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時間はない。

「すまないがお前のトリックを見る余裕なんてない、初日に学校に遅れたら先生に目を付けられちまう」

 俺はそう言ってジュリアンをポケットから出し、竜頭を回す。

「俺の出番だぁぁぁぁ!!」

 ジュリアンはそう叫ぶと世界は色をなくし、人々は完全に止まり。

 そして俺だけが動ける時間が作られた。

 外の土から水を吸い上げて槍を作り、マジシャンとやらの胸を貫く。

 男の胸からは血すら出ない、時間が動いていないからだ。

 それから俺はユアの隣に行き、彼女の肩にそっと手を当てる。時間を戻すトリガー、それが俺の合図だ。

 再び時間が再生される。

 ユアは俺が突然彼女の隣にいることに驚き、俺のいた方向とは反対に、反射的に少し跳んだ。

「そうびっくりすんなって」

 俺はそう言って前を見ると槍に刺さったままの男をがいる。

 血は、出ていない。

「いっえーい。おっれのトリックには驚いたかな」

 後ろから声がした。

 ソファーでフェリックスの隣に座っていたのは、さっき貫かれたはずの男だった。

「幸い、トリックには大量のマネキンをつっかう。だから持ってきてたんだ、いっぱいね」

 男はそう言って玄関の前にいる刺されたからだを指さす、確かにあれは砂で作られたマネキンだった。

 砂は貫かれたところから少しずつ落ちて、玄関を汚す。

「どうっかな、来週ショーをするっんだ、君たちもきてみたいと思えるような体験をしてもらえたかな? そろそろ本気で行きまっすか。」

 そういって立ち上がる。

 エイチは背中の刀を抜き。

 フェリックスはもともと俺のものだった銃を男に向ける。

 ユアも静かに右足を引き、両手を顔の前に構える。

 突然玄関の貫かれたマネキンが動き出す。

「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」

 マネキンから声がした。

「そうっだ。おっれのマネキンは仏教なんだよっね」

 男が言ったとたんにマネキンは俺の首を強く握りしめてきた。

 反応する隙もない。

「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」

 マネキンの中で砂が擦る音を立てながら少しずつ力をもっと入れてくる。

 足をパタパタさせると持ち上げられていることに気が付いた。

 とっさにユアが反応する。

 右のこぶしに黒魔術をまとってマネキンに攻撃をする。

 腹の部分を殴られたマネキンは一瞬動きが止まるも、すぐにまた始動した。

「あんたなんかに、触らせないッ!」

 連続のパンチでマネキンを止めようとするユア。

 しかしマネキンはまるでパンチバッグのように少しだけ揺れて、また動き始める。

 胸は貫かれたままで、まだ砂が出ている。

 それだ。

 中身の砂を取ってしまえば、こいつの”肉”がなくなる。

 動けなくなるんだ。

 右手を前にかざし、外にある土からまた水を吸い取ろうとするがなにもできない、力が出ない。

 苦しい。

 そう思っていると突然一帯が霧に囲まれた。

 ―あたりが急に静かになる。砂の音すら聞こえない。

 霧の中、何かが――いや、“誰か”が、いる。

「人形遊びは相当楽しいんだろうな」

 霧の中からエイチの声がした。

「しかしここで終わりにしてやる。」

 霧の中から走ってくる足音が聞こえる。

「五月雨豪は、斬るためにある。」

 エイチはそう言って霧の中から姿を現し、マネキンを真っ二つに斬ると握っていた力は弱くなり地面に落ちた。

 床は砂だらけになり、砂の上には木綿で作られたマネキンの”肌”が落ちる。

 俺は解放された。

 最初にしたことはキッチンの水道を開けることだった。

 蛇口をひねって、冷たい水を手で感じる。

 手を首に当て、絞められた首が徐々に回復するのを感じる。

 蛇口を開けたままにしていつでも水を引き出せるようにした。

 そして、男はまだソファーに座っている。

 相当、負けない自信があるのだろう。

「マネキンが死んじゃったぞ」

 銃を構えたフェリックスが男になめた態度をとりながらそういう。

 銃を少し揺れさせ、余裕を見せた。

「何個もあるってさっき言っただっろ」

 手に持っていた帽子をソファーの上に置いてから、こういった。

「しかっし、マジシャンというのはいちいち同じトリックを見せるのもつまらなっくなる」

 もう片方の手にあった棒で帽子をつつくと中から鳩が飛んできた。

 鳩は白く、部屋を回って飛び始める。

 もっともっと帽子をつつき、鳩がもっともっと出てくる。

 しかし、この鳩。

 何かが違う。

 少し黄色い感じもした。

 羽を動かし、回って飛んでいると砂が鳩から落ちてくることに気が付いた。

 やがて鳩の数は増え、部屋中どこを見ても鳩がいた。

 すべての鳩はまるで竜巻を作るように一方方向に飛び続け、強い風の流れが構築される。

 これは、やばいのかもしれない。

 鳩から落ちた砂はさっきのマネキンの砂と同じだ。

 まさかだが、この鳩は本物の鳩ではなく、鳩の形をしたマネキンなのではないのだろうか。

 羽音が耳を打ち続ける。

 バサッ、バサッ、バサッ――それが何十、何百ともなれば、もう風の音にしか聞こえない。

 数はさらに増え、今度は壁にぶつかったり、エイチの剣にぶつかって真っ二つになる鳩さえも現れる。

 ぶつかってくる鳩は非常に力強く、彼はもう自分で飛んでいるんじゃなくて、竜巻の風に任されて加速しているのがわかる。

 エイチはこの砂ぼこりと鳩のパーティーの中で耐え、鳩を斬って竜巻を止めようとする。

 しかしそれはかなわなかった。

 逆に砂が増え、目に入ってくるようになる。

 さっきまで開いていたはずの水道からは水ではなく、砂が出てきている。

 銃声が鳴ると一つの銃弾が割れるのが見えた。

 割れる。とは半分に割れて二つになる、ほどのものではなく。

 もっと大量に割れて小さな粒になり、鳩を追いかける。

 貫かれる鳩は床に落ちる。

「鳩は小さい、それなのであれば小さい銃弾でも十分ダメージを通せる」

 フェリックスはそう言ってまた一発撃った。

 銃弾はまた割れ、鳩を個別に追いかける。

 やがて鳩は消えて、残ったのは砂だらけになった部屋と。

 拍手する男だった。

 風は止まり、部屋の中は男の拍手以外。何も聞こえなかった。

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