力と兎
この先に一つ目の神器があるのか。
神器って本来、勇者が手にするものなんじゃいのか?
俺、勇者の道を辿ろうとしてませんか?
職業はなんだか訳も分からない「ラビット」ですよ。
なんですかそれ。
それにコイツ、ミカエルから与えられた物。
うさぎのしっぽでっせ。
動物愛好家からしたらこんな物持ってる俺が魔王ですよ。
冒険者ならまだしも勇者って荷が重過ぎて嫌なんですけど。
なんかいつの間にか魔王を倒すのが目的みたいにされてるし。
異世界に行くとは言ったけど、魔王を倒すとは言ってないぞ。
倒せとも言われてかったよな?
俺まだ倒したモンスターって言えばザリガニ少数とセミ一匹ですよ。
冒険者としてまったり暮らしたい。
願わくば冒険者じゃなくて一般人、いや、村人Aでもいいんだけど。
「ついたわよ!」
俺が現実逃避を行なっている間に神器がある部屋にたどり着いた。
神器はガラスケースに入れられ厳重に保管されている。
これじゃあ、博物館の展示物扱いだ。
「ほう。コレが神器とやらか。そんな大層な代物には見えんが、どれどれ。」
「あっ、ちょっと待って!」
ミミが神器に手を伸ばそうとした時、ミカエルが止めに入る。
「どうしたのじゃ?」
「えっと、神器は全部で四つあるんだけど。一人一個しか取ることが出来ないのよ。だから、誰が取るかは慎重に選んだ方がいいと思うわよ。」
一人につき、一つ?
俺たちはうまい具合に四人のパーティでここに来たが、もしソロでここまで来るやつがいたらどうするつもりだったんだ?
神ってヤツはそこまでちゃんと考えていないんだろうか・・・?
「ふむ。だったら、マチ取るがよい。」
マチが驚きを見せる。
「わっ、私がコレをとってもいいんですか!?」
「何を言っておる。この中でコレを扱えそうな者と言えば、お主しかいないであろうに。」
ガラスケースの中に大事そうにしまわれている神器は杖。
俺たちのパーティで魔法職なのは僧侶のマチだけだ。
確かに、コレは俺たちが手にしても扱えないな。
「それを手にするのはマチが適任だと俺も思うぞ。」
「では・・・。私が取らせていただきますね。」
マチがケースを開け、神器の杖を手に入れた。
「ミカエル。あの杖ってどんな効果があるんだ?神器ってことはとんでもない効果みたいなのがあるんだろ?」
ここを管理しているミカエルなら神器の効果も知っているだろうと小声で聞いてみた。
「それは使ってからのお楽しみでしょ。」
意味深なことを言うやつだな。
「どうじゃ?何か特別な力を感じるか?」
「いえ、普段の杖を持っている時と大した違いがあるとは思えないんですが・・・。」
今はまだ、この神器にどのような効果があるのか分からないか。
いずれ分かる時が来るだろう。
「さぁ。一つ目の神器も手に入ったし、次は第二の試練よ!」
どうしてコイツはこんなに張り切ってるんだ。
もうお前が神器を取って魔王と戦ってくれ・・・。
俺たちが移動しようとした時、ミカエルが止めに入る。
「ちょっと、ちょっと。どこに行くの?第二の試練はこの部屋よ!」
「はっ?この部屋?」
そういうとミカエルは神器が飾られていた台座を押し込んだ。
それスイッチなんかいっ!
床から勢いよく上に向かって何かが現れる。
気が付かなかったが、部屋の天井がやけに高い。
いや、高いなんてもんじゃ無い。
肉眼で確認する事が出来ない。
下から伸びた何かも上が見えなくなっている。
だがコレが現れた時、最上部に付いている物は一瞬捉える事が出来た。
「鐘が見えたような・・・。」
上までは等間隔に目盛があり、鉄球が設置され叩くと鉄球が上に跳ね上がるようになっている。
「これって。もしかして遊園地とかでたまに見かける・・・。」
「さぁ、コレが第二の試練よ!ぶっ叩いて、一番上に取り付けられた鐘を鳴らすことが出来ればクリアよ!チャンスは第一の試練と同じで五回しか出来ないから気をつけてね!」
ハンマーゲーム!?
おいおい神様・・・。
試練の内容が個性的過ぎるって。
「ほう。面白い。」
ミミ・・・。
結局お前が全部終わらせる気がするぞ。
ミミが高く跳び上がり全力で叩く。
様子見じゃなく、最初から終わらせるつもりでいってるな。
まぁ俺達からすればありがたいんだけど。
鉄球が凄まじい勢いで射出される。
鉄球は一瞬で見えなくなり、俺たちは耳を澄ませる。
が、鐘は鳴らず鉄球が落ちて来た。
「ミミ。手加減しなくても思いっきりやっていいぞー。・・・?」
ミミが上を見上げている。
「・・・本気でやった。」
「え?」
「ワシは今、手を抜かず全力でやったのじゃ。」
「冗談でしょ・・・!?」
「見ていたが、半分も届いておらんかったぞ。」
おいおい。
冗談じゃないぞ・・・。
ミミが全力でやって半分って事は、あとの俺たちじゃ突破出来ないぞ。
パトラも続いて挑戦してみたが言わずもがな・・・。
俺も新しいスキルを覚えたことだし、やってみるか。
でも普通にやってもミミでも無理だったんだ。
届く訳ないよなぁ。
準備運動をしながら、どうするか考えているとマチの杖が視界に入る。
「これだ!!なぁ、マチ!!俺に攻撃と俊敏のバフをかけて貰えないか!」
「兎さん!!名案ですね!!」
マチにバフをかけてもらい、準備万端だ!
「ふむ。主人にしては考えおったのぉ。」
「うっし!ジャンプ!!」
レベルも上がりステータスが上がったおかげでいつもより体が軽く感じる。
俊敏性が上がっているおかげで加速力が向上され、今までに跳び上がった事のない高さまで俺は到達出来た。
俺の体はかなりのスピードに乗り落下する。
この高さから落ちるスピードに回転を加えて、覚えたスキル「蹴り」を組み合わせて・・・。
「跳兎烈蹴!!」
うぉっ!?
自分でも驚く。
最高の手応え!
「えっ!?すごっ!?」
これにはミカエルも驚いていた。
俺だって成長してるんだよ。
鉄球はミミがやった時に引けを取らない勢いで上がった。
しかし鐘の音は聞こえず鉄球は落ちて来た。
「くそー・・・。最高の感触だったんだけどなぁ。ミミ、今のどれくらいまで上がった?」
「ワシの少し上くらいじゃの・・・。」
ミミは少し悔しそうだ。
「よっし!でもこれならミミがマチにバフをかけて貰えば大丈夫そうだな!」
三回失敗してるが次で行けそうだな。
マチにお願いして、ミミを強化してもらう。
「ワシとしては不服じゃが仕方ないの。」
自分自身の力ではないとこに不満気な様子だったが、この方法にかかっている。
お前が頼りなんだ。
ミミ、頼んだぞ。
ミミは跳び上がる。
どこまで跳び上がったかは、もう俺の肉眼では捉える事は出来ない。
「・・・来た!!」
速い。
さっきとは比べ物にならないスピードだ。
力も上がっている。
これなら間違いない!
行ける!
ミミが体に捻りを加える。
おい・・・。
「跳兎烈蹴!!」
俺の技だ。
「ふむ!コレはなかなか良い技じゃ!」
でも、これは確実にいった!
俺たちは期待して鐘の音に耳を澄ませる。
「ダメじゃ・・・。」
「えっ?」
「あと少し、届いておらん。」
冗談だろ?
今のでダメなのか・・・!?
これじゃあ、あとは何をやったって無理じゃないか。
チャンスはあと一回しか無いんだぞ。
どうすればいいんだ。
「なぁ、ミカエル。もしあと一回も失敗だったらどうなるんだ?」
「えっと、転移魔法で強制的に外に出されるわね。」
やっぱりそうなのか。
「外に出されたら戻ってくる事は出来ないのか?」
「無理だと思う。ここに入ってから、一度でも外に出てしまえば二度と戻れないようになってるはずよ。」
どうしてそんな設計にしたんだよ・・・。
バカ神め。
手詰まりだった。
強化したミミでも鐘には届かなかった。
四人で意見を出し合ってみたが、これ以上の方法が何も思いつかない。
「ミミにもう一度かけてみるか?次はもっと本気でやれば。」
「さっきも本気じゃったわい。ワシとしてもタイミングも完璧に捉えた手応えがあった。しかし、届かなかったのじゃ。悔しいがの。」
「ねぇ。あなたはやらないの?」
ミカエルがマチを指差す。
またコイツは何を言い出すんだ。
「わっ、私ですか!?」
「だって他のみんなはダメだったんでしょ?」
「私も無理ですよ。みなさんより力はありませんし、私がやっても失敗するだけです・・・。」
どう見ても一番非力なマチに出来るわけないだろ。
どんな無茶振りしてんだよ。
・・・もしかして。
ミカエルの方を見ると俺に向かってウインクしている。
・・・マジかよ。
「マチ。やってくれ。」
三人が俺の突拍子のない言葉に驚く。
「兎さん!突然どうしたんですが?私の力じゃパトラさんにも及びません。やるだけ無意味ですよ!」
「いや、マチなら出来ると思う。」
困惑するマチとみんなを無理矢理説得し、ラストチャンスはマチが挑戦することになった。
「お主、何を考えておるのじゃ?マチの力では・・・。」
「まぁ見てろって。」
「ほっ、本当に私でいいんですか?どうなっても知らないですよ。」
あたふたするマチに声をかける。
「マチ!全力でぶっ叩け!!」
分かりましたよとマチは杖を大きく振りかぶる。
やっぱり神ってヤツは本当にバカだ・・・。
普通、魔法を使うヤツには魔力があがる武器とかを渡すもんだろ。
マチが振り被った杖が鉄球を打ち上げる的目掛け振り下ろされる。
魔法使いは魔法を活用する事が主体で、その大体が非力で力は弱い。
マチの杖が命中する。
その瞬間、部屋の床が地割れが起こったようにヒビ割れ、砕け散る。
「きゃっ!?」
マチが、いや、マチだけじゃない。
みんな目が飛び出てしまうほど驚いている。
非力な魔法使いの力を補うために、純粋に力を増幅させる神器だなんて。
なんてバカな考えなんだ。
それにしてもこれは・・・!?
力与えるにしてもこれはやり過ぎだろ!?
部屋の床に大きな亀裂が入り底が見えない。
これからは絶対にマチを怒らせないようにしよう・・・。
ミカエル、いつもは何の役にもたたないが今回ばかりはナイスだ。
「助かったよ、ミカエル。・・・あれ?どこ行った?」
「たすけでぇーー!!」
亀裂にぶら下がり今にも呑み込まれそうだ。
・・・お前もここまでは予想してなかったんだな。
ミカエルを引っ張り上げ、部屋を後にした。
とりあえず、第二の試練も突破した。