろん内緒。」
さっき、ほとんど教えてくれたようなもんじゃないか。
さて、お次は。
第三の試練だ。
みんなの準備も良さそうし、パトラが人一倍張り切っている。
俺は台座の前に立ち、第二の試練の部屋の時と同様に台座を押し込む。
「・・・ん?あれ?押せない。」
「おーい。あんた何やってるのー?次の試練はこっちよー。」
「・・・。」
もし神とやらにも会うことがあったら絶対に一発、殴ってやる。
みんなここに立ってと言われ、指示されたところに立つ。
「私はここで待ってるから頑張って来てねー。」
「え?は?おい!」
ミカエルが俺たちから距離を取った瞬間、勢いよく床があがり、上に運ばれる。
この床、リフトになっているのか!?
天井が開き、俺たちはどんどん上層へと運ばれる。
この神殿ってこんなに広かったのか!?
て言うかこれ、どこまで上がるんだ!?
次の天井が開き、上がると神殿の外が見えた。
ここは!?
真っ白の空間。
俺がミカエルに初めて会った時と同じような場所だ。
ここが天界なのか・・・。
って、どこまで行くんだよこれ。
神殿を出ても止まることなく上がり続ける。
どんどん神殿は小さくなり見えなくなったころに停止した。
第三の試練はこんな所で行われるのか?
こんな狭い足場で何が始まるんだ。
足場から光が放たれた瞬間、空間にフィールドが生成される。
「なんだ!?」
「なにか、お城のような物が造られていきます。」
「なになになに!?何が起きるの!?」
「!?」
ミミが何かに気が付いた様子だ。
「まさか、これは!?」
城・・・?どこだ、ここは。
不気味な霧が立ち込めており、雷鳴が響き、近づく者を威圧する雰囲気が漂ってる。
城は巨大で威厳に満ち、黒い石や鉄で作られた堅牢な構造になっている。
「魔王城じゃ・・・!?」
「なっ!?魔王城!?」
ここが魔王城だって!?
「魔王城とは言っても今の魔王がおる魔王城ではない。ここは、先代の魔王が巣食っておった魔王城じゃ。」
先代の魔王・・・。
ミミが参加した戦い、魔大戦の頃の魔王ってことか。
第三の試練。
魔王城を攻略せよ。
このフィールドは当時と同様に生成されています。
試練の内容は魔王討伐となります。
モンスターや魔王も当時と同様の力で配置しておりますので、十分に注意を払って攻略して下さい。
ゲームのチュートリアルみたいな説明の出し方してんじゃねぇよ!
なんだよ当時と同様って!?
魔王城ってラストダンジョンじゃねぇか!
さっきまでの気の抜けた試練はなんだったんだよ。
それにあのバカ天使・・・。
こうなることが分かってて来なかったんだな。
「なぁ、ミミ。」
「聞こうとすることは大体わかるが、なんじゃ。」
「魔王ってどれくらい強かったんだ?やっぱりとんでもない化け物なのか・・・?」
ミミが口籠る。
「ワシは英雄と呼ばれてはおるが、他に二人おったのはお前も知っているであろう。」
「あぁ。魔大戦の時に一緒に戦ったんだよな?」
「そうじゃ。共に戦った。その時に魔王に深傷を負わせることは出来たが、それはワシら三人だけの力だけではない。他にも数多くの冒険者たちのサポートがあってからこそ深傷を負わせることが出来たのじゃ。」
ワシ一人では到底太刀打ち出来ないと聞かされ、俺たち三人は物怖じしてしまった。
それを俺たちだけで攻略しないといけないって事なんだよな。
二つの神器があるとはいえ、まだ一つの効果も分かってないんだ。
こんなの無理ゲーじゃないか。
やはり俺たちにこのダンジョンは早すぎたんだ。
ドスンと城内から何かが段々と近づいてくる足音が聞こえる。
「みな、構えよ!考えるのは後じゃ。何か来よるぞ!」
薄暗い城内から馬の顔をした魔物が姿を現す。
馬の顔だ・・・!?
あれはもしかして・・・。
「ケンタウロス!?」
「お主、よく知っておったな!油断するなよ。かなりの強敵じゃぞ。」
クソって、魔王の城にもってこいの魔王ってことか。
・・・って?あれ?
ケンタウロスって頭が人で、下が馬じゃなかったっけ?
魔物が城内から出切った所でハッキリと姿を捉えることができた。
頭は馬、手は無く、頭から脚がはえている。
「いや、逆!!逆だから!!それもうケンタウロスに全部いい所持っていかれてるから!!」
ケンタウロスは俺たちを見るなり地面を強く蹴る。
「避けろ!」
ミミの言葉に咄嗟に俺はジャンプで回避する。
ミミも二人を抱え、ジャンプで高く跳びあがる。
ケンタウロスは城門に頭が突き刺さり、ぶつかった城門は粉々に砕け散っていた。
なんてスピードとパワーだ。
あんなのまともに喰らったら、跡形も残らないぞ。
体制を整えないと。
しかし、これは。
・・・プッ。
「ハハハハハッ!!」
ダメだ、可笑しすぎて頭が回らない。
「主人、何を余裕そうに笑っておるのじゃ!そんなヌルい相手ではないぞ!」
だって・・・。
頭が突き刺さって、もう尻しか見えてないじゃん。
ケンタウロスは脚をバタバタ動かして這い出ようとしている。
やめてくれ・・・。
頼むから脚をバタバタさせないでくれ・・・。
笑い過ぎて過呼吸気味になる。
ケンタウロスが瓦礫から這い出て来た時、ミミはすかさず攻撃を仕掛ける。
光速で放たれる蹴りが命中する。
怯んだところをすかさずマチが追撃し、杖を頭目掛け振り下ろす。
強力な一撃にケンタウロスがよろめいた所に。
「とどめー!」
パトラが新たに得た神器のナイフで貫いた。
ケンタウロスは完全に沈黙し、戦闘に勝利した。
結局、俺はまた何も出来なかった。
「お主、もっと気を引き締めよ。倒すことは出来たがこの先、少しの油断が命取りになるぞ。」
すいません・・・。
「どうじゃ、パトラ?神器の感触は。」
パトラはナイフを見つめたあと、軽く素振りをしてみせる。
「ん〜。全然、今まで使っていたナイフと同じ感覚。マチみたいにスーパーパワーが出せたって訳でもないし・・・。なにか発動条件みたいなものがあるのかなぁ。」
確かに普段と変わりなかったな。
どんな効果があるんだ?
俺たちが立ち去ろうとした時、ケンタウロスが背後で立ち上がった。
「なっ!?」
「此奴、まだ生きておったのか!?」
・・・ん?
立ち上がったケンタウロスは襲いかかってこない。
パトラの前に静かに歩いていく。
「ちょっと、なになになに!?」
パトラの前で立ち止まり、スッと方膝を付いてひざまづく。
「え?なに!?」
ケンタウロスはパトラのナイフに吸い込まれていった。
「これって、どういうこと?」
これは、倒した魔物を使役し、呼び出したりする事が出来る効果だろう。
これならこちらの手数も増やす事が出来る。
有効的な効果だ。
でも、呼んだらまたアイツが出てくるのか・・・。
それはちょっと、・・・プッ。
ダメだ、考えないようにしよう。
気を引き締めなおし、俺たちは城内に足を踏み入れた。
そう言えば俺も石像を呼び出せる事を忘れていた。
ここならアイツの力を試すにはいいかも知れない。
次は使ってみるか。
城内は物々しい空気が漂っている。
至る所で危険察知が反応し、進むことに躊躇ってしまう。
特にあそこだ。
隠し部屋がある。
明らかにやばい何かが居る・・・。
完全に罠だ。
ここはスルーして先に進んだ方がいい。
「あっ、みんなー!あそこに隠し部屋があるよー!」
おいっ!?
「私、スキルで隠し部屋とか、隠れたアイテムを探知出来るようになったんだー!隠し部屋なんて絶対お宝があるよー!行ってみよー!」
「パトラ!その部屋はダメだ!」
「え?」
俺の静止も間に合わず、パトラは隠し扉を開いてしまった。
「なんだ!?かっ、体が・・・。」
みんな隠し部屋に引き寄せられていく。
俺たちは部屋の中に閉じ込められてしまった。
「これはこれは。ようこそおいで下さいました。」
魔物だ。
長身で痩せ型、漆黒の燕尾服に身を包み、真紅のネクタイを付けている。銀髪をオールバックに整え、片目にモノクルを着けている。瞳は深紫色で、背中にはコウモリのような翼が畳まれている。
コイツ、俺でもヒシヒシと感じる。
強いなんてもんじゃない・・・。
「私、ルシアン・ヴェルモンドと申します。魔王様の身の回りのお世話を任されております。以後、お見知りおきを。」
魔王の側近ってことか。
試してみるか。
「こい!」
俺はベルを取り出し、石像を召喚する。
「・・・お主。いつのまにこんなやつを従えておったのじゃ。」
「へへっ。見直しただろ。俺だっていつまでも弱いままじなないんだ。石像!コイツを倒してくれ!」
「了解した。」
「これは、これは。いけませんねぇ。魔王様の城に飾るには不向きですね。お片付け致しませんと。」
石像が巨大な拳をルシアン目掛けて振り下ろす。
「!?」
その巨大な拳を華奢そうに見える片手で受け止めて見せる。
「やはり、この程度ではここには必要ありませんね。消えて下さい。」
ルシアンが力を込めた瞬間、石像は粉々に砕け散ってしまった。
「冗談だろ・・・!?」
あの石像が瞬殺!?
「フフッ。」
不敵に笑って見せるルシアンには余裕さえ見えた。